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172 賞金首


「……やってくれたね」


 床に散らばった手配書を見て、珍しく敵意を露わにするシャドウ。まぁ誰に対しての敵意なのかは、なんとなく想像がつくが。


「あーあ、ついに俺も賞金首デビューか。バレねぇようにやってたつもりだったんだがな」


 首をコキコキ鳴らしながら他人事のようにそう呟くレオ。何をバレないようにやっていたのかは敢えて聞かないでおこう。


「貴方が何をやったかは知りませんが、恐らくこの手配書と貴方が今までしてきた事は全く関係ありません」


「ま、だろうな」


 短くそう答えるレオ。その様子だとエレナとレオも、この手配書をばら撒いた奴の正体に気が付いているようだな。


「……チッあの根暗ビッチが。イメージ通りクソ陰湿な真似しやがるな」


「あはっ、なるほどねぇ~。そのタロちゃんって子は、私たちに仲間集めをさせない為にこんなものを作ったって事か~。凄い力持ってるのに、随分と用心深いんだねぇ」


 露骨に舌打ちをして悪態づくノアと、不敵な笑みを浮かべるメル。2人の言う通り、この手配書をばら撒いたのは十中八九アスタロトで間違いない。恐らく賞金首となった俺たちと、自身の「支配」の力が及ばない勢力を敵対させるのが狙いだろう。勿論、その勢力の全てが金で動くとは限らない。だが、これにより俺たちは、実質世界中のほぼ全ての勢力を敵に回す事になってしまった。余程酔狂な奴でもない限り、この状況下で俺たちの味方に付こうとする者はまずいないだろう。


「私たちの懸賞金が1億Gで……テッド君が10億Gだって! やっぱりテッド君は別格だなぁ。しかも、テッドくんだけ生け捕りのみって書いてあるし。タロちゃんって子は余程キミにお熱みたいだねぇ」


 心底愉快そうに話すメル。詳細は知らないが、何故かアスタロトは俺を狙っている。奴の目的の為に俺が必要なのはなんとなく分かるが、それを考慮しても破格の金額だな。


「シャドウ。今のアスタロトは同時にどれくらいの人数を『支配』できるのですか?」


「ん~操り方にもよるけど、今のタロちゃんは魔王デスピア様の遺体から魔力を引き出せるからね。一部の猛者を除いた世界中の全員を同時に操れても不思議じゃないね」


 完成した「支配」のあまりのスケールの大きさに、一瞬言葉を失ってしまうエレナ。一呼吸置いて冷静さを取り戻し、エレナは話を再開した。


「……そうなると他の街に拠点を移すのも難しくなってきますね。今回のように操った民間人を刺客として使われてしまったら、戦闘も極力避けなければなりませんし」


 そう言って、エレナは床に寝転がって気絶しているギルド受付嬢や酒カス共を見た。しかしあれだな、受付嬢は分かるが、この酒カス共まで民間人扱いとはな。このカス共がエレナの中でどれだけ戦力外扱いされているかが改めて分かった気がした。

 ……とまぁ、そんな事よりもだ。今日ステラたちを見て分かったが、アスタロトは一度「支配」した相手を何度でも操り人形に変えられる。しかも、敢えてステラたちの自我を奪わずに、俺たちと行動を共にさせて発信機代わりにしたりと、その洗脳方法は多岐に渡る。今こうして気絶している受付嬢や酒カス達も、アスタロトを倒さない限り、奴の操り人形として何度でも目を覚ます事だろう。そうなると、下手な魔族やモンスターを使われるよりも質が悪い。

 ……であれば、対策は一つしかない。

 今後、俺たちの前に現れた敵は全て殺す。民間人でも魔族でもモンスターでも、アスタロトに操られていようとなかろうと、だ。それが最も合理的かつ効率的で手っ取り早い。だが……


「その事なんだが、もしアスタロトが今回のように民間人を刺客として向けてきた時は、エレナに相手を任せてもいいか?」


「私ですか……? 勿論構いませんが、一体どうして?」


 エレナがきょとんとした表情を浮かべる。


「このメンツ的に、民間人に手心を加えられそうなのがお前しかいないからだ」


「あ、あぁ。なるほど……納得です」


 この場にいる全員の顔を見て、思わず苦笑いを浮かべるエレナ。

 正義感の強いエレナの事だ。今の俺の考えを口に出していたら、確実に口論へと発展していただろう。民間人を殺すか否か、そんなどうでもいい事を話し合うなど、時間の無駄以外の何物でもない。それに口論の末にエレナが仲間から離脱する可能性もある。今回の戦いは使える駒の数に開きがあり過ぎるからな。そこそこ使える駒は1人でも多いに越したことは無い。であれば、こうしてエレナを民間人の相手に充ててしまえば、面倒な雑魚の処理も押し付けられるし、無駄な言い争いもせずに済む。


「俺たちも同様、今後敵対する相手が人間である場合は極力殺さずに無力化する。だが、魔族やモンスターは躊躇せずに殺していい」


「ひどいねぇテッド。種族差別だよそれ」


「今の話は、お前が作った冒険者システムのそれと何ら変わらないものだと思うが」


「確かにそうだね」


 シャドウや神楽は同胞が殺される事を特に何とも思っていなさそうだからな。こちらのフォローは特に必要ないだろう。


「分かったよ♡ テッドが言うならそうするね!」


「はぁ~折角たくさん殺せると思ったんだけどなぁ~。まぁテッド君が言うなら仕方ないかぁ」


 すぐに首を縦に振るノアと、しぶしぶ納得した様子のメル。一方、レオは何故か不敵な笑みを浮かべながらこちらを見つめていたが、特に異論は無いのか言葉を発する事はなかった。


「取り敢えず今日はもう遅い。交代で見張りをして、動くのは日が昇ってからにしよう」


 そう言って、俺は椅子にゆっくりと腰かけた。

 奇襲を仕掛けられたり、賞金首デビューしたりと、最後まで本当に散々な一日だったな。俺はつい、小さく溜息をついてしまった。


お読みいただきありがとうございました!

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