17 バイオレットリーパーVS青い竜 後半戦
「よし、こんなもんだな」
「テッドさん……私、もう魔力が空っぽですよぉ……」
「だろうな」
やる気満々になったステラには、魔力が尽きるまで強化を使ってもらい、俺の攻撃力を限界まで上げてもらった。
「でも気を付けてください。テッドさんは不死身ですが、一度死ぬと強化が全て解除されてしまいます。青い竜……イカズチの攻撃にはくれぐれも注意を……」
「分かってる」
俺は大剣に土属性を付与する。イカズチの属性は雷、弱点となるのは土属性だ。
本来なら、青い光の外から遠距離タイプの魔法やスキルで攻撃したいところだったが、生憎と奴ほどの大物にダメージを与えるほどの遠距離攻撃は、今の俺には使えない。よって俺に残された選択肢は、奴の超高速の攻撃を躱しつつ、大剣でぶった斬る事だけだった。
「行ってくる。お前はここで休んでろ」
「言われなくても、そうしますよ……」
疲弊しきった様子のステラ。
俺はそのまま岩陰を飛び出し、イカズチに向かって全力でダッシュする。
「グオアァァ!!」
洞窟中に響き渡るイカズチの咆哮は、ビリビリと俺の体中に衝撃を与える。
だが、立ち止まっている暇などない。
岩陰を飛び出すと同時に放った俺の分身が陽動している隙に、擬態で透明化した俺はすぐさまイカズチの背後へと回り込む。50メートル超えのバカデカい竜の頭を斬る為に、俺は全身の力を脚力に回し──
「テッドさん!」
ステラが叫んだ直後、イカズチの全身が青白く発光し、無数の雷の槍が射出された。
直撃した洞窟中の岩が、雷撃と共に木っ端微塵に消し飛んでいく。
そして、なんとか雷の槍を躱していた俺の分身も、ついに雷の槍で串刺しにされてしまう。
その隙に俺は、奴の頭上へと──
「グオアア!!」
直後、巨大な鉤爪に雷を纏わせたイカズチは、凄まじい速度の突きを俺に向かって放った。
「な──」
「テッドさんっ!」
イカズチの攻撃で串刺しにされた俺を見て、ステラが叫ぶ。
しかし、擬態で姿と気配を消していたにも関わらず気が付くとはな。この青い竜、デカい図体してる割に随分と繊細な感覚してるな。──だが想定内だ。
俺は鉤爪で串刺しにされた分身に、大剣を投げさせる。
凄まじい勢いで投げられた大剣は、ついにイカズチの頭上付近まで辿り着く。
俺は大剣の擬態を解き、元の姿へと戻る。
「え、大剣がテッドさんに!?」
俺が岩陰から飛び出したときに作った分身は2体。
1体にはそのまま陽動してもらい、その隙に透明化したもう1体の分身に、大剣に擬態した俺をイカズチの頭上まで飛ばしてもらう。全て作戦通りだ。あとは、このバカでかい竜をたたっ斬るのみ。
「ゴオアアアアッ!!」
響き渡るイカズチの咆哮。
バリバリッ……と、凄まじい雷の魔力がイカズチの周囲へ蓄電していく。
だが、何かをさせるつもりは無い。イカズチの頭上で数秒静止していた俺の体が徐々に落下していく。
その落下の勢いを利用して、俺は大剣をイカズチ目掛けて全力で振った。
「剣スキル・一刀両断」
現状、俺が持つ剣スキルの中で最も威力が高い『一刀両断』。
ちまちまと手数を使ってダメージを稼ぐ気はない。一撃で仕留めさせてもらう。
俺が放った『一刀両断』がイカズチの頭部へと直撃する。
最大火力の『一刀両断』をステラの『強化・攻撃』でフルブーストさせた、今の俺たちが使える最強の一撃だ。しかし──
「グゴオオアアアッ!!」
膨大な雷の魔力をバリアのようにして纏い、『一刀両断』を防ぐイカズチ。
これは想定外だな。まさか今の『一刀両断』を防ぐほどの魔力を持っていたとは。
「テッドさぁん!!」
先ほどから何度も俺の名前を叫びつ続けるステラ。
マズいな。魔力が尽きたステラにはこれ以上『強化・攻撃』は使えないし、俺にもこれ以上の攻撃は行えない。このままでは押し返され──
『大変そうだな、テッド』
直後、俺の脳内で不気味な声がハウリングする。
脳内がどんどんクリアになっていく。周囲の動きは時が止まったかのようにスローになり、音は全て遮断された。代わりにどろどろとした不気味な声だけが、より強調されて響き渡る。
『しばらくは様子を見ようと思っていたが、仕方が無い。力を貸してやろう』
「誰だ?」
不気味な声に向けて問いかけるも、反応はなかった。
直後、凍てついた世界が再び元の姿を取り戻し始める。
「テッドさん!!」
ステラのやかましい声、『一刀両断』とイカズチの雷のバリアがぶつかり合う音が、再び耳に入ってくる。
不気味な声が聞こえた後も、状況は何一つとして変わっていなかった。
──かに思えた。
ぐちゃめきごちゃ……という血肉が潰れるような音と共に、俺の両腕を大量の黒い触手が覆っていく。
黒い触手はどんどんと俺の両腕へと浸食していき、やがて一回りも二回りも太くて強靭な黒い腕へと変化した。
「なんだこれは……。力が溢れてくる」
今までとは桁違いの力を両腕に込める。
それと共に、『一刀両断』の威力も桁違いに上がっていき、イカズチの雷のバリアをいとも簡単に打ち破る。
バリアを破壊した『一刀両断』は、そのままイカズチの頭部へと直撃する。
「グオオオアアアアアアアアッッッ!!!」
そこからは一瞬だった。
あれだけ強靭だったイカズチの巨体は、あっという間に俺の大剣によって真っ二つになってしまった。
二つに割れたイカズチの巨体は、別々の方向に倒れ、青い光となって徐々に消えていく。
「すごいですよテッドさん!! 何ですかさっきの黒い触手は!? まだあんな奥の手を隠し持っていたなんて! 流石テッドさん! もう『さすテド』ですね!」
「語呂悪っ……。二度と呼ばないでくれ」
興奮気味にこちらへ駆け寄って来たステラに変な異名を付けられる俺。
それと同時に両腕を見るも、既に黒い触手はなくなっていた。
「何がどうなっているかは分からないが、取り敢えず終わったな」
「えぇ! これも私の強化のおかげですね!」
「そうだな。助かった」
「へっ? め、珍しく素直ですね……。なんか、逆に戸惑うというかなんというか……」
何故か顔を真っ赤にしてあたふたするステラ。
忙しい奴だな。
「……え、あれ? テッドさん! ステータス画面見て下さい!」
「今度は何だ……騒がしい」
「いいから!」
本当に忙しい奴だな。
ステラの勢いに負け、俺はステータス画面を確認する。
俺はモンスターを倒しても経験値は得られない。何も変わらないはずだが……。
「……どういう事だ」
思わず口に出してしまう俺。
ぱっと見、イカズチを倒してコピーしたスキルや魔法が追加されている事以外、特に変化は見られない。
そう思っていたのだが、よく見てみると──
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テッド
レベル:1
職業:????
攻撃:???
防御:???
速度:???
体力:???
魔力:???
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これまで多くのモンスターを倒してきても変わらなかったステータスだったが、今回の戦闘を経て、何故かレベルが1上がっていた。
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