37 転生
それは、テッドたち『バイオレットリーパー』が南ゴルゴン山へ到着したのとほぼ同時刻の事。サルタナたち『レッドホーク』は高レベルのダンジョンにて、レベル上げの為にひたすらモンスターを倒し続けていた。
「すみませんスカーレットさん! レベル100に到達するなんて、本当凄いですよ! 本当は思ってないですけど!」
「あ、ありがとう。思っていないなら口に出さなくていいんだぞリンリン」
Aランクのモンスターを数体倒したところで、スカーレットのレベルがついに100へと到達したのである。
「レベル100になったって事は、スカーレットは『転生者』になったって事ぉ?」
のんびりとした口調でノアがそう問いかける。
「どうやらそうみたいだな。私の脳内での話だが、ついさっき『継続』か『転職』の2択を迫られたところだよ」
「ふぅん。それでスカーレットはどっちを選んだのー?」
「無論『継続』だ。他の上級職も魅力的ではあったが、レベル1からやり直すのは流石に面倒くさいからな」
この世界では、レベル100に到達した者、またはレベル100を超える者を「転生者」と呼ぶ。レベル100に到達した際、「転生者」は以下の2択を迫られる。
・「継続」……現在の職業を継続させる事。これまでのステータス、スキル、魔法を引き継ぐことができる。レベル100以上で取得できるスキルもある為、現在の職業をさらに極める事ができる。
・「転職」……新しい職業に転職する事。この際、「通常職」だけでなく「上級職」に就く事も可能。ただし、転職した場合、レベルは1に戻り、ステータスも初期値へと戻る。尚、前職で得たスキルや魔法は「副職」として引き継がれ、使用する事ができるが、今後のレベルアップによって「副職」に関する新たなスキルや魔法を得ることはできない。
「まぁ確かに『転職』してレベル1からやり直しってのは面倒だよねぇ。しかもスカーレットは生まれつき上級職の『竜騎士』だし、『転職』する理由はほぼ見当たらないよねぇ」
「あれ。という事は、他の人がスカーレットさんと同じ領域まで『竜騎士』を極めようとしたら、合計でレベル200分上げなきゃいけないって事ですか!?」
「そうなるな。私はレベル1から『竜騎士』だったが、基本的に他の者が『竜騎士』に就くにはレベル100に到達しなければならないからな」
「すいません。本当は思ってないんですけど、スカーレットさんって才能の塊みたいな人ですね!」
「あ、ありがとう……」
本心ではどう思っているのかよく分からないリンリンの言葉に、なんとなく礼を言っておくスカーレット。それと同時に、少し後ろの方で呆然と立ち尽くしているサルタナへと目を向ける。
「サルタナ、大丈夫か?」
「……あ? 何がだよ」
「七幻魔の一人を倒したあの日から、ずっと様子がおかしいぞ。何かあったのか?」
「……何もねぇよ」
「確かにそうですよね! あの日からずっと元気が無いし、やけに戦闘にも消極的になってるし……そんなにレベルが100に上がらない事が不満なんですか? 本当は思ってないですけど、サルタナさんって結構幼稚な人ですね」
「何もねぇっつってんだろ!! ぶっ殺すぞ!!」
青ざめた表情でリンリンに怒鳴るサルタナ。その様子を見て、ノアがリンリンを庇う様に一歩前へ出る。
「サルタナ……何か隠し事してない?」
「あ? 隠し事ってなんだよ」
「あの日からずっとおかしいと思ってたんだよねぇ。レベル99の状態で七幻魔の一人を倒したって言うのにレベルが上がらないなんてさぁ。しかも、その後から今日に至るまで戦闘にはほぼ参加してないし。サルタナはこのパーティのリーダーであり、エースでもあるんだからさぁ。何かあるなら言って欲しいんだよねぇ。今後に響くからさぁ」
「……ベラベラベラベラうるせぇな。どいつもこいつも駒の分際で偉そうに意見してんじゃねぇよ。テメェらは俺の役に立つか立たないか、それだけ考えて生きてりゃいいんだよ。格下の分際で一丁前に俺の心配なんてしてんじゃねぇよカス共が」
「……うわぁ、何その言い方。前々から性格悪いとは思ってたけど、私たちの事そんな風に思ってたんだねぇ……。本当最低……」
サルタナの自己中心的で攻撃的な言葉に、思わず言葉を失う3人。
「じゃあサルタナ。そこまで言うなら、貴方のステータス、もう一回確認させてよぉ」
「……なんだと」
「まぁそうなるな。先ほどお前は私たちを格下だと言ったが、残念ながら現状このパーティで一番足を引っ張っているのはお前だサルタナ。調子が悪いだけならまだしも、戦闘にもロクに参加しないなんて、お荷物以外の何者でもない」
「テメェら……いい度胸してんな。俺に歯向かおうってのか、偉そうにしやがって」
