191 救出成功……
「いや早く捕まれよ」
脳内に刹那的に流れるスカーレットの記憶と煩悩に対し、思わずツッコんでしまう俺。スカーレットの斬撃を大剣で弾き、一度シドラたちの元へ戻って体勢を整える。
「思ったより重症だな……」
「何? スカーレットはそんなにマズい状態なのか?」
俺の独り言に反応するスカーレットの父シドラ。いや、俺が言ったのはスカーレットのショタコン具合についてなのだが……まぁそれは別に言わなくてもいいか。
「別にマズくはない。むしろこちらからすれば、あの状態は好都合とも言える」
「どういう意味だ」
「あの黒い細胞は力の源となっているコアを破壊すれば死滅する。そして今、アスタロトの支配とあの黒い細胞の魔力は、スカーレットの中で繋がっている」
「つまり、あの黒い細胞を破壊すれば、アスタロトの支配も同時に解けると?」
「そういう事だ。あの黒い細胞を纏っている今なら、第三者では解除できないアスタロトの支配を解くことができる」
「なるほど……。だが、どうやってあの黒い細胞のコアを見つけるんだ?」
「問題ない。もう終わらせた」
俺は手に持っているどす黒い塊を、そのまま握り潰した。気色の悪い黒い液体が、手からビチャビチャと飛び散る。
「なっ……? お前……いつの間に。何をした……?」
シドラが唖然とした顔でこちらを見ていた。別にそこまで驚く事ではない。シドラに状況を説明しながら魔力探知でコアの位置を特定し、空間魔法で俺の腕とコアの座標を繋ぎ、そのままコアを摘出しただけだ。説明は面倒だから特にはしないが。
「なんでもいいだろ。それよりも……」
俺は視線をスカーレットの方へと向ける。スカーレットの体を覆っていた黒い細胞が、蒸気を上げながら消滅し、スカーレットはその場に倒れてしまった。
「スカーレット!」
積もった雪と周囲の敵を大きく吹き飛ばすほどの猛スピードで、スカーレットの元へと駆け寄ったシドラ。シドラはスカーレットを抱きしめながら、安堵した表情と涙を浮かべていた。
「はーいいモンだなぁ親子の絆ってのはよ」
馴れ馴れしく俺の肩に手を乗せながら、平坦な声でそう口にするレオ。
「お前の感想はどうでもいい。いいからさっさと敵を倒してこい」
「別にいいだろ。おら見てみろよ。敵さんもあの光景に感極まって襲ってこれねぇ感じだぜ?」
「シドラの威圧感で動けなくなってるだけだろ」
スカーレットを抱きしめながらも、敵を威圧する事は忘れない。どんな状況でも隙を見せないあたり、流石竜王といったところか。
「つーかお前は?」
「何が」
「なにってスカーレットちゃんだよ。仲間なんだろ?」
「あぁ」
短くそう口にすると、レオは不敵に笑った。
「はっ。折角仲間を助けたっていうのに、ちっとも嬉しくなさそうだな。ぶっちゃけ仲間の事なんざ1ミリも心配してなかっただろ。つかそもそも本当に仲間だと思ってんのか?」
何故か愉快そうに、べらべらと喋り始めるレオ。
「別に心配していない訳じゃない。俺なら全員助けられると確信しているだけだ」
「……自分の力を信じて疑わねぇって訳か。お前が仲間の救出に失敗した時、どんなツラ浮かべんのか見てみたくなったぜ」
「残念だが、その望みが叶うことはない」
「は。そうかい」
レオは意味ありげに笑いながら俺に背を向け、シドラの元へと歩き始めた。俺は少し間を置いてから、取り敢えずその後を追った。
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