25 異変
一方。
テッドとジャスパーの戦闘とほぼ同時刻、ポカリ街から遠く離れた秘境にて。
新進気鋭の若手パーティ「レッドホーク」と、七幻魔の一角が率いるモンスター軍団の戦いが行われていた。
「す、すみません! 本当は殴りたくないんですけど殴ります! ごめんなさい!」
チャイナ服を身に纏った長身の少女リンリンは、目の前のモンスターを素早い正拳付きで殴り飛ばす。あまりの威力に暴風が巻き起こり、直接殴られていないモンスターの大軍までもが吹き飛ばされていく。
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リンリン
レベル:80
職業:格闘家
攻撃:560(7)
防御:480(6)
速度:640(8)
体力:480(6)
魔力:240(3)
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「流石リンリン、テッドの代わりに入れて正解だったねぇ」
リンリンの拳で紙吹雪のように吹き飛ばされていくモンスターたちを見て、黒髪の少女ノアがそう呟く。
「こりゃ私も負けてられないなぁ。『風魔法・旋風斬』」
ノアが僅かな時間で魔法の詠唱を終える。
直後、無数の風の刃が放たれ、モンスターの大軍が豆腐のようにいとも簡単にバラバラになっていく。
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ノア
レベル:81
職業:魔法使い
攻撃:324(4)
防御:243(3)
速度:324(4)
体力:324(4)
魔力:729(9)
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「すみません! 流石ですノアさん!」
「全然流石じゃないよぉ。むしろ私からしたら、魔法も使わずにそれだけ戦えるリンリンの方が凄いって感じだよぉ」
「すみません! 本当は嬉しくないんですけど、ありがとうございます!」
数百体のモンスターの大軍に囲まれているにも関わらず、リンリンとノアは普段となんら変わらぬトーンで会話をしていた。
「さぁて。ウチの主力たちは今どんな感じかなぁ?」
周囲のモンスターを粗方倒したノアとリンリンは、少し離れた場所で戦うスカーレットに目を向ける。
「全く……倒しても倒してもキリがないな」
緋色の長髪が特徴的な少女スカーレットが辟易した様子でそう言った。
スカーレットが相手にしているモンスターの数は、ノアとリンリンが倒したモンスターの倍以上にも上る。だが、当のスカーレットは涼しげな表情を浮かべていた。
「もう少し戦闘を引き延ばせば強いモンスターが現れるかもと思っていたが、もう期待できないな。仕方ない、さっさと終わらせるとしよう」
そう言ったスカーレットの周囲を膨大な炎が覆い始める。炎は加速度的に巨大化していき、やがて何百体にも渡るモンスターたちが、巨大な炎の渦に巻き込まれ、灰と化していった。
「『奥義・竜炎加具土命』」
だが、何百ものモンスターを灰にしても巨大な炎の渦の勢いが止むことは無く、むしろさらに勢いを増していった。大地を焼き焦がし天に昇る数百メートルの炎の渦。それはまるで炎を帯びた龍のようだった。
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スカーレット
レベル:93
職業:竜騎士(上級職)
攻撃:837(9)
防御:651(7)
速度:744(8)
体力:837(9)
魔力:744(8)
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「わぁー、いつ見ても圧巻ですねぇ」
「そうですね、凄く綺麗な……なんて言ってる場合じゃないです! すみませんスカーレットさん! 本当は思ってないんですけど、モンスターは既に全滅しているのでもう止めてください! 迷惑です!」
「おぉそうか、それはすまなかった」
リンリンが制止した事により、ふと我に返るスカーレット。巨大な炎の渦があっという間に消えてなくなっていく。焼き焦げた大地を見て、スカーレットが小さく呟く。
「はぁ、どこかに私を燃えさせてくれる強敵はいないものだろうか。今日も全然燃えなかった」
「物理的には凄い燃えてるけどねぇ。オーバーキルって感じ。やっぱり生まれながらに上級職の人は格が違うねぇ」
「何を言う。もっと格が違うバケモノがあそこにいるではないか」
戦闘を終えたスカーレット、ノア、リンリンは一人の男へと目を向ける。
「ははっ! どうした七幻魔ぁ! 偉そうにしてた割にテメェそんなもんかコラァ!」
「グッ、おのれサルタナァ!!」
