36 脱退
翌日。
瞬間移動で南ゴルゴン山から戻った俺たちは、ポカリ街のギルドへと足を運んだ。
目的は当然、魔王軍が2日後にこのポカリ街に攻めてくる事を伝える為だ。
だが──
「エレナ、話が……。なんだお前ら、やけに静かだな」
ポカリ街のギルドと言えば、四六時中飲んだくれたちが騒いでいる酒場のような場所だ。これまで何度もこのギルドへ足を運んできたが、ここまで静かだったことは一度として無い。少しの間静観していると、飲んだくれたちの一人がテーブルをダンッ! と叩き、立ち上がった。
「どうした……じゃねぇよテッド! テメェのせいで魔王軍がこのポカリ街に攻めてくるんだってなぁ!」
「なんでお前が知ってるんだ?」
「ついさっき、ポカリ街全体に魔王の声が聞こえてよぉ……テメェを捕まえる為に魔王軍が2日後に攻めてくるってご連絡があったんだわ!」
「報連相のしっかりした魔王だな。知ってるなら話は早い、全員俺の為に死んでくれ」
「ふざけんなテメェコラァ!!」
飲んだくれたちが全員立ち上がり、ギャーギャーと罵声を浴びせてくる。
「俺たちからステラちゃんを奪うだけでなく魔王までおびき寄せやがって! どんだけ俺たちに迷惑かければ気が済むんだチ〇カスコラァ!!」
「ケジメとして今からお前だけで魔王んとこ行ってこいや!」
「そうだそうだ! テメェさえいなくなりゃこの街は平和のままなんだからよぉ!」
「消えろ害虫クソテッド! つか、なんでステラちゃんだけじゃなくて七幻魔のジャスパーまでいんだコラ! 可愛い子ばっかで羨ま……じゃねぇ。テッドおめぇさては魔王軍のスパイなんじゃねぇのか!?」
「ちょっと皆さん! いくらなんでも言い過ぎじゃ──」
飲んだくれたちの鳴りやまない怒号に対して言い返そうとするステラだったが、俺はそれを黙って制止する。そのまま一歩前に出ると、あれだけ騒がしかった飲んだくれたちが一瞬で黙り始める。
「確かに魔王軍の目的は俺にある。お前たちに迷惑をかけない為にも、今から魔王軍の元へと向かおうと思う」
「ちょっテッドさん!?」
「おぉ分かりゃいいんだよ。さっさといなくなれよ害虫」
「ただな──」
俺は黒い大剣を召喚し、勢いよく床に突き刺す。
「俺がいなくなった後、性欲に塗れたお前たちがステラやジャスパーに何をするか分かったものじゃないからな。今からお前たちの棒と玉を一つ残らず切り落としていくが……構わないよな?」
「……何言ってんだよテッド」
すると飲んだくれの一人が立ち上がり、俺の肩に手を置く。
「俺たち仲間だろ? お前ひとりで魔王のところになんか行かせられっかよ」
「さっき消えろだとか害虫だとか言ってなかったか?」
「聞き間違いじゃねぇか?」
あのボリュームで叫んでおいて、よくそんな言い訳ができたものだ。
鮮やかすぎる手のひら返しに思わず感心してしまった。
「よしお前ら! 俺たちのテッドが困ってるんだ! 一緒に乗り越えるのが仲間ってもんだよなぁ!」
「イエエアアアッ! 魔王がなんぼのもんじゃゴラァ!」
「……なんというか、ある意味凄いわね。ここの連中って」
「……本当最低ですねこの人たち……。だからあんまり好きじゃないんですよ私」
結局いつも通り騒ぎ始める飲んだくれたち。
2日後に備えて少しでもレベルを上げておこうだとか、強い武器を入手しておこうだとか、そんな気は更々ないらしい。まぁ俺の邪魔さえしなければ、当日までどう過ごそうが俺の知った事ではないけどな。
飲んだくれたちを眺めながらそんな事を考えていると、扉を開けてギルド内に入ってくる3人の女の姿が視界に入る。
「ア、アイツらは『レッドホーク』。遠征から戻ってきやがったのか……」
飲んだくれの一人がそう呟く。
緋色の長髪が特徴的な女スカーレット、黒髪で小柄な少女ノア、そして見覚えのないチャイナ服の女……3人は俺たちや飲んだくれたちの視線を無視して、受付までまっすぐ進む。だが少し妙なのは、サルタナの姿が見えない事だ。理由があって別行動でもしているのだろうか。
「これはこれは『レッドホーク』の皆さん。いいタイミングで来てくださいましたね。実は……」
「2日後に魔王軍がこの街に攻めてくるのだろう? 随分と大変なことになったな」
「ご存じでしたか」
「あぁ。ついさっき、ポカリ街に入った時に丁度魔王の声が聞こえてな。ところで、魔王が言っていたテッドというのは、まさか──」
「いえ人違いですよ。皆さんのパーティを抜けたテッドさんとは別人です」
食い気味で否定するエレナ。
「……それもそうか。まぁ彼はモンスターに食われてしまったと聞いたし、生きているはずが無いか……」
どこか遠い目をしながらそんな事を呟くスカーレット。
隣のステラが「誰のせいだと思ってるんですか……」なんて呟いていたが、結果として俺は生きているし、ステラが怒る事では無いと思うが……。
「ところで皆さん。今回ポカリ街へ来たという事は、遠征は終わったんですか?」
「あぁそうだな。まぁ終わったというか、終わらざるを得ない状況になった。今日、この街へ足を運んだのはその為だ」
「というと……?」
「『レッドホーク』の減員申請をさせてほしい」
一呼吸置いて、スカーレットは再び口を開く。
「私たちのリーダーであるサルタナが『レッドホーク』を脱退する事になった」
スカーレットのその言葉に、その場にいる全員が思わず言葉を失った。
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