38 内部崩壊
「殺すだと……正気かサルタナ」
「ちょっと! 頭イカレちゃったんですかサルタナさん!」
「ははは何言ってんだよ。正気じゃないのはお前らだろ。俺の事をパーティから追放するなんてよぉ」
感情の込められていない、壊れた人形のような声を出すサルタナ。
「パーティから追放するなんて一言も言ってないのにぃ……。被害妄想で殺しに来るなんて、貴方相当ヤバい人だねぇ……」
「なんとでも言えよ。捨てられるくらいならこっちから切り捨ててやる。俺がお前らを捨てる事はあってもな……逆はありえねぇーんだよ!!」
洗練された素早い動きで一気にスカーレットたちとの距離を詰めたサルタナは、無駄のない太刀筋の鋭い斬撃を放つ。常人では到底反応できないであろうサルタナの一太刀を止めたのは、サルタナ同様、人間離れした才と強さを持つスカーレットだった。
「やるな。やっぱお前は一筋縄じゃいかねぇわ」
「今の一撃といい、さっきの一撃といい……本気の殺意だったぞ、サルタナ!」
「そりゃ殺すって決めたんだから当然だろ?」
「……もうやるしかないようだな。ノア、リンリン! サルタナを止めるぞ! 手伝ってくれ!」
「もちぃ!」
「すいませんサルタナさん! 本当はやりたくないんですけどここでぶちのめします!」
そう言ったリンリンはその場で立ち止まり、大きく深呼吸をする。
「スキル『憤怒の極意』!」
直後。リンリンの体から、凄まじい勢いで深紅の熱気が放たれる。
ビキビキッ! とリンリンの筋肉が、血液が沸騰しているかのように脈打っていく。
「出やがったか『憤怒の極意』。怒りの感情と共に身体能力を極限まで高めるスキル……改めて、いいモン持ってやがる」
「うるせぇな! お前リーダーぶってるけど全然器じゃねぇからな!!」
『憤怒の極意』の副作用で、普段とは打って変わって荒々しい口調のリンリンは、全身の力を脚に集中させ、爆発的な脚力でサルタナの元へと高速で移動する。
「サルタナ! お前が辞めてもレッドホークにはなんのダメージもねぇんだよ!」
目にも止まらぬ速度で、弾丸のような拳を機関銃の如く放ち続けるリンリン。しかし、サルタナはこれを見切り、斬撃を連続で放つことで防ぐ。
「はっ! 聖剣と殴り合える拳なんざ、聞いた事ねぇよ!」
「うるせぇな! 防ぐのに必死なくせにかっこつけてんじゃねぇよ! さっさとボコられろナルシスト!」
拳と聖剣が交わるたびに、巨大な衝撃波が地面を削っていく。
「全く……このままじゃダンジョンが崩壊しちゃうでしょー。『雷魔法・イナズマザムライ』」
ノアの詠唱と共に青い電撃の剣が11本、サルタナ目掛けて放たれる。電光石火で放たれた攻撃がサルタナの胴体を貫い──
「はっ、甘ぇよノア!」
11本の電撃は、突如地面から現れた巨大な岩の壁によって行く手を阻まれてしまった。
「今のは土属性魔法……。無詠唱で発動できるなんて、まるでテッドみたい……」
「くははっ。負ける気がしねぇ……力が溢れてきやがる」
悪辣な笑みと共に、どす黒い殺気を放つサルタナ。リンリンの拳の連撃を受け流し、ターゲットをノアへと切り替える。
「しまっ──」
「まずは一匹ィ!!」
急所を的確に狙った、容赦のない斬撃がノアを襲う。距離を取っているからか、ノアは油断して反応が遅れてしまう。
「死ねや──」
「『竜炎獄突』」
直後。業火を纏いしスカーレットの突き攻撃がサルタナに直撃する。炎剣の突きをモロに食らってしまったサルタナは何十メートルも吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に激突する。
「助かったぁ! ありがとうスカーレット!」
「あぁ……だが、サルタナは大丈夫だろうか……」
仲間を助ける為とはいえ、同じ仲間に全力の攻撃をしてしまった事を少し心配するスカーレット。
だが──
「あぁー死ぬかと思った。やっぱ竜騎士の一撃は効くなぁ……。ひでぇじゃねぇかスカーレットォ。ヒャハはは」
「サルタナ……その姿は」
「あァ?」
何事もなかったかのように起き上がったサルタナだったが、その姿は以前のサルタナとは少し異なっていた。肌は薄黒く変色しており、歯の一部が獣の牙のように鋭くなっている。さらに、眼球の一部までもが黒紫色に変化しており、その姿はまるで……
「……なんですかあれ、まるで悪魔じゃないですか」
「憤怒の極意」を解除したリンリンが怯えた様子でそう言った。スカーレットも同様、異形の者と化したサルタナの姿に驚きを隠せない様子。
「何よぉ……このステータス」
悪魔のような姿となったサルタナを見て、再び「鑑定」を発動させるノア。そこに表示されていたステータスは、かつてのものとは、またさらに異なっていた。
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名称:サ??ナ
ランク:??
属性:??
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「名前の一部までもが文字化けしてる……いやそれだけじゃない。これじゃまるで、モンスターや魔族のステータス表記みたいな……」
「おイおイ。俺がモンスターだトでも言いてぇのかノア。いくラなんデもヒデェじゃねェかァ……クソッ! なんだコレ……意識がモウローとしヤがる……グゲ」
普段の声に獣の唸り声が混じったかのような、奇妙な声質でそう語るサルタナ。
「アァくそ。今度は頭がイタクなってきやがった! チクショウ! これも全部テメェらが俺を裏切っダゼイだガラなァ!!」
「サルタナ……お前は一体、何者なんだ……」
「クケケ……仕方ねェ、一旦中断だ。今日のトコロはこの辺にしておいてヤル。だが覚えてオケ。お前らは絶対に俺の手で殺してやル。俺を捨てたコト……絶対に後悔させてやるからナァ!」
「ふざけないでよぉ! 話し合いを放棄して私たちを切り捨てたのは貴方の方でしょ!」
ノアのそんな叫びも虚しく、サルタナは人間離れした脚力でダンジョンの壁と壁を跳躍しながら、暗闇の奥へと消えていった。
「サルタナ……」
悪魔のような姿となったサルタナを遠目で追いつつも、「レッドホーク」の3人は、ただ茫然と立ち尽くすしかなかったのだった。
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