174 朝会
翌日、とある海域にて。
濃霧が立ち込める海の上に、巨大な空中要塞が浮かび上がっていた。
「……まさか魔王城にスペアがあったなんてね」
その空中要塞内部のとある大広間にて。妖艶な美少女ジャスパーは気だるげな様子でそう呟いた。
「本当ですよね。というか、凄い数ですね……」
小動物のような可憐な少女ステラは、辺りを見渡しながらぷるぷると震えていた。ステラたちがいる大広間には数え切れないほどの魔族やモンスター、そして多種多様な種族たちが集まっていた。
「これだけの数を支配下に置くとは、あのアスタロトという女……やはり相当な怪物だな」
「てゆーか、なんで私たちはあの子に操られてるのに意識があるの? 本当はそんな事思ってないけど」
緋色の長髪が特徴的な美女スカーレットと、チャイナ服を着た長身のキュート少女リンリンがそう話していると、隣のジャスパーがリンリンの疑問に答えた。
「恐らく『支配』による魔力の消耗を抑える為でしょうね。これだけの数の意識を完全に支配するのは、流石のアイツでもそれなりに疲れるって事でしょ」
「え! じゃあ今なら外に逃げられるんじゃないですか?」
手をぽんと叩くステラだったが、ジャスパーは首を横に振る。
「残念だけどそれは無理ね。多分アイツは今、最低限の命令のみで私たちを縛り付けている。例えば『アスタロトの意に反するような行動は取らない』とか『アスタロト及び、彼女の仲間には危害を加えない』みたいなね」
「なるほどな。こうして好き勝手に話している今も、私たちが奴の支配下に置かれている事に変わりは無いという事か。正直お手上げだな……」
そう言って、スカーレットは小さく溜息をついた。すると、ステラが周りをきょろきょろ見渡しながら何かに怯え始めた。
「ていうかさっきから私たち……めっちゃ見られてませんか?」
「そう? まぁ私たちがテッドの仲間だから警戒してるのかもね」
なんとなくそう結論付けるジャスパー。しかし、その予想は大きく外れていた。
「(おい。あそこにいる女の子たち、皆可愛くないか? どこの所属だよあれ)」
「(あぁあれか。確か今回の最重要ターゲットの仲間だった気がするぜ)」
「(最重要ターゲット……確かテッドって奴だっけ? 会った事はねぇが、取り敢えずそいつが面食いだって事はよく分かった。他にも可愛い子はちらほらいるが、チーム全員が可愛いのはあの子たちくらいだぜ)」
「(全員か。って事はその下の奴もか?笑)」
「(冗談よせよ。てゆうかクソ! アイツがいなきゃ声かけるんだけどなぁ~)」
周囲の視線がステラたちに釘付けになっていた理由。それはステラたちの容姿に見惚れていたというのもあるが、一番の理由は……
「フォンッ! フォォンッ!! フォォォンッ!!!」
全身にギルド受付嬢エレナのタトゥーが入った筋骨隆々の強面巨漢ドンファンは、ステラたち4人を背中に乗せたまま全力で腕立て伏せをしていた。
「(なにアイツ……こわ)」
「(なにアイツ……こわ)」
「(なにアイツ……こわ)」
異種族の境界線を越え、周囲の野郎共の意見が完全一致した瞬間だった。だが、そんな異様な光景の一部となっているにも関わらず、ステラたちは平然と会話を続けていた。
「というか私たち、なんでここに集められたんですか?」
「さぁ。ま、アイツからすれば私たちはいいなりの操り人形だし、いちいち説明してもらえるとも思えないケド」
「……いや、どうやらそうとも限らなそうだぞ。ジャスパー」
スカーレットがそう口にし、大広間の扉を指さす。すると、その扉が控えめな力によってゆっくりと開けられ、奥から異様な威圧感を放つ女性が姿を現した。
「……お待たせ皆。じゃあ朝会を始めよっか」
赤紫と青紫のオッドアイを不気味に輝かせ、アスタロトは冷たい微笑を浮かべた。
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