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35 宣言


「魔王デスピア……俺の全てを知っているだと?」


『そうだ』


「そういえば、随分前にそこのドッペルゲンガーも同じような事を言ってたな。本当に俺の事を知ってるなら、思わせぶりな発言をやめていい加減教えて欲しいものだな」


 ドッペルゲンガー……という言葉が気に食わなかったのか、憤怒の表情を浮かべる俺のクローン。だが魔王の前だからか、それを口にすることはない。余計な事を話せば殺される……そんな空気感が漂っていた。


『ククッ。そう焦るな『不老不死イモータル』よ。お前はどの道運命から逃れることはできない。その時が来ればいずれ分かる事だ』


「はぁ……。それっぽい事ばかり言うだけで内容は皆無だな。話を聞いてほしくてやってるだけなら、もう帰ってもいいか?」


 この魔王デスピアとやらが本当に俺の事を知っているのかは分からないが、結局何も教えてくれないなら俺にとっては知らないのと同義。そう考えての発言だったのだが、横にいるステラが何故か芋虫でも見るかのような目でこちらを見つめてきた。


「折角ここまで来たのに、何も教えてくれないからって不貞腐れて帰るなんて……テッドさん貴方、捻くれまくった子供ですか?」


「綿あめ一つではしゃいでた女に子供扱いされたくはないな」


「うぅ……ジャスパーさん……」


「あーま、まぁ……うん」


 俺の一言で、涙目になってジャスパーに駆け寄るステラ。だが、ステラと同じく綿あめに夢中になっていたジャスパーは、ステラにどう声を掛けていいか分からず、明後日の方向を見ながらステラを慰めていた。


『今日、お前たちに伝えたい事は2つだ』


 俺たちのくだらないやり取りに痺れを切らしたのか、魔王が勝手に本題に入り始めた。ステラが混ざるとどうも会話が脱線しがちになるな。口に出すのは面倒なので、俺は心の中でなんとなく魔王に謝っておく。


『まず1つ。ジャスパー……お前を七幻魔から除名する』


「……まぁでしょうね。むしろ除名だけで済むなんて、随分優しいのね魔王様」


『安心しろ。そう遠くない内に消してやる』


「あら、それは残念だわ」


 笑みを浮かべながら、強気な口調で魔王にそう返すジャスパーだったが、その表情はどこか引きつっており、まるで溢れる恐怖を無理矢理抑え込んでいるようだった。そんなジャスパーに構うことなく、魔王は話を続ける。


『そして2つ目。今日から3日後……我々魔王軍はポカリ街へと侵攻する』


 魔王の予想外の一言に、俺たちは思わず言葉を失った。

 数秒の沈黙の後、最初に言葉を発したのはステラだった。


「な、なんでですか!? よりによって、どうしてポカリ街を!?」


 まぁポカリ街に特に馴染みのあるステラなら当然の反応だな。

 そんなステラに、魔王は淡々と言い放つ。


『我々の目的の為だ』


「まるで答えになってないな。お前たちがどんな目的で動いているかは知らないが、あんなごく普通の街にお前たちの求めるものがあるとは到底思えない」


 動揺するステラの代わりに俺が答えると、魔王はさらに言葉を続ける。


『ククッ。確かにポカリ街自体は我々の目的とはなんの関係も無い。まぁ強いて一つ上げるとするならば、お前が拠点としている街だから……と言ったところだな』


「もしかしてポカリ街の住人を人質にでも取っているつもりか? 悪いが俺はあの街にもその住人たちにも何の思い入れも無い。目的が俺にあるなら、今ここで相手してやってもいいんだぞ? 引き籠りの魔王様よ」


『ククッ。そうやって貴様が無関心を装ってあの街から我々を遠ざけようとしている時点で、担保としての効果が証明されたようなものだな。意外と優しいじゃないか『不老不死イモータル』。冷徹な貴様にも人の心はあったようだな』


 いや、いい加減引き延ばされるのが面倒だから言っただけなんだが……。どうやら盛大に勘違いされてしまったらしい。


『ククッ。精々3日後に備えて戦力を整えておけ。皆殺しにされたくなければな』


 魔王が一方的にそう言った直後、これまで空間を支配していた異質な気配が綺麗さっぱり無くなった。

 どうやらこれ以上話すつもりはもう無いらしい。


「テッドォ!!」


 すると、これまで沈黙を貫いていた俺のクローンが、こちらに向かって大きく叫び出した。


「いいか、貴様は必ず僕が殺す! 3日後、絶対に逃げるなよ!」


「お前も来るのか? 何度やっても同じだと思うけどな」


「くくっ、減らず口を叩けるのも今の内だ。お前は絶対に僕が地獄に落としてやるからな!」


「その笑い方、さっきの魔王のがうつったのか?」


 わざとらしく挑発するようにそう言うと、クローンは今にも血管が切れそうなほどの怒りを顔に浮かべ、瞬間移動でどこかへ去っていった。


「行ったか」


 今回の南ゴルゴン山の件で、俺は記憶に関するいくつかのピースを集める事に成功した。

 だが残念ながら、それでも俺の心には何の変化も訪れなかった。


 元々魔法学校の生徒で、在籍時に恋人がいた事。

 仮面の男の正体が俺のクローンであった事。

 いくらそんな事を聞いたところで他人事のようにしか思えず、どこか宙ぶらりんなままだ。結局、核心的な部分には一切触れておらず、痒い所に手が届かないような、そんなもどかしい気分だ。


 荒れ果てた南ゴルゴン山にしばしの静寂が訪れる。

 それは俺の空虚な心を表しているようでもあり、これからやって来る嵐の前の静けさのようでもあった。



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