20 変態の巣窟
「魔王軍幹部『七幻魔』だと!?」
ジャスパーの言葉を聞いた飲んだくれたちがざわざわと騒ぎ立てる。
そんな中、最初に口を開いたのはギルド受付嬢のエレナだった。
「テッドさんはここにはいませんよ」
「あ? いないって何よ」
「テッドさんは、今クエストに出ている最中ですので、終わるまでは戻ってこないって事ですよ」
「あーそうなんだ。ちょっと来るの早かったかな、失敗失敗」
へらへらと笑って見せるジャスパー。
何十人もの冒険者たちに囲まれている事に対し、微塵も危機感を抱いていない様子。
そんなジャスパーの態度が気に入らなかったのか、飲んだくれの一人が口を開く。
「おいおいねーちゃんよ。状況分かってんのか? 俺たち冒険者の巣窟に魔王軍幹部がのこのこやって来て、タダで帰れるとか思ってねぇよな?」
先ほどまでの宴会モードから一変。
武器や拳を構え、即座に戦闘態勢に入る飲んだくれ冒険者たち。
しかし、ジャスパーはこれを鼻で笑う。
「あはは、やめときなよ。私は別に雑魚の掃除しにわざわざこんなところまで来たわけじゃないからさ。ていうか、この中で一番強いのがそこの受付嬢って時点で終わってるでしょ」
首をクイっと動かし、エレナを指すジャスパー。
「おいおい、可愛いからって調子乗んなよ幹部様よぉ。エレナちゃんは確かにつえーけど、あんま舐めた口利いてると──」
直後。
飲んだくれ冒険者たちがバタバタと倒れ始めた。
「……貴方、何をしたんですか?」
「『魅了』……って私は呼んでる。私がこの力を発動すると、男は体が麻痺してしばらく動けなくなっちゃうの」
不敵な笑みを浮かべるジャスパー。
ジャスパーの言葉通り、飲んだくれたちは痙攣しながらも倒れた場所から一切動けない様子。
数では圧倒的に有利だった冒険者サイドだったが、一瞬でエレナ一人になってしまった。
しかし、エレナはこの状況にも眉一つ動かさない。
「すごいねアンタ。少しは動揺したら? もう残りアンタ一人だよ。それとも状況分かってない?」
「いえ、十分理解してるつもりですよ」
そう言いながら、エレナは床に這いつくばる冒険者たちを見下ろす。
「はひぃん……ジャスパー様ぁ。もっと魅了してくだせぇ……」
「キ、キモチイィ……体のシビレと共にやってくるこの胸のときめきと快感ッ! や、やみつきになりそうだゼええ!!」
「ジャスパー様……次は態度キツメ、シビレ多め、魅了マシマシでお願いします……んアッ!」
「……最初から彼らを戦力には数えていませんので」
「な、なるほどね。ていうか、『魅了』がここまで効いたのも初めてなんだけど……」
呆れ果てるエレナと、「魅了」の過剰な効果に逆に動揺するジャスパー。
「それに……ジャスパーさんでしたっけ。貴方一つ勘違いしてますよ」
「勘違い? 何を」
「私は……まだ一人ではありません」
その瞬間。
倒れていた冒険者たちの一人が起き上がり、猛スピードでジャスパーにタックルを放つ。
ダンプカーに轢かれたかのような衝撃と共に、ギルドの壁を突き破り、外へと吹き飛ばされるジャスパー。
ジャスパーを吹き飛ばした筋骨隆々のTシャツ男は、そのままエレナに話しかける。
「すまねぇなエレナちゃん。怖い思いさせちまっただろ」
「いえ、全然大丈夫ですよ。ドンファンさん」
ニコっと柔らかな笑みを浮かべるエレナ。
その笑顔にドンファンは顔を赤らめる。
「あー油断した」
タックルで吹き飛ばされたジャスパーだったが、ダメージを負った様子は無く、何事も無かったかのように立ち上がる。
「『魅了』を食らったフリしてたんだね。人間に『魅了』が効かないなんて初めてだけど、今の見たらその理由が分かったわ」
独り言に近いトーンで淡々と喋るジャスパー。
「アンタ、そこの受付嬢の事好きなんでしょ。それも相当、他のものが目に入らなくなるくらいに」
「好き? ハッお嬢さんよ。そんな陳腐な言葉で俺の思いを語るもんじゃねぇぜ?」
ドンファンが全身に力を込める。
その瞬間、膨張した筋肉によって、ドンファンの来ていたTシャツが吹き飛ばされる。
霧散したTシャツの向こう側から姿を現したのは、筋骨隆々の肉体。
その肉体の前面には、エレナに似た女性のタトゥーがびっしりと彫られており、背中は「エレナLOVE」
という文字のタトゥーで埋め尽くされていた。
「エレナちゃんはな……神推しなんだよ」
「なるほど。私はとんだ変態の巣窟に足を踏み入れてしまったわけね」
魅惑を司る魔女ジャスパーと、その身に愛の証を刻みし者ドンファンの戦いが今、始まろうとしていた。
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ドンファン
レベル:71
職業:格闘家
攻撃:568(8)
防御:568(8)
速度:426(6)
体力:568(8)
魔力:71(1)
【スキル】
≪筋力強化≫
【魔法】
なし
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