181 疑念
「ここは……」
目を開けると、闇一色に塗り潰されていた景色は、地平線の彼方まで続く広大な草原へと姿を変えていた。どうやらアスタロトの空間魔法によって、別空間へと転移させられたらしい。しかし他の連中はともかく、この俺を強制的に転移させるとはな。先ほどまでの攻撃や固有結界は、全てこの強力な空間魔法を発動させるまでの時間稼ぎだったという事か。
「どこまでも臆病な女だな……アスタロト」
5億人も味方につけた上、さらに俺たちを分断して連携を取らせないようにするとは。たしかにこちら側は強者揃いだが、それを考慮してもあまりに慎重すぎると言わざるを得ない。いや、今はそんな事はどうでもいい。それよりも……
「憑依……か」
分断される直前にアスタロトが言い残した事が本当なら、奴は既に俺たちの中の誰かに憑依しているという事になる。仮に俺たちが何らかの手段を用いて再び合流したとしても、アスタロトが憑依しているかもしれない、という疑念が残る以上、協力して戦うのは難しくなる。まぁ俺に関しては、ハナから連中と協力して戦うつもりは更々ないので、その辺りは割とどうでもいいが。それよりも、アスタロトが何者かに憑依したせいで、奴の魔力を感知する事ができなくなってしまった。この戦いを終わらせるにはアスタロトを倒すのが一番手っ取り早いのだが、どうやらそう簡単に王手とはいかないようだな。そして、問題はアスタロトが誰に憑依したのか、という点だが……
「アイツではない事はたしかなんだが……」
憑依の発動条件が不明である以上、俺が思い浮かべた人物以外の全員が憑依の対象となってしまう。奴の言う通り、本当に俺たちの中の誰かに憑依しているのか、或いはそれはブラフで、実際は別の人物に憑依しているのか……。そしてそれが、奴に支配されてしまったステラたちである可能性も十分にある。いやむしろ、奴の戦略を考えれば、俺と無関係の人物に憑依している可能性はほぼ無いと言っていいだろう。連中か或いはステラたちか……いずれにせよ俺と関わりのある人物と遭遇した際は警戒する必要があるな。
「……取り敢えず、ここから出ないとな」
奴が誰に憑依していようと、まずは俺がここから出なければ何も始まらない。俺は脱出の糸口を探るべく、行動を開始した。
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