32 裏切り
仮面の男。
かつて俺たちが「竜の巣駆除」のクエストに行った際、イカズチという巨大な青い竜を倒した後に現れた謎の人物。だが実際、そもそも男か女かもはっきりしていない。声は女のものだが、体格だけ見ると男のようにも見える、何とも奇妙な存在だった。
この仮面の男はどうやら過去の俺を知っているらしく、以前対峙した際には、世界で一番俺について詳しいとまで豪語していた。ポカリ街の飲んだくれたちからは、冒険者を片っ端から誘拐している……なんて噂されていたが真相は不明。とにかく謎が多い人物なのだが……その人物が今、俺たちの前に現れていた。まさかコイツが魔王軍側の人間だったとはな。
「(この人は……竜の巣駆除の時の……)」
仮面の男の登場はステラも予想外だったのか、緊張と動揺が棺桶越しでも伝わってくる。
「(一体何者なんでしょうかこの人……スキル『鑑定』)」
『鑑定』を使って、仮面の男のステータスを確認するステラ。
しかし──
「(あ、あれ……ステータスが表示されない?)」
仮面の男のステータスが確認できずに焦るステラ。俺も試しに『鑑定』を使ってみたが、結果は同じだった。
恐らくあの仮面の効果だろうな……。あの男が付けている仮面から、異質な魔力を感じる。恐らく『鑑定』の類のスキルや魔法を無効化する効果でもあるのだろう。
「ねぇ、そこのキミ」
「え、は、はい!」
「さっきから『鑑定』を使ってジロジロ見るのやめてくれないかなぁ。気分悪いんだけど」
「す、すみません……」
「というかジャスパー。この子誰?」
そう言ってステラに釘を刺した仮面の男は、今度はジャスパーへと話しかける。
「あぁ、テッドの仲間よ。一応連れてきたんだけど、邪魔だった?」
「邪魔だね」
「分かった、じゃあ後で殺しとくわ」
淡々と言い放つジャスパーに恐怖を感じるステラ。
あまりの気迫に、ジャスパーの言葉の真偽が判断できなかったのだろう。確かに、ジャスパーがこのタイミングで俺たちを裏切る可能性もゼロではないが、ジャスパーの表情の僅かな動きや気配から察するに、その可能性は低いと見ていいだろう。まぁ仮に裏切ったとしても問題無いがな……なんて考えつつ、再び仮面の男とジャスパーの会話へと耳を傾ける。
「で、ジャスパー。テッドはその棺桶の中?」
「えぇ、そうよ。開けてみる?」
「いや必要ないよ、今確認したから。どうやら化かされてる心配はなさそうだね。ちゃんと本物だ」
なんらかのスキルや魔法を使って棺桶の中の状態を確認した仮面の男は、淡々とそう言った。
そんな仮面の男に対し、どこか呆れたようにジャスパーが口を開く。
「まさかアンタ、私がテッドに化かされて、アイツの分身を捕まえてきたとでも思ったの? 私がそんなヘマやらかす筈ないでしょ」
「あはは、ごめんごめん。でも、今ので確信しちゃったな」
「は、何を?」
仮面の男は空虚な声で笑いながら、一呼吸置く。
「君が僕ら魔王軍を裏切ったってことだよ。ジャスパー」
仮面の男が鋭くそう言い放った。
「は、なんでそうなるワケ?」
だが仮面の男の鋭い一言にも、ジャスパーは一切動揺することなくそう切り返した。
そんなジャスパーの態度が面白かったのか、仮面の男はどこか愉快そうに話を続ける。
「君がポカリ街に行く前、僕はテッドに会ってる。その時に彼の実力もある程度確認済みだ。申し訳ないけど、彼の強さは既に君がどうこうできるレベルを超えていた」
「はぁ。何を言い出すかと思えば……なら、アンタの直感が間違ってたってことなんじゃないの?」
「いや、テッドの事は僕が一番よく知っている。それは間違いない」
断言する仮面の男。
「君はテッドに敗れ、テッドに情報を引き出す為のエサとして利用された。彼に殺されるのが嫌で、僕らを裏切ったんだよ、ジャスパー」
「妄想は自由だけど、それが正しいっていうのはどうやって証明するワケ? 実際、私はこうして魔王様の命令通りテッドを倒して、捕まえて、ここに連れてきた。この状況で私を裏切り者呼ばわりして手を出せば、本当に裏切り者になるのはアンタの方よ、転送屋」
「だから転送屋って呼ぶのやめろって……まぁいいや。確かにその通りだね。じゃあこっちの女の子に聞いてみようかな」
直後。
仮面の男の掌から光の弾丸が放たれた。
「な──」
あまりにも一瞬の出来事に、僅かに反応が遅れるジャスパー。
光の弾丸は凄まじい速度で空を切り裂き、ステラの元へと突き進んでいく。
ステラが叫ぶ間もなく、光の弾丸はステラの眼前へと──
「随分と手荒いな、仮面の男」
そう言って、俺はステラに向かって放たれた光の弾丸を、大剣で弾き返した。
「あはは! ほぉらやっぱり出てきたよ! テッドォ!」
棺桶から飛び出してきた俺を見て、仮面の男は初めて大きな声で笑った。
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