02 復活
黒い扉を通り抜け、奥へと進んだテッド。
「ここは……」
隠し部屋、と表現するにはあまりにも広すぎる空間。
だが、テッドが驚いたのはその広さにではなく──
「なんなんだ……この死体の山は」
白骨化した夥しい数の死体が、地面を覆い隠すように転がっていた。
テッドは恐る恐る、骸の絨毯の上を歩きだす。
「一体誰がこんな……」
『キサマ、どうやってここに入ってきた』
テッドが独り言を呟いた直後、不気味な声が部屋中に響き渡った。
「だ、誰だ!?」
思わずそう叫び、辺りを見渡すテッドだったが、周囲に人やモンスターの姿は無い。
気のせいか? テッドがそう思った直後だった。
テッドの数十メートル先の地面が、ぼこぼこ……と、生き物のように脈を打ち始めた。
それは、徐々に大きく膨れ上がっていき、やがて百メートルを優に超える山のように変化した。
無数の骸に覆われた山のような怪物の中心に、巨大な一つの眼が生成されていく。
怪物は凄まじい眼力でテッドを睨みつける。
「モンスター……そうか、キミがこの無数の死体の山を築き上げた怪物って事か」
テッドは『鑑定スキル』を使って目の前の怪物の正体を確認する。
しかし──
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≪鑑定結果≫
名称:??
ランク:??
属性:??
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「そんな……名前どころか、ランクも表示されないなんて」
人間と違い、モンスターにはレベルの代わりにランクというものが存在しており、最低値のE-から最高値のSまで分類されている。『鑑定スキル』をモンスターに使えば、モンスターの名前とランクが表示され、さらに高レベルの『鑑定スキル』を使えば、属性や攻撃タイプなども表示されるのだが、このモンスターはその一切が未知数だった。
「一体なんなんだ……キミは」
『それはこちらの台詞だ。ここに自力で入ることができる人間など見たことがない』
「怪物にしては面白い冗談だね。部屋に入れる人間がいないなら、この無数の死体は何なんだい?」
『そいつらはただのエサだ。自力でここに入って来た訳では無い』
「……?」
やや噛み合っていない会話に、少し歯がゆい思いをするテッド。
「まぁこの際キミが何者であるかはどうでもいい。逃がして貰える雰囲気でもないしね」
テッドは、目の前の怪物を睨みつける。
「キミを倒してこの部屋から出れば、僕は再びパーティに歓迎される。申し訳ないけど、ここで倒させてもらうよ。構わないね?」
『それができればの話だがな』
怪物がそう言ったと同時に、テッドは手をかざし、巨大な炎の矢を放った。
怪物に炎の矢が命中する。しかし、テッドは攻撃の手を緩めない。
水の弾丸、雷の槍、風の刃、岩の鎚……遠距離魔法を続けて怪物に繰り出した。
しかし──
『無詠唱で魔法を発動したか。俄然キサマに興味が湧いたぞ、人間』
怪物にはまるで効果が無かった。
「くっ!」
続けて、別の攻撃に移ろうとするテッド。
しかし、テッドの予備動作の隙に、怪物の背後から無数の黒い触手が放たれた。
「あぁ気色悪いなぁ! もう!」
テッドは攻撃を一旦止め、防御魔法を展開する。
球状の半透明のバリアがテッドを覆っていき、無数の触手から身を守った。
『大した防御魔法だ。だが……』
無数の触手の勢いはさらに増し、テッドを覆うバリアを攻撃していく。
僅か一秒の間に数千発と叩き込まれるあまりの猛攻に、バリアに徐々にヒビが入っていく。
そして、バリアを貫通し、テッドの体を無数の触手が貫いた。
「がっばぁ!!?」
無数の触手によって全身をハチの巣にされたテッドは、天高く持ち上げられ、そのまま地面に落とされてしまう。ゴシャ……という、肉と骨が潰れる音と共に、テッドの体から大量の血が広がっていく。
『死んだか。だが、ここまでやれただけ大した奴だ』
実際に行われた戦闘時間は僅か2分程度だが、それでも怪物はテッドを称賛した。
それはつまり、この怪物の力があまりにも次元の違うものだという事を意味していた。
『キサマはいいエサになりそうだ』
そう言った怪物の頭部がメキメキと裂けていく。裂けた箇所からは、無数の鋭い牙、巨大な舌が見える。
捕食と言う名の死が、ゆっくりとテッドに迫っていく。
しかし直後、怪物は何故か動きを止めた。
『キサマ……そうか、だからここに入ってこれたのか』
風穴だらけ、血塗れのテッドの体を見て、怪物は何かに気が付いた様子。
『面白い。なら、キサマを使って外の世界を見てみるのも悪くはないかもな』
怪物は食虫植物のような口を閉じ、再びテッドに近づく。
直後、百メートルを優に超える怪物の巨体がテッドの体に吸い込まれていった。
バキゴキゴチャッ……という、潰れた肉と骨が再生していく音と共に、テッドの全身から黒い蒸気が吹き上がった。
数分後、黒い蒸気がおさまり、その奥からテッドが姿を現す。
「……どうなっている?」
思わずそう口にするテッド。
その体は、瀕死の状態から新品同然にまで再生していた。




