22 無情
「テッドさん、急に走らないで下さいよ! って何ですかこの状況は!?」
俺が謎の女と睨み合っていると、遅れてやって来たステラが騒ぎ出す。街の一部が破壊されたことに驚いているのだろうが、いつどこにいてもうるさい女だ。
「で、エレナ。この女は何者だ?」
「彼女はジャスパー。魔王軍幹部『七幻魔』の一人で、どうやらテッドさんを探しに来たらしいです」
「し、七幻魔!? ヤバいですよテッドさん! なんでそんな人に狙われてるんですか!」
俺の代わりにステラが騒ぎ出す。
それは俺も知りたいところだな。
「あはは。どうやらアンタがテッドで間違いないみたいだね。職業もステータスも不明でレベル……あれ? 情報だとレベル0って聞いてたけど、レベルが1になってる?」
「あぁ、ついさっきレベルが上がったんだ。何故かは俺も知らん。そんな事よりお前、俺を探してるって?」
「そうそう、魔王様からの命令でね。ポカリ街にテッドってのがいるから拘束して連れて来いってさ。全く、そんなの小間使いにでもやらしときゃいいのに、なんで私が……」
俺に向けて話していたジャスパーだったが、途中から独り言のようにぶつぶつとしたトーンに変わるも、すぐに表情を切り替える。
「まぁいいか。アンタが男なら連れ去るのは簡単だしね」
「男なら?」
疑問に思っていると、ジャスパーの纏う雰囲気が変化する。
威圧的で攻撃的なものから、艶めかしく誘惑してくるような雰囲気に。だが、しばらく立ち尽くしていても、ジャスパーが何かを仕掛けてくる様子は無かった。
「嘘でしょ……。まさかアンタも私の『魅了』が効かないって言うの?」
なるほど。どうやら既に何かを仕掛けてきていたらしい。
ジャスパーの纏う雰囲気が変わったのは、そういう事だったんだな。
「大方、男にだけ効く色仕掛けスキルみたいなものだったんだろうが、俺に効いてたらどうなっていたんだ?」
「『魅了』は男の身動きをしばらく封じる力よ。けど、まさか今日だけで2度も『魅了』が効かない相手に出くわすなんてね。まさか、アンタも好きで好きでたまらない女がいるとか?」
「よく分からないが、そんな奴はいない」
「じゃあなんで……」
余程「魅了」とやらが効かなかったことが不満なのか、苛立ちを含めた視線を向けてくるジャスパー。なんとなく不憫に思えたので、俺は「魅了」が自分に効かなかった要因と思われるものを伝えることにした。
「今の俺には性欲が無いんだが、もしかしてそれが原因じゃないのか?」
「「「 え? 」」」
何故かジャスパーだけでなく、ステラとエレナまでもが目を丸くして驚く。
そんなに驚く事か? と思っていると、我がパーティのリアクション要員ステラが口を開く。
「テッドさん! え、性欲が無いって……それいつからですか?」
「この体になってからだな」
「そんな……あ、今の『体になってからだな』ってもしかしてテッドジョークですか?」
「そんなつまらん事は言わん。というか、テッドジョークって言うのやめろ。俺がいつもそんな事言ってるみたいだろ」
「すみません……。というか、今のでむしろ納得しましたよ」
「納得? 何を」
「テッドさん、出会った時から私に全然興味なさそうでしたもんね! 私こんなに可愛いのに! でも性欲が無かったなら納得です!」
「いや、元々お前はタイプじゃない。調子に乗るな」
「うわぁ~ん! テッドさんの朴念仁! 無感情マシーン!」
いつものようにぽかぽかと殴りかかってくるステラ。悪口のレパートリーが増えたのはいい事だが(いい事なのか?)今は遊んでいる場合じゃない。俺は向かってくるステラの腕をそのまま掴む。
「え、嘘でしょ?」
何故か「私の必殺技が効かない?」みたいな表情をするステラだったが、当然こいつのぽかぽか殴りが俺に効いた事など一度もない。なんて事はどうでもよく、俺はステラを掴んだままエレナへと視線を向ける。
「エレナ。悪いがこの犬預かっていてくれないか?」
「誰が犬ですか!」
「500Gになります」
「エレナさんまで! 皆私の扱いひどす──」
会話を中断し、強引に犬をエレナに押し付ける。そして、再びジャスパーへと目を向ける。
「悪いな、飼い犬がうるさくてな」
「……」
ジャスパーに話しかけるも反応がない。
だが、ただ突っ立っている訳ではなく、こちらから目線を外さずに警戒している様子だった。
「(コイツ……このつまらないやり取りの間にも、一切隙を見せなかった。『魅了』も効かないし、何者なの?)」
「おい」
「……あはは、いいわねアンタ。魔王様がアンタを連れて来いって言った理由、少し知りたくなったかも」
「という事は、お前はその理由を知らないって事か。まぁいい、それでも聞きたい事は山のようにある」
「私もよ。アンタの体の事とか、色々知りたくなっちゃった♡」
ジャスパーがそう言った直後、俺は魔法陣を展開する。
丁度、俺とジャスパーだけが魔法陣の中に入るように。
「無詠唱で魔法陣を……? いいわねアンタ、ますます興味深いわ」
「そんな事はどうでもいい。場所を移すぞ」
そう言って、俺は自分とジャスパーに向けて転移魔法を発動した。
◇◆◇
「ここは?」
「ポカリ街から少し離れた野原だ。ここなら多少暴れても問題は無い」
「へぇ、案外気が利くのね。それよりあの子犬ちゃんは連れてこなくてよかったの? 同じパーティなんでしょ?」
「アイツの力を借りるまでもない。お前如き、俺一人で十分だ」
「言ってくれるわね。『七幻魔』をナメた事、後悔させてあげる」
攻撃的な表情を浮かべるジャスパー。その凄まじい殺気に体が勝手に震え始める。
これは恐怖なのか、それとも武者震いというやつなのか。それは分からないが、確かなのは、この体になってから味わったことの無い正体不明の感情が今、俺の脳内に溢れだしているという事。
「楽しみだ」
俺は小さく笑って、そう言った。
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