199 力比べ
「待てテッド! 1人では危険だ! 私たちも──」
俺の身を案じてそう叫ぶスカーレット。しかし、そんなスカーレットたちを、空間の歪から出てきたアスタロトの兵隊たちが包囲する。まるで巣穴からわらわらと湧く蟻のようだな。
「こっちは問題ない。お前らは自分の心配でもしていろ」
突き放すようにそう言って、俺はアスタロトへと向き直る。それと同時に「鑑定」を発動し、アスタロトのスキルを確認する。
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【スキル】
≪憑依≫
使用者が他殺された場合に自動で発動し、使用者を殺害した者の体へ強制的に憑依するスキル。当スキルは3時間のインターバルをおく事で何度でも発動可能。
スキルインターバル:残り0時間
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スキル「憑依」の詳細を確認し、俺は「鑑定」を解除する。スキルの発動条件やインターバル、概ねこちらの予想通りの能力だな。そしてやはり、アスタロトが俺たちの前に姿を現した時点で察しはついていたが、当然インターバルの方は解消済み。今の状態で奴を倒しても体を乗っ取られて終わりだな。どうしたものか……
「まぁ遊びながら考えるか」
俺が首をコキコキと鳴らすと、アスタロトは妖しげな笑みを浮かべた。
「……遊ぶ余裕があるといいけどね」
そう呟くと、アスタロトはゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。
「『筋力強化100』」
俺が持つ無数のスキルの1つ「筋力強化」のレベル100を発動したアスタロト。その全身に、目には見えない強大な力が集まっていく。俺の分身に憑依した今のアスタロトは、本体である俺のみが使える「不老不死」と「復讐の剣」以外のスキルを全て使う事ができる。
「……凄いなぁ。ただの『筋力強化』でもレベル100になるとここまで別物になるんだ。力が溢れて止まらないよ……。これが『復讐の剣』によるスキルのコピーと進化……堪らないね」
「満足したか?」
「……ふふっ! まさかぁ~。まだまだ序の口でしょこんなの」
興奮気味に笑うアスタロト。俺はアスタロト同様「筋力強化100」を発動させ、ゆっくりとアスタロトの元へ足を進める。
「力比べがお望みなら付き合ってやる」
拳が届く距離まで近づくと、俺とアスタロトは互いに足を止めた。そして……
「──ッ!!」
俺とアスタロトは、全力の拳を同時に放った。
互いの拳が衝突し合い、爆発音のような轟音と、空間を切り裂くような鋭い高音が響き渡る。威力はほぼ互角。衝突した拳から放たれる余波は大気をさらに震わせ──
「だから余裕こきすぎなんだって。テッド君」
アスタロトがそう口にした直後。俺の拳がビキビキッ!! と強烈な音を立てて割れた。それを認識したと同時に、俺の体は数百メートルほど後ろに吹き飛ばされてしまった。
「たしかにテッド君の言う通り、君の分身2体分の力を得たところで、本体の君には遠く及ばない。純粋な力比べだったらね」
アスタロトの腕には、桁違いなほどに強大な闇の魔力が込められていた。
「私はね、魔王の血族の中では肉体がそこまで強い方じゃないし、戦闘センスもイマイチだった。でも私は誰にも負けない2つの天賦の才を持って生まれた。それは『支配』という魔王に相応しい絶対的な能力。そして、どの魔王にも引けを取らない膨大な魔力だよ」
俺を力技でぶっ飛ばしたのが余程自信に繋がったのか、普段のアスタロトの小声で弱気な口調が徐々に力強いものへと変わっていく。
「それに加えて今の私は、さらに魔王デスピアの力をも存分に使う事ができる。キミの分身2体と魔王2体分の力……最強無敵と化した今の私に、君はどうやって勝つつもりなのかなぁ!?」
殴り合いに勝ったのが本当に嬉しかったのか、とことん饒舌になるアスタロト。俺はミンチのように潰れた自分の腕を再生させ、ゆっくりと起き上がる。正直、今のアスタロトの話はほとんど聞いていなかったが、最後の部分だけはちゃんと耳に残っている。どうやって勝つ、か。正直そんな事を聞かれても困る所だ。アスタロトに勝つ方法……そんなものはいくらでもあるからな。
「逆に聞くが、どうやって俺に勝ってほしい? お前が望む形の敗北をくれてやるよ」
「……いいねぇ。やっぱり最高だよキミ」
そう言って、アスタロトは怒り混じりの笑みを浮かべた。
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