176 ショタ再臨
翌朝。ポカリ街ギルドにて。
結局、夜通し見張りを押し付けられた俺の元に、快適な眠りから目を覚ました連中がぞろぞろと集まり出した。ノアは起きて早々朝の挨拶と礼を言いに来たが、それ以外に俺を労う者は誰一人としておらず、軽く会話をしたり、身支度をしたりと各々好き勝手やっていた。
「そういえば、レオはどうしてトリガースキルを使わないの?」
ふと、そんな疑問を口にするシャドウ。レオは面倒そうに答える。
「あのバケモノに食いちぎられてから何故か使えなくなった。なんでかは知らねぇけど」
あのバケモノ、とは外の世界を滅ぼした怪物サイカの事だ。サイカには相手の能力を奪う、或いは使えなくするといった力でもあるのだろうか。
「……そうだったんだ。それは勿体ないな。君のトリガースキルは『3人目』になり得るほどのポテンシャルを秘めていたのに」
シャドウが口にした「3人目」という言葉。それは恐らくサイカを無力化できる存在である「器」の事を示している。1人目は俺の中で眠っているステラの兄アストラ。2人目は「不老不死」である俺。その「器」に名を連ねる可能性があったという事は、レオのトリガースキルは相当強力なものだったに違いない。
「なんでお前『悪魔の強奪』の事知ってんだよ。俺の事色々知り過ぎててクソきめぇな」
「ひどい言い草だね」
「つかまぁ俺としちゃ、あんなモンねぇほうが戦いを楽しめていいけどな」
どこか自嘲気味に笑いながら、そう断言するレオ。すると、別室で身支度を終えて戻ってきたメルが、その場の全員に呼びかけた。
「てかさー。これからどうするの? タロちゃんって子が操れない勢力も、私たちの敵に回ってる可能性が高いから、仲間集めも厳しいんでしょ?」
「そうだね。でもやっぱり頭数は確保しておきたいかな。流石に戦力に差があり過ぎるからね。タロちゃんが動き出す前に、ダメ元であの人たちの所へ行ってみようかな」
どうやら味方になり得る戦力に心当たりがある様子のシャドウ。その戦力の詳細について聞き出そうとした直後、ギルドのドアが勢いよく開けられた。
「久しぶりテッドお兄ちゃん!」
そこに立っていたのは、白髪で中性的な容姿をした美少年。「ホワイトパール」のリーダーにして、トップクラスの魔法の実力を持つ賢者アルトだった。
「アルト! そうか君がいたか!」
珍しく喜びの声を上げるシャドウ。以前会った時、アルトの賢者としてのレベルは150だった。確かにコイツの実力ならアスタロトの支配から逃れる事ができるな。久しく会っていなかったので、アルトの存在をすっかり忘れていた。
「あれ? 君は前に会った和服ロリじゃん。やっぱり生きてたんだね」
すると、アルトは神楽を見てコケにしたように鼻で笑った。それに対し、神楽は攻撃的な視線をアルトに向けた。以前魔王軍が襲撃してきた時か、或いはそれ以前から何か因縁でもあるのだろうか。
「……どうやらあの時からさらにレベルを上げたようじゃのう」
「当然だよ。僕はショタだからね。日々の鍛錬、研鑽は欠かさないのさ」
別にショタじゃなくても鍛錬や研鑽はできると思うが。相変わらずよく分からないショタ絶対論を振りかざすアルト。すると、先ほどまで殺気を剥き出しにしていた神楽がどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。そして、どこから取り出したのか、数枚の紙を思い切りばら撒いた。その紙には、頬を赤らめながら俺の足に抱きつくアルトが写っており、見出しには「テッド&アルト 性別と年齢の垣根を越えた電撃婚!?」とデカデカと書かれていた。……あれは確か、以前「バイオレットリーパー」と「ホワイトパール」で海に行った際に、キッジとかいうクソ鳥に撮られた写真だ。
「流石は『ホワイトパール』のリーダーアルト。コッチの鍛錬や研鑽にも余念がないようじゃのぉ~。えぇ? 小僧ぉ~」
満足げにドヤ顔を浮かべ、低俗な煽り文句を口にする神楽。他の連中も、神楽がばら撒いた記事を手に取り、各々好き勝手に感想を口にし始めた。
「お前そんな趣味があったのか。なんで女に興味無さそうなのか謎だったが、毛も生え揃ってねぇガキのチ〇ポが好物だったんだな」
「うぅ……。テッドが私のこと好きじゃないのは分かってたけどさぁ、いくらなんでもこれはあんまりだよぉ」
「テッド君。今ならまだ引き返せるから代わりに私と結婚しない?」
「ち、違うよ皆! この時は僕もどうかしてたんだけどこれは誤解で! テッドお兄ちゃんは憧れの人ってだけで、恋愛感情とかは全く無いんだから!」
顔を真っ赤にしながら手をわたわたとさせるアルト。前も思ったが、その思わせぶりな行動が野次馬共を調子付かせている事に気が付いていないのだろうか。というか、何故神楽の仕返しに俺が巻き込まれなければいけないのだろうか。なんとなく考えたら負けな気がしたので、さっさと切り上げて本題に移る事にした。
「でアルト。ここに来たという事は、俺たちに力を貸してくれるのか?」
「勿論だよ。お兄ちゃんのピンチだし、それに僕の愛しのメイドたちもあの子に操られちゃったからね」
メイドたちというのは、アルトがリーダーを務めるパーティ「ホワイトパール」の構成員たちの事だ。メイド連中も中々の実力者揃いだが、どうやらアスタロトの支配を逃れるほどの力はなかったようだ。だがまぁ、それでアルトを味方に引き込めるなら、あのメイド共が敵に回ろうと大した問題ではない。
「それは助かる」
短くそう答えると、アルトは嬉しそうに微笑んだ後、さらに話を続けた
「それとね。お兄ちゃんの助けになると思って、他にも援軍を呼んでおいたよ! そろそろ来ると思うから、取り敢えず外に出よ」
そうアルトに促され、俺たちは全員ギルドの外に出る。しばらくすると、空の彼方から猛スピードで何かがこちらに向かって飛んでくるのが確認できた。それは十数体ほどのドラゴンたちだった。しかも、俺が今まで相手にしてきた竜族とは桁違いの力が感じ取れた。一体一体がかつて戦った青い雷竜イカズチに匹敵するか、それ以上の力を持っていると見て間違いないだろう。ドラゴンたちはポカリ街の上空まで来ると、屈強な男の姿へと変身し、俺たちの近くに降り立った。
「俺たちは『竜王會』。お前たちに力を貸す為にここに来た」
凄まじい気迫を放ちながら、男たちの一人がそう口にした。
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