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180 モグラ


「テッドさん、本当にジャミングとトラップの解除に成功したようですね。なんというか……こんなに早く解除できるなら先に言ってほしかったですね」


「ま、まぁ確かにね。しかも僕なんて『僕たちクラスの賢者が10人揃ってようやく1週間かかるくらいかな』とか言っちゃって、なんだかすごくかませ犬みたいだったね……」


 先ほどの自分の発言を思い返し、羞恥心に苛まれるエレナとアルト。シャドウはそれを見て、けらけらと笑い出した。


「全くしっかりしてよ2人共。特にエレナちゃん、折角ギルド嬢から全盛期の頃のステータスに戻してあげたっていうのにさ」


「ステータスを戻してくれたのには感謝していますが、ここまで何もしていない貴方にそんなこと言われたくありませんね」


「まぁテッドのスカしは大分ウザかったが、取り敢えずアイツがピンクちゃんを倒しちまったって事でいいのか?」


 退屈そうな表情を浮かべながら、レオはそう口にした。


「どうだろうな……。あの女がこうも簡単にくたばるものだろうか」


 シドラが堅苦しい口調でそう答えるも、神楽は怪訝な表情を浮かべていた。


「じゃがアスタロトの気配が完全に消えた。これはテッドの奇襲が成功した事を意味しておるのではないか?」


『……残念だけどハズレだよ神楽ちゃん。私は生きてるよ』


 突如。アスタロトの声がその場の全員の脳内に響き渡る。しかし……


「どういう事だろ……。彼女の声はたしかに聞こえるのに、魔力や気配がまるで感知できない。ショタである僕の感知に引っ掛からないなんてあり得ない」


「そのショタの感知というのはよく分かりませんが、私の方も同じです」


「タロちゃーん。今度はどんなトリックを使ったのかなー?」


 シャドウは呑気な声でそう尋ねた。



◇◆◇



「これは……」


 アスタロトが作り上げた固有結界の中へと瞬間移動し、奴の首を跳ね飛ばした俺。だが、アスタロトを倒したにも拘わらず結界が消えることはなかった。まさかこの俺が偽物を掴まされたというのか? いやだが、コイツは正真正銘本物のアスタロトだ。偽物や分身などでは決してない筈なのだが……。


「取り敢えずここから出るか」


 外に出る為に結界を破壊しようとした、その直後だった。


「なんだ……体が」


 不快な倦怠感が体を襲い、俺は思うように身動きが取れなくなってしまった。周囲を観察してみると、大量の光属性の魔力が結界内に充満している事に気が付く。


「そういう事か……」


 ついに体の御制が効かなくなってしまい、俺はその場に倒れてしまった。



◇◆◇



「憑依……だって?」


 驚きの声を上げるシャドウ。アスタロトは構うことなく続ける。


『……そう。私は既に自分の体を捨てて、新しい体へと憑依した。だからテッド君が倒したのは、私であって私ではないって事なんだよ』


「面倒な言い回しだけどなんとなく分かったよ。しっかしタロちゃんが憑依なんてできる事にも驚きだけど、まさかテッドを誘き出す為に自分の体を犠牲にするなんてね」


『……これくらいやらないと彼を騙せないと思ってね。だから固有結界も超本気で作ったんだけど、まさか5秒で破られた上にあんなにカッコつけられるとは思わなかったよ……。まぁ彼を捉える事には成功したから別にいいけどね』


「大方、固有空間内に大量の光の魔力を発生させてテッドを動けなくした……ってとこかな?」


『……大正解。確実に彼が身動き取れないように、それでいて殺さないように……そんな超絶絶妙な火加減で絶賛グリル中だよ』


 悦に浸ったアスタロトの声が響き渡る。すると、それを聞いたレオが馬鹿にするように鼻で笑った。


「はっ。あのヤローあんだけスカしといてまんまと捕まったのか。クソだせぇ事この上ねーな」


「それはあり得ないよ! テッドお兄ちゃんはこんな事でやられたりしないよ!」


「そうだ! テメェ次テッドを侮辱したらガチで殺すからな!」


 レオの言葉に怒りを示すアルトとノア。


「へーへーさーせん。まったく、頭のヤられた妄信的なファンほどめんどくせーもんはねぇな。過剰な持ち上げは本人の首を絞めるだけだぜ?」


 全く悪びれる様子もなく、首をコキコキと鳴らすレオ。それを見たノアがまた何かを言いかけたが、エレナがそれを制止する。


「まぁテッドさんなら自力でなんとかするでしょう。それよりも……今は私たちの心配をした方がいいかもしれません」


『……流石エレナちゃん。私もその通りだと思うよ』


 アスタロトの嘲笑が響き渡った、その直後。周囲の空間に無数の黒い渦が出現し、その奥から夥しい数の戦士たちが姿を現した。


「なるほどな。支配した連中は別の空間に待機させてたって訳か」


「あはっ! ようやくお出ましかぁ……楽しくなってきたね」


 好戦的な笑みを浮かべながら戦闘態勢に入るレオとメル。他の全員もそれに続けて構え始める。しかし……


「──ッ!! 皆さん避け──!」


 それの前兆に最初に気が付いたのはエレナだった。エレナたちの頭上の空間がぐにゃりと歪んだ直後。不可視の魔力の塊が、エレナたち目掛けて振り下ろされた。このままではエレナたち全員どころか、ポカリ街の大半が押し潰されてしまう。


『じゃあね。皆──』


 アスタロトがそう言いかけた直後。()は大剣に魔力を込め、不可視の魔力を切断する。空を切り裂くような鋭い轟音が響き渡ると共に、不可視の魔力が完全に無力化された。


「テッドお兄ちゃん!」


 皆の背後から姿を現した俺を見て、アルトが満面の笑みを浮かべた。


「なんだゴビョー。もう出てきたのかよ」


「妙なあだ名を付けるな。閉じ込められたのは分身で、俺は最初からここにいた。姿と気配は消していたが」


「は。最初からピンクちゃんの策に気が付いてたって事か? やるじゃねぇか」


「別に気が付いてはいない。罠である可能性を想定していただけだ」


 俺がそう口にすると、アスタロトの露骨な舌打ちが聞こえてきた。


「気分はどうだアスタロト」


『……別にどうもしないよ。君を捉えるのには失敗したけど、君たちが圧倒的に不利である事には変わりないし』


「他人の体に憑依してまで逃げ惑う腰抜けがよく言う。まぁいい。どいつに憑依したかは知らないが、お前を叩きのめすまでモグラ叩きに付き合ってやる」


 俺がそう口にした直後。アスタロトにしては珍しい、大きな笑い声が響き渡った。


『……別に好きにしなよ。でも叩くモグラは慎重に選んだ方がいいよ』


「どういう意味だ」


 俺がそう問うと、アスタロトは一呼吸置いてこう答えた。


『……私は今、君たちの中にいる』


 アスタロトがそう言い残した直後。

 周囲の景色が歪み始め、辺り一帯が闇一色に包まれた。



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