18 仮面の男
「よかったじゃないですかテッドさん、レベルが上がって! 理由はよく分からないですけど」
「まぁ、そうなんだが……」
俺はモンスターとの戦闘によって経験値を得ることができない。
その為、どんなに戦ってもレベルは上がらないと思っていたが……
「表示されないだけで、実は経験値が手に入っていたのか? いや、それとも……」
考えてはみるものも、現状では判断のしようがない。
まぁ、追々考えていくとするか。
「取り敢えず帰るぞ。感知してみたが、他のドラゴンの気配は感じない。もう大丈夫だろ」
「了解です。しかしとんでもない強さでしたね、イカズチ」
「まぁそうだな」
俺たちは再び出口を目指して歩き出す。
すると──
「まさか雷帝を倒しちゃうなんてね。正直驚いたよ」
背後から聞き覚えの無い声が聞こえ、後ろを振り返る。
俺たちの数メートル先、そこにいたのは、仮面とマントを身に纏った不気味な人物だった。
「誰だ?」
「名乗るほどのものじゃないよ、テッド」
改めて聞いても、聞き覚えの無い声だったが、どうやらコイツは俺の事を知っているらしい。
そこで俺はふと、ギルドの飲んだくれたちの会話を思い出す。
「お前が噂の『仮面の男』か?」
「あはは。まさか噂になってるなんてね。多分そうなんじゃない? 他にも似たような人がいたら知らないけど」
へらへらと笑う仮面の男。
だが、仮面の男なんて呼ばれてはいるが声は女のものだった。
体つきを見れば分かるかと思ったが、マントで全身を覆っている為、背丈が俺と同じくらいであることしか分からない。結局のところ、男か女かはよく分からないが、取り敢えず仮面の男としておこう。
いや、そんな事よりも……
「お前、俺の事を知っているのか?」
「当然だ、よく知ってるよ。なんなら世界で一番君について詳しいかもしれない」
それはまた、大きく出たものだな。
俺がどう切り出すか考えていると、仮面の男が勝手に口を開く。
「しかし、雷帝との戦いを見てたけど、随分と戦闘スタイルが変わったね。前は魔法での遠距離攻撃を得意としていたけど、今は大剣を使ってのゴリゴリ近接戦闘……真逆もいいところだ」
「よく知ってるな」
俺はレッドホークに加入してからあの怪物に一度殺されるまで、遠距離魔法を多く使用していた。
まぁレッドホーク加入以前はどうだったのかは知らないが。
「まぁね。しかも外見もぱっと見別人だし。君の中に入ったものの影響が相当大きいらしい」
「中に入ったもの?」
「あれ、まだアイツと話してなかったんだ。まぁ知らないなら別にいいけど。というかアイツ、いきなりいなくなったと思ったら、まさか他人の体を乗っ取って外に出るなんてね。全く面倒かけさせるなぁ……誰が世話してやったと思ってるんだよ。はぁ……」
表情は全く見えないが、声だけで気だるそうなのが十分伝わってくる。
「お前は何者だ」
「だから名乗るほどじゃないって。でもそうだな、その時がきたら教えてあげるよ」
「その時?」
「君を殺す時さ」
「それはまた、随分と物騒な話だな」
「君を殺さない限り、僕はずっと『仮面の男』のままだ。でもそれでいい。僕は君を倒して、本当の自分を取り戻す」
凄まじい殺気が伝わってくるが、生憎と記憶がないので、ここまで殺意を向けられる理由は分からない。
「じゃあ今やってみるか?」
俺は大剣を構える。
だが、仮面の男は首を横に振る。
「今はまだその時じゃないよ」
「負けるのが怖いのか? まぁ無理もない。俺を倒せるものなどこの世には存在しないし、俺は死なない。お前如きじゃ歯が立たないだろうからな」
あからさまな挑発を仕掛けてみる。
だが、俺の思った以上に効果があったようで、仮面の男から怒りの熱気のようなものが感じられた。
「……その台詞、いいね。以前とは別人って言ったけど撤回するね。君は本質的なところでは何も変わっていない。その不遜な態度、いつか後悔させてやるよ」
「なら、いつかじゃなくて今後悔させてみろ。俺はどんどん強くなる。やるなら今の内だぞ」
「だから今はその時じゃないんだって。君にはもう少し成長してもらって、是非とも暴れてもらいたいところだしね。きっとこれから大変だろうし」
「これから?」
「楽しみにしておくといい。そしてその時が来たら後悔するといい。今日僕に見つかったのが、君の運の尽きだ」
俺たちから背を向ける仮面の男。
だが、ふと何かを思い出したようで、顔だけをこちらに向けて喋り始める。
「あ、そうだ。一つ忠告だけど、さっきみたいな力はなるべく使わない方がいいよ。あれを使う度に、君の意識はどんどんアイツに乗っ取られていく。僕はそんな君を殺したいとは思わない」
さっきみたいな力……それは恐らく、イカズチを倒した時の黒い触手の事を言っているのだろう。
「じゃあね。次会った時は確実に殺してあげるから」
手をひらひらと振る仮面の男。
俺は高速で男へと詰め寄り大剣で切りかかるも、男は虚空の彼方へと姿を消した。
「……瞬間移動か」
「な、なんだったんですか。あの不審者は」
「不審者って……。いや間違ってはいないか」
何故か上がったレベルに、俺の事をやけに知っている仮面の男。
イカズチに勝ったものの、謎は深まるばかりだった。
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