188 まさかの
「復讐の剣」……もといエリスの力で固有空間から脱出した俺たち。その先には、目の錯覚を起こしそうなほど色とりどりに光る色彩空間が広がっていた。空間の広さ、高さなどが一切分からない上、自分たちが立っているのか浮いているのかも分からない、なんとも奇妙な空間だった。まぁそれはいいとして。いい加減自分の体を俯瞰で見続けるのも退屈になってきたので、そろそろ俺の体を返してもらうとしよう。
『あぁ~残念。もう少し暴れたかったんだがなぁ……』
エリスがそう言って笑った直後。俺の体を覆っていた黒い触手がグロテスクな音を立てながら体内へと戻っていった。そして、全ての触手が体表から消えると同時に、まるで幽体離脱でもしていたかのように宙ぶらりんだった俺の意識が、徐々に自分の体へと戻っていった。
「なんか戻り方グロくてキモいな。つかマジで何者なんだよお前」
「さぁな。それよりアイツの元へ向かうぞ」
「そいやそれさっき聞きそびれたわ。誰なんだよアイツって」
「ノアだ」
俺は簡潔に答える。同時にこの気色悪い空間から出る為の準備を進める。
「あ? なんでノアちゃん?」
「この状況を打破するのにアイツの能力が必要だからだ」
俺は黒い大剣を召喚し、膨大な闇の魔力を纏わせる。先ほどエリスが使っていた「ダブルダークセイバー」を頭に思い浮かべ、同じように大剣を素早く振った。すると、色彩模様の空間上に数メートル程の黒い直線が出現した。俺は右手に魔力を込め、その黒い切れ目を強引に抉じ開けた。
「すっげ……。もしかしてそれさっきの技パクったのか?」
「言い方は気に入らないが、まぁそうなるな」
「はーやば。天才犬じゃん」
「なんで犬なんだよ。それよりもさっさと行くぞ」
俺は首をくいっと動かす。
「あーやっと女の子の所に行けるぜ。ノアちゃーん待ってろよー」
「いや。残念だが、この穴がどこかの固有空間へと繋がっている事は確かだが、行き先までは指定できなかった。つまりどこに辿り着くかは完全ランダムだ」
「えぇ~マジかよ。まぁ女の子がいるなら別にどこでもいーけどな」
首をコキコキ鳴らしながら、文句を垂れるレオ。俺はそんなレオを無視して、一足先に黒い穴の中へと入った。
◇◆◇
黒い穴を抜けると、そこには広大な氷の大地が広がっていた。おまけに、生き物を一瞬で氷漬けにしてしまいそうなほど凶悪な吹雪が吹き荒れている。
「うおっさっぶ! こんな寒さじゃセッ〇スもできやしねぇ! クソ! さっき服着ときゃよかったぜ!」
「服はいつも着てろよ」
アホな露出狂を放っておいて辺りを見渡すと、数百メートルほど先で戦闘が行われているのが見えた。
「行くぞ」
俺はレオに手を差し伸べる。
「……なんだお前。もしかして温めてくれるのか? じゃあお前も全裸になって一緒におしくらまんじゅうしようぜ」
「凍死する前に殺してほしいみたいだな」
「うそうそ! ジョークだっつの! ったく冗談通じねぇんだからテっちゃんはよぉ! つんつんつーん! ウェ~い」
そう言って俺の肩に手を回しながら、俺の左乳首を的確に指でつつくレオ。ウザいくらい元気だな。普通の奴がこんな環境に放り込まれたら、1分と待たずに死んでいるだろうに。
「さっさと行くぞ」
俺はレオの手首を強引に掴み、数百メートル先まで瞬間移動した。そこでは、何千人もの冒険者や魔族、モンスターたちと、竜王會のボスシドラとの激戦が繰り広げられていた。できれば早めにノアと合流しておきたかったが、残念ながらそれは叶わなかったようだ。
「ハズレか」
「ハズレか」
「お前たちが何故ここにいるのかは分からないが、取り敢えず失礼な奴らだな……」
俺とレオが同時にそう口にすると、シドラは呆れると同時に、どこか安堵した表情を浮かべた。
「まぁ色々と聞きたい事はあるが、取り敢えず助かった」
「助かった? そこまで苦戦しているようには見えないが」
竜王シドラのランクはSSS。世界最強の竜族であるこの男が、たかだか何千人程度の雑兵程度に手こずるとは考えにくいが……。
「数は問題ではないが……あれを見てみろ。お前にも関係する事だ」
歯切れの悪い様子で相手側を指さすシドラ。
目を向けると、そこには黒い装束を身に纏った、緋色の髪の美女が立っていた。
「スカーレット……」
ここに来てようやく操られた仲間を1人見つける事ができた。だが、相手がスカーレットだからといって、シドラに一体何の関係があるのだろうか……。
「アイツは……スカーレットはな、俺の娘なんだよ」
「え?」
予想外の事実に、俺は思わず驚いてしまった。
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