19 街に迫る危機
テッド達「バイオレットリーパー」が竜の巣駆除のクエストを終えた頃、ポカリ街のギルドでは、冒険者とは名ばかりの飲んだくれたちが酒とつまみで大盛り上がりしていた。
「おい聞いたか! テッドの野郎、B級クエストに出たらしいぞ!」
「ははっマジかよ。あのガキにゃまだ早かったんじゃねーか? あひゃひゃ!」
B級クエストどころか、E級のクエストで日々の飲み代だけを稼ぎ続ける底辺冒険者たちが楽しそうに笑う。
「まぁあのガキはどうなっても構わねーんだけどよ、もしステラちゃんになんかあったらマジで処刑だな」
「そりゃ当然だな。まぁステラちゃんも最近はメキメキとレベルを上げてるから、そこまで心配しなくてもいいとは思うがな」
「まぁな。つかそれ以前に、あのテッドのクソ野郎も、腕っぷしだけはかなりのものだしな」
「クソ腹立つぜ。テッドに夜襲を仕掛けた奴らは全員返り討ちだ。あんとき、サルタナの拳を止めただけのことはあるって事だな」
ポカリ街のアイドルであるステラとパーティを組んだテッドは、ギルドの飲んだくれ冒険者たちに逆恨みされていた。その為、ほぼ毎日のように飲んだくれ冒険者たちから奇襲を受けていたテッドだったが、涼しい顔で全て返り討ちにしていたらしく、気が付けばテッドに奇襲を仕掛ける者はいなくなっていた。
「あぁ~あ。なんか酒がマズくなったから、テッドの物真似でもすっか」
「お、やれやれ! とびっきりスカしたやつ頼むわ!」
飲んだくれの一人が立ち上がり、キメ顔を作る。
「面倒だな……」
「ぶはっ! 滅茶苦茶似てるじゃねぇか!」
「ぱっとしねぇツラのくせにカッコつけるんだよなぁ、あの中二病!」
ギルドの飲んだくれたちは、サルタナと揉めた時のテッドの顔(擬態で作った適当な顔)を本当の顔だと思い込んでいる。その為、テッドの素顔を知る者は一人もいなかった。
「あ~あ! なんであんなクールぶった根暗陰キャが俺たちのステラちゃんとパーティ組んでんだよぉ~!!」
「そりゃ腕っぷし以外ねぇだろうよ! 俺も強くなりてぇ~!」
「だよなぁ! そしたら、毎日ステラちゃんとヤリたい放題なのによぉ!」
「かぁ! ステラちゃんマジ抱きてぇわぁ!」
ステラが彼らとパーティを組まない理由は、まさに彼らの言動そのものに表れているのだが、その事実に飲んだくれたちは誰一人として気が付いてはいない。
「あぁクソテッドうぜぇ! 今度全員でシメようぜ!」
「マジでアリ寄りのアリ! ひゃはは!」
「ギャハハ! ……ってお? なんだ嬢ちゃん。見ねぇ顔だな」
すると突如、飲んだくれたちの前に、歪な雰囲気を纏った謎の女性が現れた。
「ねぇお兄さんたち。今、テッドって言った?」
「んあ? 言ったけどそれがどうかしたのかよ」
「つーか嬢ちゃん……滅茶苦茶可愛いじゃねぇか。おまけにスタイルめっちゃいいしよ! どうだ、俺たちと一緒に飲まねぇか!?」
飲んだくれの一人が女の肩に手を回す。
「あはは。悪いけど遠慮しとくわ」
「つれねぇ事言うなよ! 嬢ちゃんみてぇな美少女がいれば酒がもっと──」
直後。
何かを言いかけた飲んだくれが、なんらかの衝撃により数メートルほど吹き飛ばされる。
それが、謎の女のデコピンによるものだと気が付くのには数秒かかったが、それでもあまりにも信じ難い光景だった。
「アンタらと飲むとか死んでもないから。そんな事より、テッドってのがどこにいるか教えなさい」
「な、なんなんだよお前……」
先ほどの態度はどこへやら。
飲んだくれたちの美少女に対する性欲は、突如顔を出した恐怖心によってあっという間に塗りつぶされた。
そんな飲んだくれに目もくれず、女は気だるそうに口を開く。
「私は魔王軍幹部『七幻魔』の一人、ジャスパー。魔王様の命令で、テッドって奴を捉えに来た」
威圧的なジャスパーの言葉に、あれだけ騒がしかったギルド内があっという間に静まり返った。
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名称:ジャスパー
ランク:S
属性:炎、闇
備考:七幻魔・序列第四位
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