「偉そうなのは貴方でしょ。全く、どうせ七幻魔を倒したあの日になんかあったんでしょ。取り敢えず見させてもらうからねぇ」
「ま、待て……やめろ!」
ノアはそう言って、「鑑定」とは別のスキルを発動してサルタナのステータスを確認する。通常の「鑑定」よりも魔力を多く消費する上、一日に使用できる回数は限られているが、これにより、例えダミースキルでステータスを偽っていたとしても、本来のステータスを確認する事ができる。
そう……かつて、ノアがテッドのステータス偽造を見破ったように。
「……何これ。レベル0……ステータス、職業共に……不明……。これって、あの時のテッドと同じ……」
驚きのあまり、言葉が継ぎ接ぎになってしまうノア。スカーレットとリンリンも、ノアの目の前に表示されたサルタナのステータスを確認する。
「これはテッドと同じ……。そうか、これをひた隠しにするために、お前は戦闘に参加しなかったんだな。モンスターを倒す度に私たちにステータスを確認されてしまったら、いずれ本当のステータスがバレてしまうから……」
「テッドって……確か私の前任の方ですよね。奇妙なステータスのせいで『レッドホーク』を追放されたっていう。つまりサルタナさんは、自分の身勝手で追放したテッドさんと全く同じステータスになってしまったから、自分のメンツの為に私たちを欺いていたって事ですね……。すみません、本当は思ってないですけどサルタナさんクソですね」
「ちが……俺は……」
顔面蒼白になるサルタナ。死人のようなその顔つきに生気は宿っていなかった。
そんなサルタナを憐れむように、ノアが口を開く。
「まぁ正直。ステータスが出鱈目だろうと何だろうと、強ければ私的には何の問題も無いよ。実際、テッドも魔法使いとして私と同じくらい役に立ってた訳だしねぇ。それより、貴方の仲間に対する態度と、自分のプライドを守る事しか考えてない自己中心的な行動の方が問題かなぁ。ぶっちゃけ、もう一緒にパーティやっていくモチべなくなったかもぉ」
「……なんだと」
「確かにそうかもな。私たちの事を仲間だと思っているなら、本当の事を話してほしかったよ。いや……思っていないから、駒だとか格下だとか……そんな言葉が出たんだろうけどな」
「ま、待て……違う!」
「どうやら付いて行く人を間違えてしまったみたいですね。あ、これは本当に思ってる事なので……」
3人の言葉に、思わず膝をつくサルタナ。
スカーレットはそんなサルタナを同情するような眼差しで見つめた後、サルタナを含む全員に向けて話を続ける。
「……取り敢えずここから出て、一度宿に行って休まないか? お互いに頭を冷やして、そこからもう一度色々話し合おう。一時の感情に身を任せて話すと、思っていない事まで口にしてしまいそうだ」
「さんせー」
「確かにそうですね! 今日は朝からダンジョンに潜りっぱなしなので、もうヘトヘトです!」
いつもの調子で話し始める3人。
スカーレットの一言で、ひとまず険悪な空気感は払拭された……かに思えたが、サルタナの心中には黒い感情が渦巻いていた。
「(何が話し合いだ。どうせこいつ等……体のいい事言って俺を捨てるに決まってやがる。いや待て、なんで俺が道具風情に捨てられなきゃいけないんだ? はは? 俺が捨てられる? それだけは嫌だ……あの時と同じ思いだけは……それだけは! それだけは!)」
黒い渦は徐々に激しさを増していき、サルタナから正常な判断能力を奪っていく。
そして──
「(そうだ。捨てられるくらいなら、俺の方からこいつらを捨ててやればいいんだ)」
黒い渦は鋭い殺意の獣へと姿を変えた。
「そういえば、ノア、リンリン。お前たちのレベルは──ッ!!」
ノアとリンリンに向かって話しかけていたスカーレットは、凶暴な殺気を感じ取り、素早く剣を抜く。
そのまま高速で移動し、白い聖剣を受け止める。
ほんの一瞬でも遅れていたら、ノアはサルタナの聖剣によって串刺しにされていただろう。
「えっ!? 何、これ……どういう……」
「血迷ったかサルタナ! 仲間に剣を向けるなど!」
サルタナの聖剣を弾き、2人を守るように前に出るスカーレット。
一方のサルタナは弾かれた反動で、3人から数メートルほど距離を取る。
「残念だよ、本当に」
サルタナは首をコキコキと鳴らしながら、不敵な笑みを浮かべる。
「お前たちは優秀な駒だと思ってたんだがな……もうお別れかぁ……」
薄ら笑いを浮かべながら、虚ろな目で天井を見上げるサルタナ。
「今日で『レッドホーク』は解散だ。記念として、お前たちをここで殺すとしよう」
そう言ったサルタナの瞳は、純粋な殺意に憑りつかれていた。
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