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「おいおい2人共抜け駆けかよ。俺があの隕石ぶっ壊そうと思ってたのによー」
軽薄な口調でそう言うと、レオは馴れ馴れしく俺の肩に手を回してきた。虚勢でもなんでもなく、実際にコイツなら隕石の破壊程度は造作もないだろうな……なんて事を考えていると、レオが俺の肩に手を回しているのが気に入らなかったのか、ノアがレオの脛を思い切り蹴りとばした。
「テメェ! テッドに馴れ馴れしく触ってんじゃねぇぞクソチャラ男がッ!!」
「ひでーなノアちゃん。こんな状況なんだし、俺とも仲良くしてくれよー」
「2人共ふざけてる場合じゃないですよ。今のような攻撃が何度も続いたら、私たちは何もできずに全滅ですよ」
ぴしゃりと言い放つエレナ。「私別にふざけてないのに……」と少し拗ねた顔で呟くノアが視界に入ったが、目が合ったらまた馴れ馴れしく甘えてきそうなのですぐ視界から外した。
「へーへーわーってんよ。で、実際どうすんだよ。あの墜落中の魔王城に追加攻撃でも仕掛けんの?」
気だるそうにそう口にするレオ。それに対しエレナが何かを言いかけたが、先にアルトが答えた。
「そんな事しても無駄だよ。恐らくあの魔王城は既にもぬけの殻だろうからね」
「あ? そーなん?」
軽く首を傾げるレオ。どうやらアルトとエレナは気が付いているようだな。流石は一流の賢者たちといったところか。
「魔王城からアスタロトの気配が消えた。恐らく攻撃を仕掛ける寸前に脱出したんだろうな」
『……その通りだよ。流石私の支配から逃れた実力者の皆さんだね』
「だろ? もっと褒めてくれよピンクちゃん」
「貴方は全然気が付いてなかったでしょ……」
隣でふざけるレオにツッコむエレナ。そのやり取りに特に興味がない為、俺はアスタロトへと言葉を投げかけた。
「で、お前はいつになったら俺たちの前に出てきてくれるんだ?」
『……そうだなぁ。君の仲間が全員死んで、かつテッド君が戦闘不能の瀕死状態になったら、かなぁ』
「5億人も従えてるクセに随分と腰が引けてるな。もっと自信を持って前に出てきたらどうだ?」
『……そういう安い挑発には乗らないよ。私はこの戦いを楽しむつもりなんて欠片も無い。確実に、徹底的に、無慈悲に君たちを叩き潰す。そして私はこの世界の全てを支配し、新世界の魔王になる』
「外に一歩も出ない奴が世界を支配する? 笑わせるなよ引きこもりの魔王が」
『王は玉座から動かないものなんだよ』
「なら引きずり下ろすまでだ」
俺は再びアスタロトの居場所を探す為に感知魔法を発動させる。しかし……
『……私の居場所を割り出そうとしても無駄だよ。今私は外界から完全に隔離された特殊な固有結界の中にいるからね』
「どうやら彼女の言う事は本当みたいだよテッドお兄ちゃん。しかも、前に怪物と海で戦った時と同じで、強力な魔力ジャミングによって瞬間移動が使えなくなっている」
「瞬間移動を使わずに彼女の元へ辿り着くには、何重もの固有結界を破らなければならないようですね。おまけに迎撃術式に幻術、強制移動術式……無数の魔法トラップが張り巡らされていますね」
「トラップを解除しつつ強力な固有結界を全て破る……正直ムリゲーだね……。僕たちと同レベルの賢者が10人くらいいて、ようやく1週間かけて突破できるかどうかって感じだよ」
「やはりジャミングを解除して瞬間移動を使った方が早いでしょうか」
「ジャミングの解除は相当な精密作業になる。幻術や強制移動術式を躱しつつそれを実行するのは、さっきの話よりも遥かに難易度が高いだろうね……」
高レベルの賢者であるアルトとエレナが、アスタロトの結界及び付近のトラップについての解析を始める。だがまぁ、コイツ等に任せていても状況は進展しないだろうな。
「もう十分だ。後は俺がやる」
俺がそう言うと、アルトは少し困惑した表情を浮かべた。
「……たしかにテッドお兄ちゃんなら、僕たちより早く彼女の元へ辿り着けるだろうけど……。でもどうやって……」
「結界を破壊するのは手間だ。しかも、その間また奴に逃げられる可能性がある。だから瞬間移動を使う」
「トラップと魔力ジャミングを同時に解除するって事? いくらお兄ちゃんでもそれは……」
「問題無い。すぐに終わる」
「すぐに終わるってどれくらいで……」
「5秒だ」
直後。俺はアスタロトの結界へと干渉し、魔力ジャミングの解析を始めた。たしかに面倒な構造になってはいるが別にどうという事はないな。安易なトラップとジャミングを速攻で解除し、俺は瞬間移動を発動した。
◇◆◇
周囲の景色が一瞬で一変し、歪な色彩模様に包まれた不気味な空間へと姿を変えた。どうやらここがアスタロトの作った固有結界の中のようだな。ジャスト5秒、俺はアスタロトの背後へ瞬間移動する事に成功した。
「……さて。次はどんな魔法を使おっかなぁ~。なにせこっちには5億人プラス魔王デスピアの魔力があるからねぇ~。天変地異クラスの魔法がバンバン撃てるなんて楽しすぎるよ~」
背後を取られているとも知らず、呑気に物騒な事を口走るアスタロト。新世界の魔王を夢見た哀れな少女の遺言を聞き、俺は大剣を素早く奴の首目掛けて振るった。
直後。切断したアスタロトの首から、頭部が勢いよく飛んでいった。
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