全身が岩のような硬い皮膚に覆われた全長5メートル程の巨人が、たった一人の剣士に圧倒されている。普通の人間にとってはなんとも受け入れがたい光景だったが、スカーレットたち少女3人はそれを平常心で傍観していた。
「サルタナ、よければ手伝おうか? こっちはもう終わったぞ」
「必要ねぇよ! あと1分で終わらせる!」
「まぁサルタナなら大丈夫でしょ。一応、一通り強化はかけておいたし、のーぷろぶれむー」
サルタナと七幻魔の対決には一切興味が無いと言った様子のノア。いや正しくは、既に勝敗が分かり切っている戦いに興味がないだけだろう。
「オノレ! どいつもこいつも舐めやがってェ!!」
「ハッ! 次はもっと強く生まれ変われるといいなぁ!」
サルタナが持つ聖剣に七色の光が宿っていく。それはやがて神々しい雷へと変わっていき、元の刀身の何倍もの大きさの巨大な光の剣を生み出した。
「シャイニング・エクスカリバーッ!!!!」
「ハギャッ!!?」
巨大な光の剣から放たれた光線は、七幻魔の一角である岩の巨人をいとも簡単に消し飛ばした。凄まじい勢いの光線の余波が大地を削り、大気を震わせる。その衝撃は仲間であるノアたちにも襲い掛かったが、ノアが防御壁を張る事でかろうじて衝撃が無効化される。
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サルタナ
レベル:99
職業:勇者
攻撃:891(9)
防御:891(9)
速度:792(8)
体力:792(8)
魔力:792(8)
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「ちょっとぉ……やるならもう少し手加減してよねぇ……あと少し防御壁が遅れてたら、私たちもミンチだったんだけどぉ」
「いいじゃねぇか、助かったんだからよ」
「すみません! 本当は思ってないんですけど、サルタナさんとスカーレットさんは技の規模がいちいちデカいので仲間としても怖いです! あとサルタナさんは技名ダサすぎです!」
「技名は仕方ねぇだろ。俺が決めたんじゃねぇよ」
気だるそうに首をコキコキと鳴らすサルタナ。
そんなサルタナにスカーレットが声を掛ける。
「それで、どうだったんだサルタナ。あの七幻魔は」
「まぁ、確かに今までの敵と比べりゃかなり強かったが、ノアの強化の効果もあってか、ぶっちゃけ大したことは無かったな。まぁ七幻魔と言っても、序列5位なんてこんなもんだろ」
「それもそうだが、私が聞きたいのは経験値だ。大したことなかったと言ってもあの七幻魔だ。もうレベルが100になってもおかしくはない」
「あぁ、その事か……。残念ながら、レベルは99のままだったな。ほら」
サルタナはステータス画面をスカーレットに見せる。
「確かに変わらないな。Sランクのモンスターである七幻魔を倒したのに。少し妙だな」
「まぁ、レベル100の壁は思ったよりデカかったって事なんじゃねぇの? 知らねぇけど」
「そうなのか……」
一瞬、怪訝な表情を浮かべるスカーレットだったが、取り敢えず納得した様子。
「さぁて。七幻魔もぶっ倒したし、一旦隣町に休みに行くか」
「すみません! 本当はそんな事思ってないんですけど、めっちゃ疲れてて休みたかったので嬉しいです!」
「そうだな、あんな数のモンスターと戦ったのは本当に久しぶりだからな」
「そうだねぇ。それより私、アイス食べたい~」
モンスターの大軍との戦闘後とは思えないほどのんびりとした会話を繰り広げる女子3人。そんな女子3人の後を少し遅れて歩いていたサルタナは、青ざめた表情を浮かべ、非常に動揺していた。
「(クソッ! どうなってやがる……なんで、なんで!)」
七幻魔の序列5位を倒した後。
サルタナのステータスには確かに変化が起こっていた。
だがそれは、サルタナが望んでいた変化では無かった。全く予想外の変化だったのだ。
「(取り敢えず、ダミースキルでステータスを誤魔化しはしたものの、いつまで隠し通せる……。このままじゃ、俺もあの野郎みたいにッ……!)」
動揺、焦り、怒り……サルタナの心中は複雑な感情がぐちゃぐちゃに入り乱れていた。
サルタナはもう一度、自分のステータスを確認し、歯ぎしりした。
そこに映っていたステータスは、かつて自分が身勝手な理由でパーティから追放した男のステータスと、同種のものだった。
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サルタナ
レベル:0
職業:????
攻撃:???
防御:???
速度:???
体力:???
魔力:???
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