23 テッドVSジャスパー
「『紫電』」
イカズチからコピーしたスキルを使って、俺は電光石火が如し速度でジャスパーの元へ突き進む。突進の勢いを利用してジャスパーに拳を繰り出すも、ジャスパーはそれを見切り、俺の拳とは反対の腕でカウンターの突きを放ってきた。
「速いわね……けど、見切れないほどじゃないわ」
「そうか。それはお前もだがな」
互いの攻撃を手首を掴むことで封じる。
取っ組み合う形になり、万力で互いの手首を握りしめる。俺の雷の魔力と、ジャスパーの炎の魔力が衝突し合い、衝撃波と火花で周囲の草原が焼き焦げていく。
「魔力もスピードも一級品だけど、肝心のパワーの方はそうでもないわね。余裕で押し返せそうだわ」
そう言って、さらに腕に力を込めるジャスパー。
「凄い力だな。とても女とは思えん」
「当然でしょ、私は七幻魔よ? アンタたちとは生物としての格が違うの。男とか女とか言う次元じゃないわ」
「そうか、ならこっちも全力で行かないとな」
俺も負けじと腕に力を込める。
「『筋力強化4』」
「……4?」
『筋力強化4』でジャスパーを上回る腕力を発揮した俺は、拘束された腕を振りほどき、相手が一瞬よろけた隙に渾身のボディーブローを叩き込む。
数メートルほど後ろへ吹き飛ぶジャスパー。だが、手応えはイマイチだ。
「素早く後ろに跳んでダメージをカットしたか。大した反応速度だな」
「アンタの方は随分と鈍いみたいだけどね」
そう言って、俺の右腕に視線を向けるジャスパー。釣られるように右の拳を見ると、拳がぐしゃりと潰れており、さらに鉄板で焼かれたかのような火傷を負っていた。
「後ろに跳ぶと同時に、腹部に小さな炎の防壁を展開していたのか。あの一瞬でよくやるな」
「あはは! あんなノロいパンチ、防げない方がおかしいでしょ」
「そうか。なら、しっかり避けておくべきだったな」
「はぁ?」
言ってることが理解できないというよりは、俺が強がっているとでも思ったのか、馬鹿にするように鼻で笑うジャスパー。だが直後、ジャスパーは体の制御を失い、思わずガクンと膝をついた。
「なっ……!?」
突然の事態に理解が追いつかないといった様子のジャスパー。ゆっくりと顔を下に向け、俺に殴られた箇所を確認する。ジャスパーの腹部は、小さなクレーターのようにべっこりと陥没していた。
「まさか、直撃してないのにここまでのダメージが入ったっていうの……?」
「お前も随分と鈍かったみたいだな。俺に言われてからダメージを自覚するなんて」
「……くっ、あはははっ!!」
一瞬、不機嫌そうな表情を浮かべるも、すぐに大声で笑いだすジャスパー。
先ほどまでの殺気立った空気感から一変、無邪気な子供のような笑顔だ。
「いいねアンタ、想像よりずっと面白いわ。拳を焼かれて潰されてるのに眉一つ動かさない精神力、私にダメージを負わせるほどのパワー……こりゃ久々に楽しめそうだわ。魔王様に感謝しないとね」
「楽しそうで何よりだ」
「ねぇ一つ聞かせてよ。さっきの力『筋力強化4』って言ってたけどアレ何?」
「何とは? 進化したスキルをそのまま使っただけだが」
「ぷっ何それ、スキルが進化するなんて聞いたことないわ」
「そうなのか? 俺もよくは知らん」
「あっそ。じゃあアンタを捕まえた後で魔王様にでも聞いてみるとするわ」
そう言った直後、ジャスパーの腹部の陥没がみるみる元通りになっていく。
「回復魔法か」
「はっ違うわよ。私たち七幻魔は魔王様から魔力の一部を分け与えられてる。この程度のダメージなんて簡単に自己修復できるのよ」
「そうか、それは何よりだ」
そう言って、俺も焼け潰れた拳を一瞬で再生させる。
「まさか、アンタも自己修復能力を……?」
「まぁそんなところだ」
「……いいわね、ますます面白くなってきたわ!」
そう叫んだ直後、俺の『紫電』に匹敵する速度で一気に距離を詰めてきたジャスパー。
両腕、両脚に業火を纏い、凄まじい炎の連撃を放ってくる。俺は『紫電』でそれを躱しつつ、雷の拳や蹴りを高速で放ち続ける。互いに圧倒的な攻撃力をノーガードで叩き込んでいく。躱せる攻撃は全て躱し、攻撃を食らえば自己修復で治していく。超攻撃型の戦闘はさらに勢いを増していき、激化していった。
◇◆◇
「はぁ……はぁ……」
ジャスパーの戦闘から30分ほどが経過した頃。
小さなそよ風が吹く草原は、強大な炎と雷の魔力の衝突により焼け野原と化していた。
俺たちの攻撃力、スピードはほぼ互角。技量にもそれほど大きな差は無い。だが、先に膝をついたのはジャスパーだった。その勝敗を分けた理由は一目瞭然、回復力の差だった。
「あり得ない……。何度即死級の攻撃を叩き込んでも、一瞬で完全に回復、再生するなんて……。反則だわ……」
今回の戦闘、俺はイカズチから奪ったスキルを中心に使っていったが、ジャスパーの攻撃力はそれとなんら遜色ないものだった。流石は七幻魔、といったところだろうか。今までの敵とは遥かに格が違う、今日戦ったイカズチ並みの強さを誇っていた。
……とはいえ、残念ながら俺に危機感を抱かせるほどでは無かった。戦闘開始直後は今までにない強者との対峙に身震いしたものだが、まぁ現実はこんなものだろう。
「まぁ、お前はよくやったほうだ。中々楽しめたぞ」
「ならもう少し感情込めなさいよ。顔にはそんな事書いてないわよ」
日頃からステラに注意されている事を敵にまで指摘される俺。
まぁ特に意識するつもりは毛頭ないがな。
「さて、もうネタ切れなら殺すがどうする? 何かあるなら見せてくれ」
「アンタ……何者なの? 何度でも復活する不死身の体なんて、七幻魔にもそんなぶっ飛んだ能力者いないわよ」
「じゃあな」
残念だがその手の質問に答えるつもりはない。もし切り札を隠しているなら見せてほしかったものだが、最早回復する余力すら残っていないらしい。なら、これ以上戦闘を引き延ばす意味はない。
俺は中指に雷の魔力を込め、ジャスパーの額の前に突き出す。
「あは、は……まさか最期がデコピンで終わるとか、皮肉かよ。アンタ……もしかして街での私の戦い見てた?」
何の話か分からない為、俺は特に反応せず、ジャスパーにデコピンを食らわせる。
後ろに倒れるジャスパーを、俺は無機質な目で眺めていた。




