33 仮面の男の正体
「て、て、テッドしゃぁん! 私死ぬかと思いましたぁ!」
仮面の男から放たれた光の弾丸を弾くと、ステラが大泣きしながら俺に駆け寄ってきた。
あと少し棺桶から出るのが遅れていたら、ステラは光の弾丸に貫かれていただろう。
だが、正直言って俺は今、ステラを助けるつもりは欠片も無かった。
妙な感覚だ。まるで、体が俺の意思と切り離されて動いたかのような……。
「ははは! 仲間を助けたのに浮かない顔してるね、テッド」
「そういうお前は随分と楽しそうだな」
「まぁねぇ。やっぱり君はジャスパー程度に倒されるような男じゃなかったという事が、これで証明された訳だしね」
そう言うと、仮面の男はジャスパーへと顔を向ける。
「やっぱり裏切ってたんだねジャスパー」
「まぁね」
裏切りがバレたにも関わらず、ジャスパーの表情に動揺は一切見られない。
「魔王様を裏切った以上はどの道殺すけど、参考までに聞いてもいいかな? なんで僕たちを裏切った?」
「別に大した理由なんてないわよ。テッドに負けて脅されただけ。あぁでも、前々から魔王軍にいるのは正直退屈だったし、どの道いつか抜けようと思ってたから、いいきっかけにはなったかもね」
「そっかぁ。まぁ僕は別に君の事好きでも嫌いでもないからどっちでもいいんだけどさ……」
直後。
仮面の男の掌から、再び光の弾丸が放たれる。
俺は即座に瞬間移動魔法を使い、ステラとジャスパーと共に、研究所の外へと跳ぶ。光の弾丸により、ゴルゴン研究所が大きく吹き飛ばされる。爆発によって上がった粉塵の中から、仮面の男が姿を現す。
「はは、いいねぇ……。やっぱり君は僕の手で倒さなくちゃねぇ! テッドォ!!」
「ジャスパー、ステラを頼む」
「えぇ」
2人を後ろに下がらせ、俺は一歩前へ出る。
「あはははははっ! ついに来たぁ! 僕の手で君を殺す時がぁ!」
仮面の男は、空中に浮遊しながら無数の光の球体を生み出し始め、機関銃のように連続で放ってきた。
「フラッシュ・マシンガン!」
短い詠唱と共に放たれた無数の光の弾丸を、俺は防御魔法を発動する事で防ぐ。
「あっははは! そうだよね! 君の『不老不死』は光属性の魔法に弱い! 光属性の魔法でトドメをさされたら復活できないから、そりゃ防御魔法で防ぐしかないよねぇ!」
何が楽しいのか、随分とご機嫌な様子の仮面の男。
確かに、俺は今まで光属性魔法の使い手と戦ったことはない。というのも、俺が戦うのは基本的にモンスターだけだからだ。光属性を持つモンスターは基本的には存在しない為、これまで俺は戦いで命の危機を感じたことはほとんどない。だが今回は──
「転送屋のヤツ、相当やるわね。瞬間移動が得意なだけの奴かと思ってたけど……ていうか人間だったんだアイツ。てっきり魔族なんだと思ってた」
「あんな強力な光属性魔法を、あんな短い詠唱で発動できるなんて……。バケモノですかあの人……」
少し離れたところから、そんなステラとジャスパーの会話が聞こえてくる。
そう、この仮面の男は魔法使いとして相当な技量の持ち主だ。俺のように無詠唱とまではいかないものの、強力な魔法を短い詠唱でいとも容易く使ってくる。おまけに、光属性魔法の扱いに非常に長けている。はっきり言って、この体になってから初めて現れた俺の天敵と言ってもいい。
「あっははは! まだまだぁ!」
仮面の男がそう叫んだ直後、十数メートル先の上空にいたはずの仮面の男が、一瞬で俺の目の前に現れた。どうやら一瞬の詠唱で瞬間移動を発動させたらしい。
「ゼノ・フラッシュ!」
仮面の男が突き出した両手から、光り輝く巨大な破壊光線が放たれる。
破壊光線は南ゴルゴン山を抉り、雲を貫き、空を突き進んでいく。
「テッドさぁん!!」
ステラのそんなやかましい声が聞こえてくる。
バカデカい破壊光線の音よりもよく聞こえるなんて、どんだけ騒々しいんだよ、アイツの声。
「……流石、しぶといねぇ」
仮面の男は愉快そうにそう呟く。
破壊光線を直接食らってしまった俺だったが、防御魔法を膜のようにして全身に覆っていたおかげで、特にダメージを負う事は無かった。
「どうした、もうネタ切れか?」
人差し指をくいくいっと曲げ、仮面の男をわざとらしく挑発してみる。
「……ふふっ。その不遜な態度、本当に頭にくるよ……。絶対後悔させてやる……」
「そういえば前にも似たようなことを言っていたが、いつになったら後悔させてくれるんだ? 俺も忙しいから、悪いが今日くらいしかお前の相手はしてやれそうにないんだが」
「……上等だよ。なら、お前の頭に直接っ!! ありったけの光属性魔法をぶち込んでやるよ!!」
荒々しい言葉遣いへと変わった仮面の男の姿が、目前からぱっと消える。
「ま、マズいですよ! ジャスパーさん! このままじゃ!」
「確かに、転送屋の強さは想像以上だわ。ここまで腕の立つ魔法使いは見たことが無い。けど──」
直後。俺の背後に仮面の男が現れる。
右手に太陽のように輝く光を纏い、俺の頭を鷲掴みにしようとするが──
「悪いな。もう飽きた」
俺は闇属性の魔力を纏った裏拳を、仮面の男の顔面に叩き込んだ。
「はぺっ──!?」
砲弾のように吹き飛んでいった仮面の男は、南ゴルゴン山の一部に直撃し、岩の崩壊に巻き込まれてしまう。
「テッドさぁん!」
仮面の男が吹き飛ばされたのを確認して、ステラとジャスパーが駆け寄ってくる。
「テッドしゃん……あんな凄い威力の光を食らっちゃって……もうダメかと……ぐすん!」
「泣くな、うるさい」
「……アンタ、もう少しステラの事大事にしてあげなさいよ。というかアンタ──」
ジャスパーが何かを言いかけた直後。
崩壊した瓦礫の山から、土煙と共に仮面の男が立ち上がった。
「クソッ! なんで僕が……ごばぁっ!」
だが、俺から食らった一撃のダメージが響いているようで、すぐに膝をついてしまう仮面の男。
「なんで……なんでこんなに差があるんだよ!! なんで僕じゃなくてアイツがぁ!!」
行き場のない怒りを声にする仮面の男。
だがその声は、今までの女性的なものではなくなっていた。
少し高めだが、これは男の声だ。というか、この声どこかで──
巻きあがった土煙が徐々に風に流されていき、男の姿が鮮明になっていく。
そこには壊れた仮面を脱ぎ捨て、素顔を露わにした一人の男の姿があった。
「えっ!? テッドさん、ジャスパーさん! あれって……」
「……まさか、嘘でしょ?」
その姿に、ステラとジャスパーは驚愕する。
俺だけでなく、ステラとジャスパーもその顔には見覚えがあった。
さらさらとした黒い髪、茶色い瞳、均整の取れた顔立ち。
仮面の男の素顔は、記憶を失くす前の俺と全く同じ顔だった。
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