171 仲間探し
「その前にひとつ聞きたいんだけどさぁ、さっき話してた怪物って何の話?」
シャドウが話し始める直前。メルがそんな疑問を口にする。
「あぁそうか。キミにはまだ説明してなかったね。実は……」
そう言って、シャドウはこの世界の真実について、そして、ここまでの経緯について説明を始めた。ただし、俺が生贄の最有力候補である事などは伏せて話した為、説明としては俺たちが聞いた時よりも簡潔なものになっていた。
「あはっ! 何それ……おもしろっ」
シャドウの話を聞き終えたメルは、いつものように無邪気な笑みを浮かべた。この世界の大半が怪物に滅ぼされてしまった事や、残されたこの世界を守る為に転生者やトリガーを生贄にしていた事などについては、特に思う所が無いのか、これといって反応を示す事はなかった。
「いいねぇ。やっぱり君たちといれば、退屈しなさそうだ。私個人としては、これといった目的はないけど、改めて君たちの仲間に入れてほしいな」
そう口にすると、メルは俺に握手を求めてきた。最初は何か企んでいるのかと思ったが、どうやらこの女、本当にただ楽しそうだというだけで俺たちに近づいてきたらしい。まぁ、戦闘狂で快楽主義者のコイツらしいといえばらしいが。今のメルに殺気が無い事を確認し、俺がメルの握手に応じようとすると、ノアがメルの手をぱしっと叩いた。
「テメェ何勝手に仲間になろうとしてんだ潰すぞ」
メルに顔を近づけ思い切り睨みつけるノア。また戦いが始まっても面倒だ。ここは止めておくとするか。
「止めろノア。今は争う時じゃない」
「はぁい分かりましたぁ♡」
ついさっきまでのドスの利いた声から一変、甘ったるい猫なで声を出すノア。その変貌っぷりは正直気色悪いが、ストレートに言うとごちゃごちゃ喚きそうなので、口にするのはやめておいた。
「驚くほど従順だねぇ。私にもそれくらい優しくしてほしいなぁ」
「おい全身黒タイツ。こんなブス放っといていいから、さっさと続けろよ」
虫でも払うかのように、手の甲を雑に動かすノア。そんなノアから、全身黒タイツと呼ばれたシャドウは、特に反応を示すことなく再び話を始めた。
「さて、改めて話すけど。僕たちの当面の目標はタロちゃんを止める事だ。その為に、まずは君たち同様タロちゃんの『支配』の影響を受けない強者を探して、仲間に引き入れていこうと思う。具体的に言うと、トリガー、レベル250以上の通常職、レベル150以上の上級職、ランクSS以上の魔族やモンスター……このいずれかに該当する強者が対象だね」
「仲間集めかぁ。なんか面倒くさいなぁ。私たちだけで十分じゃないかなぁ」
「今のタロちゃんは世界中のほぼ全ての種族を操る事ができる。いくら君たちが強くても、圧倒的な数の前では無力……多勢に無勢ってやつだよ」
「へぇ~面白いね」
不敵な笑みを浮かべるメル。コイツは本当に戦う事しか頭に無いようだな。
「という訳で、さっき言った条件に該当する実力者がいたら種族問わずどんどん仲間にしていきたいんだけど、誰か心当たりある人いない?」
そう呼びかけるシャドウだったが、誰も思い浮かぶ者はいない様子だった。
「まぁそんなすぐに浮かぶようなら苦労はないよね。じゃあ僕が……」
シャドウがそう言いかけた直後だった。ギルドの割れた窓から、何十枚もの紙が風に飛ばされて室内に入ってきた。
「ん? なんだコレ」
床に散らばった紙を拾うシャドウ。俺たちも同じ様に紙を拾い、そこに記された内容に目を通す。その紙は賞金首の手配書だった。それ自体は別にいい。問題はそこに写っている人物だった。
「これは……」
手配書に写っていたのは、ここにいる俺たち全員の顔だった。
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