29 アルバム
「俺が魔法学校の首席だと?」
「そうじゃ、覚えておらんのか?」
「生憎と記憶をほとんど失ってしまったんでな。さっぱり覚えてない」
「記憶を……? そうじゃったのか」
俺の一言にじいさんは、驚くと同時に少し悲しそうな顔をした。
「お主に何があったのかは知らないが、ワシはお主を覚えているぞテッド。以前とは外見や雰囲気は違うが、話し方もまるで別人で……あれ、人違い?」
「急に自信失くすなよ」
分かりやすくしぼんでいく爺さん。まぁ無理も無いか。俺ですら、この体になった直後はまるで別人の体に乗り移ったかのような錯覚に陥ったからな。以前の俺と今の俺はほぼ別人と言っていいだろう。
「と、とにかくじゃ、テッド。今から魔法学校へ行かんか? ひょっとしたら、何か思い出すかもしれんぞ!」
「何がとにかくなのかは知らないが、まぁ一理ある。行ってみるか」
「うむ。そこのお2人もよかったらどうじゃ?」
「いいんですか! やったぁ! 私、一度魔法学校に行ってみたかったんですよね!」
「え、興味な。私、適当に魔法都市探索してていい?」
行く気満々のステラとは真逆の反応を示すジャスパー。
そんなジャスパーを、ステラが子犬のような目でうるうると見つめる。
「ジャスパーさん……せっかくだし、3人で行きましょうよぉ……」
「うっ。わ、分かったわよ、行けばいいんでしょ」
「やったぁ!」
ステラの押しに、一瞬で折れた様子のジャスパー。ジャスパーの奴、ステラには本当激弱だな。まぁ来る来ないは正直どちらでもよかったが。そんなこんなで、俺たち3人は爺さんの案内で魔法学校へと向かう事にした。
◇◆◇
爺さんの後ろを歩くこと数分、魔法学校へと着いた俺たち。
「わぁ! すっごい広いですね!」
確かにステラの言う通り、想像以上に広いな。おとぎ話に出てくる城のような校舎がいくつもあり、校庭は様々な魔法訓練を想定した設計になっている。仮に何百人もの生徒たちが同時に魔法訓練を行ったとしても、十分余裕があるほどスペースが確保されている。
「随分と金がつぎ込まれた学校だな」
「はぁテッドさん。この素晴らしい光景を見て最初に出てくる言葉がそれですか。もう少し夢のある事言えないんですか?」
「お前も広いとしか言ってないだろ」
「……なんか落ち着かないわね。ここ」
魔法学校のどこか幻想的な光景に感動しているステラ、特に感想が出てこない俺、警戒心剥き出しで落ち着かない様子のジャスパー……と、三者三様の反応をする俺たちを見て、爺さんは微笑んだ。
「どうじゃテッド。何か思い出せたかのう?」
「いや何も」
「ほっほそうか。まぁ焦る必要はない、ゆっくり思い出せばいいんじゃよ」
「あぁ」
「さぁて、それじゃあ3人共。今からワシの部屋まで移動するぞ。『空間魔法・DTD』
爺さんが魔法詠唱すると、何もない空間に光の線が浮かび上がる。光の線は何かをなぞるように動き、徐々に数を増やしていく。そして、白いドアを形作った。
「な、なんですか。このどこへでも行けそうなドアは」
「ほほっ。このドアは校舎内のワシの部屋のドアと直接繋がっておる。試しに開けてみぃ」
恐る恐る、ステラがドアを開ける。
するとドアの向こうには、書斎のような部屋が広がっていた。
「え、すごい! 横から見るとただドアが置いてあるだけなのに、開けると謎の部屋と繋がってます! す、すごい!」
「これが空間魔法の一つじゃ。さ、中へ入るんじゃ」
率先してドアを通る爺さんに促され、俺たちも続いて白いドアを通り、爺さんの部屋へと入る。
「まぁまぁ広いな。教師一人にここまで広い部屋が用意されるのか」
「まぁワシは校長じゃからの。少し広めの部屋を使わせてもらっておるんじゃよ」
そう言いながら、大ききめの本棚をがさごそと漁り始める爺さん。
そして1冊の本を取り出す。いや、本と言うよりアルバムに近いか。
「それは?」
「お主の世代の卒アルじゃよ。え~っと……おぉあったあった。これがAクラスの集合写真、真ん中にいるのがお主じゃ」
「え、昔のテッドさんですか!? 見せてください!」
興味津々のステラだけでなく、ジャスパーも無言ながらアルバムを覗き始める。俺も続いて爺さんが開いたアルバムを確認する。
その写真には桜の木の下に集まる男女30名ほどが写っていた。そして、その真ん中にいたのは……
「え、校長先生。真ん中ってこの人ですよね?」
「そうじゃ」
「誰ですか、この爽やか黒髪イケメンは……。すごくフレッシュな笑顔ですけど……」
「俺だ」
確かに集合写真の真ん中には、今の姿になる前の俺が写っていた。どうやら覚えていないだけで、俺は本当にこの学校の生徒だったらしい。だが、確信を得た俺とは反対に、ステラはふふっと鼻で笑う。
「テッドさん、冗談は止めてください。このキラキラお兄さんがジメジメしたテッドさんと同一人物な訳ないじゃないですか」
「よく見てみろ。名前が書いてあるだろ。ほらここ」
俺は集合写真の隣にある、生徒一人一人の写真が学籍番号順に並べられている欄を指差す。
「爆イケお兄さんの名前の欄にテッドって書いてある……。そんな! う、嘘ですよね? 人ってこんなに残念な変化するものなんですか?」
「残念な変化とはなんだ。まぁ子供には俺のアンニュイでダークな色気は理解できないか」
「……ぷふっ! あはは! アンニュイでダークって! なに今の冗談! 超つまんないんだけど! ただの中二病がカッコつけんなって! あはははは!」
俺の言葉がよほどツボに入ったのか、先ほどまでほぼ無言を貫いていたジャスパーが吹き出すほど爆笑し始める。2人共十分すぎるほど失礼だが、まぁ楽しそうなら何よりだ。
なんて考えながら再び集合写真を眺めていると、俺はふと、ある人物を写真の中に見つける。
「コイツは……」
「おぉ、思い出したか!? お主たちはいつも一緒におったからのう」
「いや、思い出した訳じゃないが……」
俺はすかさずその人物の名前を確認する。
……どうやら間違いは無さそうだ。だが、なんでこの女がここに?
そう思っていると、爺さんからとんでもない爆弾発言が飛び出した。
「なんじゃ思い出せんか。自分の彼女の事も思い出せんとは、なんともまぁ可哀想な話じゃのう」
その爺さんの一言は、広めの書斎を一気に静寂で包み込んだのだった。
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