184 威風堂々
じめっとした熱気が漂う森の中。アスタロトに支配された戦士たち数千人が、レオを逃がさぬように取り囲んでいた。
「はっ。中々悪くねーな」
だが、レオは余裕の笑みを崩さなかった。それもその筈。レオは世界にほんの一握りしか存在しない、レベル300に達した最強クラスの冒険者。格下数千人に囲まれた程度で動じる筈もなかった。
「どうした? ビビッてねぇでもっと来いよ」
猛獣のような鋭い目つきで周囲を睨みつけるレオ。凄まじい威圧感に一瞬たじろぐ数千人の戦士たち。しかし、数千人の戦士たち……より正確に言うならば、数千人の女戦士たちはすぐに呆れた表情を浮かべた。
「貴方……この状況でよくそんな態度でいられるわね」
「何が? わりーけど、俺からすればこの程度の数の開きなんざハンデにもならねーぜ?」
「いや数もそうなんだけど……」
レオの全身を一瞥すると、女戦士の1人は少し気まずそうな表情を浮かべ、こう口にした。
「その……全裸で磔にされて数千人からボコボコにされてるのになんでそんなに余裕でいられるの?」
十字型の柱に全裸で磔にされた状態で、レオは何故かニヤリと笑った。
「余裕に決まってんだろ。こんなモン追い詰められた内に入らねーよ」
「あんな簡単なハニートラップに引っ掛かったクセに、よくそんなドヤ顔できるわね」
それは、アスタロトの空間魔法によって、レオがこの森に飛ばされた直後のことだった。
◇◆◇
「なんだここ。ジメジメしててうざってぇな」
「ねぇ~そこのカッコいいおにいさぁん」
「あ? なに──うおっ! なんだコレ! 見渡す限り女、女、女……女ばっかじゃねぇか!!」
「ねぇおにいさぁん……。戦いとかいいからさぁ~私たちと一緒に飲もうよぉ~」
「え、マジで!? 最高じゃん! 飲む飲む!!」
そしてその後、女戦士たちに囲まれながら大量に酒を飲んだレオは爆睡。そのまま呆気なく捉えられてしまったのであった。
◇◆◇
「……まさかあんな巧妙な手口を使ってくるとはな。とはいえ、この俺を手玉に取った事は褒めてやる。敵ながらあっぱれだ」
「嵌めた私たちが言うのもなんだけど、あのやり取りに巧妙な部分あった?」
「しっかしマジ悔しいなー。こんだけ色んな種族の女たちとヤレる機会なんてそうそうねーのに。こんな時に限ってチ〇コが石になってて使えねーんだからよ」
「貴方が悔やむべきなのは、その異常なまでの軽率さだと思うけど……」
再び呆れた表情を浮かべる女戦士。すると、その隣にいる金髪の女エルフが耳打ちで何かを話し始めた。
「(すみません。先ほどから弱体化や状態異常の魔法を使っているのですが、全く効果がありません……。それどころか、他の者の攻撃も殆ど効いている様子がなく……)」
「(やっぱりね……。相手はレベル300の怪物。レベル差がありすぎてこちらの攻撃が全部無効化されているんだわ……。酒の中に大量に混ぜた猛毒も全然効いてなかったしね……)」
加えて、元々レオのパラメータは魔力以外の全てが最高クラス。稀有な存在であるレベル300台の冒険者の中でも、こと純粋なパラメータにおいてレオを上回る者は存在しない。いくら数千人の戦力を集めようと、生半可な攻撃が通用しない事は火を見るより明らかだった。
「(仕方ない……。こうなったらアスタロト様に報告して、レベル200台かランクS以上の実力者を寄越してもらうしかないわね……)」
女戦士が小声でそう口にした……その直後だった。
磔にされているレオの右上の空間に、ぐにゃりとした歪みが発生した。
「あ? 武器庫が勝手に開いたっつー事ぁ……もう出てくんのかよ」
レオが他人事のようにそう口にすると、武器庫と呼ばれた空間の歪から素早く人影が飛び出した。それと同時に、レオを拘束している十字型の柱が一瞬でバラバラになった。
「なんで出てきたんだよ。こんくらい俺1人で十分だぜー?」
拘束から解放されたレオは、手首を軽くスナップさせながら目の前の男に話しかけた。男はレオに背を向けたまま答える。
「もう飽きた。あの空間は窮屈過ぎる」
「お前から頼んできたのにひでぇ言い草ですこと」
女戦士たちの視線が、突如現れたその男へと向けられる。紫色の髪、白い肌、邪悪な光を帯びた赤い瞳。この場に最もいてはならない男の存在に、女戦士たちは戦慄する。
「な、なんで貴方がここにいるのよ……。テッド!!」
女戦士たちの1人が、思わず驚きの声を上げた。
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