194 回収完了
アルトを回収した俺は、見渡す限り真っ白な空間へと移動し、アルトをそのまま放り投げた。そこへ、既に俺の分身たちによって救出されたノア、エレナ、シャドウ、神楽、竜王會の幹部たちが集まる。
「アルトさん……。よかった無事だったんですね」
「エレナお姉さん……それに皆も。もしかして、皆もテッドお兄ちゃんに助けて貰ったの?」
「うんそうだよぉ。あのクソ女の兵隊共に囲まれて大ピンチだった私を救ってくれて……流石テッド♡ 好き♡」
頬を赤らめながらそう答えるノア。たしか俺の分身が駆けつけた時、ノアは悪鬼のような笑い声をあげながら何千もの兵力相手に無双していた気がするが……まぁ本人が大ピンチだと言うなら別にそれで構わないが。
「やっぱり流石だよテッドお兄ちゃん、本当にありがとう。お兄ちゃんが来てくれなかったら、僕……僕……」
瞳に小さく涙を浮かべながら、ぎこちない足取りで駆け寄ってきて、俺の足へと抱きつくアルト。すると直後、背後から音も無く近寄って来たスカーレットが、俺の耳に自分の顔をぐいっ!! と勢いよく近づけてきた。
「テッドにはアスタロトの支配から救ってもらった恩があるし仲間としてその点は感謝している。……だが私の最推しであるアルたんとこれ以上くっつく事は許さん。……イマスグハナレロ」
どろどろとした憎悪がふんだんに込められた声で、まるで呪詛でも聞かせるように俺を脅してきたスカーレット。目一杯開いたスカーレットのガンギマリな瞳を見て、久々に恐怖というものを覚えた気がした。折角助けた仲間に燃やされるのは流石に御免なので、俺はアルトの肩を掴み、ゆっくりと自分の足から引き剥がした。
「あっ……あはは……。しかしあれですよね……。私とアルトさんの所は特に敵の数が多かったみたいですからね……。本当にテッドさんが助けてくれなかったら死んでるところでしたよ」
苦笑いを浮かべながら、必死に空気を変えようとするエレナ。だが実際にアルトとエレナが相手にしていた戦力は、他の奴らに用意された戦力に比べて遥かに強大だった。恐らくアスタロトは、戦闘と同時に回復や支援を行えるアルトとエレナを早めに潰しておきたかったのだろう。
「つーかこの白い空間はなんなんだ? 敵が全然いねぇけど」
辺りを見渡しながら、レオがそんな事を呟いた。
「アスタロトの空間魔法を真似て、俺が作った固有空間だ。結界を張ってあるから、奴らもそう簡単には入って来れない筈だ」
「っはぁー」
自分で聞いておいて欠片も興味無さそうな様子のレオ。まぁそれは本当にどうでもいいんだが……ふと周囲を見渡し、俺はある事に気が付く。
「……メルがいないな。分身も1体足りない」
いなくなった分身と意識をリンクさせようと試みたが、分身の意識を感知する事ができない。不意打ちでも食らって倒されたか、或いは……。思考を巡らせていると、シャドウが1歩前に出て、声を発した。
「ごめん……。実は少し前にメルちゃんの所に向かったんだけど、手遅れで……。彼女はもう……」
俯きながらそう口にするシャドウ。まぁ仲間でもないメルがどうなろうと知った事ではないが、それよりも気になる事がある。
「シャドウ。お前どうやってメルの所に向かったんだ?」
「君が僕たちを助けるときに使った空間魔法と似た魔法を僕も使えるんだよ。まぁ僕の場合は一度使ったらしばらくインターバルを置かないといけないんだけどね」
「……」
「あ、あれ? なんか僕の事疑ってる? 全部本当の話だってば! そ、そうだ!」
慌てふためきながら、シャドウは自分の体から何かを取り出す。それは……真っ赤な血がべっとりと付いた女性下着だった。
「これはメルちゃんのパンティだ。彼女を助ける事はできなかったが、なんとかしてこれだけは回収できたんだ。どうだい? これで僕の疑いは晴れたんじゃないかな」
「晴れる訳ねぇだろ」
思わず強い言葉でツッコんでしまう。仮にこれが本当にメルの下着だったとして、それが一体何の証明になるのだろうか。
「……まぁいい。予定とは少し違うが、そろそろ始めるとするか」
「む? 何を始めるんだ?」
シドラの疑問に対して、俺はすかさず答えた。
「アスタロトは俺たちの中の誰かに憑依している。今からソイツを炙り出す」
さて、退屈なかくれんぼに付き合うのはここまでだ。そろそろケリを付けるとしようか、アスタロト。
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