170 襲撃
俺たちがポカリ街のギルドに来てから、大体1時間ほどが経過した。窓から外を見てみると、すっかり日は沈み、暗闇に覆われた空が輝く星々によって照らされていた。しかし、こうして夜空を眺めていると、その日の出来事をなんとなく振り返ってしまうものだが、今日という日は、俺の人生の中でも類を見ないほど濃密で長い一日だった。七幻魔・第一位アスタロトの登場、シャドウの口から語られたこの世界の真実、その世界を救う為に俺に与えられた役割。つい溜息をつきそうになるほど面倒な日だったが、そんな一日もようやく終わりを迎える──
「おい聞いてくれ。マジでやべぇ事になった」
──なんて事には当然ならなかった。勢いよく開けられたギルドのドアの先には、珍しく慌てた様子のレオが立っていた。……何故かまた全裸で。1時間前に風呂から上がった時は、ちゃんと服を着ていた筈だが……。
「いやぁガチで緊急事態で……ってなんだこりゃ」
「多分お主と一緒じゃ。こっちも襲われた」
「あーそういう系ね」
納得したように頷いたレオは、テーブルや皿が散乱したギルド内を軽く見渡し、小さく笑った。そう、実はほんの数分前。俺たちはアスタロトの手先から襲撃を受けた。しかもその手先は、魔族やモンスターの類ではなかった。
「あのピンクちゃん。俺のセフレだけじゃなく、まさか受付嬢のねーちゃんや街のチンピラ共も操っていたとはな」
床に倒れているのは、俺たちに料理を提供していた受付嬢、そして、俺たちポカリ街ギルドの珍名物である酒カス共だった。
「そうだレオ君。私たちが食べた料理の中に、大量の睡眠薬が入ってたみたいなんだけど、レオ君大丈夫だった?」
「あ、そうなん? 別になんともなかったな。そっちは?」
「私たちもなんともなかったんだけど、そこのシャドウ……っていう真っ黒な人が急に爆睡し始めてさ。お酒入ってるにしても変な寝つきだったからさぁ、取り敢えず私たちも合わせて寝たふりしてみたら、案の定襲われたって感じ」
「ま、まぁ襲われたというか……。操られた受付の子たちが、眠ったふりをしたテッドさんを攫おうとしたら、ノアさんがキレちゃって、仕方なく戦闘が始まったって感じですかね……」
「あったりめぇだろ。私のテッドに汚い手で触る奴ぁ誰であろうと許さねぇ。殺さなかっただけありがたく思えってんだよクソッたれが」
テーブルに足を乗せて、ガラの悪い言葉を並べ立てるノア。事の顛末は大体コイツ等が説明した通りだ。付け加えるなら、戦闘開始直後に操られた酒カス共が乱入してきたくらいだが、まぁ所詮は非戦闘員の酒カスである為、正直何人増えようが戦闘への影響は皆無だった。床に散らかったゴミのように倒れている酒カス共を眺めながらそんな事を考えていると、テーブルに突っ伏して爆睡していたシャドウが目を覚ました。
「……あれ。これは一体、何がどうなってるんだい?」
「あの料理に睡眠薬が入っておった。眠ったのはお主だけじゃがな」
「なんてこった……。こんな所で僕の可愛い寝顔を君たちに見せる事になるとはね……」
「お主そもそも顔が無いじゃろ。ほらこれで満足か?」
「扱いが雑過ぎるよ神楽ちゃん。僕のこと好きなのかい?」
「……」
シャドウをガン無視して、テーブルの上に残った料理を食べ始める神楽。シャドウは「ひどいよぉ神楽ちゃん。よよよ……」と、クソみたいな泣き真似を披露すると、ふと疑問に思った事を口にした。
「まぁ状況からして、僕が眠っている間に襲撃されたって事は分かるんだけど、レオはなんで裸なの?」
「シャワー浴びてる時に突然襲われて、服を着ずに戦ってそのまま来た。つーか、そんな事よりこれ見てくれねぇか? とんでもねぇ事になっちまった」
そう言うと、レオは仁王立ちして股間を誇張する。まるで俺のチ〇コを見てくれと言わんばかりに。正直全く見たくないのだが、話が進まないので仕方なくレオの股間へと視線を向ける。そこにぶら下がっていたのは……。レオは今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
「なんか知らねぇけど、俺のチ〇コが石になっちまった……」
レオのチ〇コは、文字通り石のように固まってしまっていた。その場の女性陣がほとんど目を背ける中、シャドウは真剣にレオのチ〇コを凝視し始めた。
「具体的な症状は?」
「簡潔に言うと全く勃たなくなった。それどころか、チ〇コがぶら下がってる感覚が全くしねぇんだ」
「なるほど。おしっこは?」
「かろうじて出る」
「なるほど。診察します」
生意気に医者のような口ぶりでそう言うと、シャドウはレオのチ〇コへとずいっと顔を近づけ、指で触って何かを調べ始めた。……俺はこんな夜中に一体何を見させられているのだろうか。
「……なるほどねぇ」
「何か分かったのか?」
「結論から言うとね、これは呪いだね。キミさ、今日魔王城に来た時、ちょっと変わった風貌の女の子とヤってたでしょ?」
「あぁ。まさか、アイツの所為だってのか?」
「そうだよ。アレは簡単に言うと、君の大事な仲間を食べたあの大怪物の分身みたいな存在だ。アレらは各々が強力な魔力や能力を持っているんだけど、君の股間からはアレらと同質の魔力が感じ取れた。恐らくその石化はアレの能力の影響だ。本体が死んだ後も効果が持続している事を考えると、まさに呪いと表現するに相応しいだろうね」
「……つまり俺ぁ、バケモン女から性病もらっちまったって事か?」
「スーパー雑に言うとそんな感じだね」
心底絶望した表情を浮かべ、膝から崩れ落ちたレオに、シャドウはすっと手を差し伸べる。
「諦めるのはまだ早いよ。さっきも言ったけど、アレらはあの怪物の分身に過ぎないんだ。つまり……」
「本体のクソバケモンをぶっ殺せば、俺のチ〇コは元に戻る……!?」
「可能性は否定できないね」
シャドウの言葉を聞き、レオは勢いよく立ち上がった。
「やるしかねぇな……。俺のセ〇クスライフの為に、あのクソバケモンにリベンジマッチかましてやらぁ……」
全身から燃え上がるような闘気を出し、どこかへ走り出そうとするレオ。しかし、シャドウがそれを止める。
「まぁ待ちなよレオ。そういえばまだ言ってなかったけど、僕たちの目的もあの怪物を倒す事にあるんだ。利害は一致している。改めて、僕たちと行動を共にしないかい? 君の大切なペ〇スの為にもさ……」
「……お前、マジでいい奴だな。ありがとよ……あー。つかお前、名前なんだっけ?」
「シャドウだ。シャドウでいいよ」
そのままじゃねぇか。よくそんな「あだ名で呼んでいいよ」みたいな雰囲気出せたな。そんな下らないやり取りを終えると、シャドウはレオと握手を交わした。そして、その場の全員に聞こえるような声でこう言った。
「さて皆。こうして襲撃されちゃったし、そろそろ今後の動きについて話し合おうか」
凄まじい話題の急カーブだな。しかし、ここまでのやり取りを見ていて思ったが……一時的とはいえ、コイツ等と行動を共にして本当に大丈夫なのだろうか。俺は珍しく一抹の不安を抱くのだった。
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