169 不穏
レオたちの戦いを止めた俺たちは、取り敢えず全員でポカリ街のギルドへと向かった。理由は今後の動きについて一度落ち着いて話す為……というもあるが、もう一つは数ヶ月風呂に入れていない(自己申告)せいで体臭が大変な事になっているレオを風呂に入れる為だ。レオが風呂に入っている間に、俺たちは人数分より多めな酒と料理を注文する。大きめのテーブルがあっという間に料理と酒で埋まっていく。
「あ゛ぁ~うめ゛ぇ! 久々の酒はシャブよりもキマんなぁ!」
風呂から上がったレオが、テーブルにあるボトルの酒を豪快に飲み干す。しかしこうして見てみると、元「レッドホーク」のノア、「ブラックファング」のレオ、「グリーンヴェノム」のメル、ギルド受付嬢のエレナ、魔王軍のシャドウと神楽、そして俺……と、随分と異色のメンツが揃ったものだな。そのせいか、他の受付嬢たちがびくびくしながらこちらの様子を窺っていた。
「あー飯も酒もうめぇし、受付嬢のねーちゃんも可愛いし、風呂もキモチいいし、今日からここ俺んちにするわ」
「そんな事が許される訳ないでしょう。全く貴方という人はどうしてこう昔から落ち着きがないんですか。貴方のせいで他の受付嬢の子が怯えちゃってるじゃないですか」
「相変わらずツラはいいのにつまんねー事ばっかほざく女だな。つーか受付の子がビビってんのは俺だけの所為じゃねーだろ」
「それはそうかもしれませんが……というか貴方、いつからそんなに軽くなったというか、女好きになったんですか……」
呆れた様子で呟くエレナ。すると、テーブルの肉を豪快に食らっていたメルが、2人の会話に割り込んできた。
「ていうかさぁ、2人はどういう関係なの? もしかして付き合ってたとか?」
「まぁそんなとこだな。なぁ?」
空々しい笑顔でエレナの肩に手を回すレオ。だが、エレナはそれを強く振りほどく。
「全然違います。3年前まで同じパーティに所属していたというだけです。そこまで仲良くもないですし」
3年前……という事は、レオもステラの兄アストラと同じパーティだったという事か。それは意外な共通点だな。ある意味では俺にも関係のある話の筈なのだが、それ以上興味が湧かなかった為、テーブルに乗った料理を黙々と食べていると、今度はシャドウがその話に入ってきた。
「そうだレオ。キミ、どうやってあそこから生き延びたんだい?」
「はー。あそこってあれか。魔王城の向こう側の話か」
レオは何かを思い出して、小さく笑う。
「あのクソバケモンに瀕死の重体だった仲間を食わせたら、なんか知らんけど大人しくなってさー。おかげで命拾いしたって感じだな」
「ふぅん。瀕死の重体だった仲間って?」
「ゼキラっつーなんかゴリラみてぇな奴」
レオは短くそう答える。たしか「ブラックファング」はほとんどがサルタナに殺され、レオとゼキラが行方不明になったと聞いていたが、まさかゼキラがレオの代わりに怪物サイカに食われていたとはな。
「あれおかしいな。あの時、魔王様の部屋に入ったのは君1人だった筈だけど」
「こわ。なんでそんな事知ってんだよ。まぁそれはあれだ。なんて説明すっかな。盗賊のスキル『強奪』で奪った武器ってさ、専用の空間に保管しとけるんだけど、そこって人もぶち込んでおける訳」
「あぁなるほどね。そこに瀕死だったゼキラを避難させておいたって事か。意外と仲間思いだね」
「は。クソつまんねー冗談だな。仲間思いだったら怪物に食わせねーだろ」
「じゃあなんでわざわざゼキラをその空間に入れておいたの?」
「死にかけのゼキラをバットみたいに振り回して戦ったら面白れぇかなーって思ってたんだけど、そん時戦った相手が強すぎてやるの忘れてたんだよ。まぁおかげで怪物のエサやりコーナーから無事に帰ってこれた訳だし、やっぱ持つべきものは仲間だよな」
棒読み気味でそう口にするレオ。それを聞いたエレナが心底軽蔑した表情を浮かべるが、レオは微塵も気にしていない様子。
「つーか俺も聞きたい事あんだけど。お前らって、どういう……」
レオがそう言いかけた直後。
ばたん! と、ギルドのドアが勢いよく開けられ、数人の女たちがどたばたと俺たちのテーブルへとやって来た。
「きゃあ! レオくんやっばぁい! めっちゃひさしぶりなんだけど!」
「いままでどこいってたの? もう! さびしかったんだから!」
頭の軽そうな女たちがきゃーきゃーと騒ぎながら、レオを囲っていく。
「おー久しぶりじゃんマユ。元気だった?」
「えぇ~わたしのことしんぱいしてくれるの? うれしい!」
マユと呼ばれたその女は、大喜びしながらレオの背中に抱きついた。だがレオは今、明らかに自分の目の前にいる女をマユと呼んでいた。コイツ……絶対名前間違えたな。案の定というか、レオは誤魔化すように両隣の女を抱き寄せた。
「なんかセフレいっぱい来たから行ってくるわ。また後でな」
それだけ言うと、レオは女たちと騒ぎながら、ギルドから立ち去っていった。
「全く勝手な奴じゃな。しっかしこのローストチキン滅茶苦茶うまいのう!」
レオの事など心底どうでもいいといった様子で、テーブルのローストチキンに食らいつく神楽。腹が減っていると言っていただけあって、凄い食い気だな。まぁそれは本当にどうでもいい。
それよりも、さっきの女共だ。俺たちがポカリ街に来てから、そこまで時間は経っていない。つまりあの女共は、この短時間でレオの居場所を突き止め、このポカリ街に辿り着いたという事になる。あんな一般人以下の女共にそんな芸当ができるとは到底思えない。恐らく状況から考えて、あの女共は……。
まぁどうでもいいか。
仲間ではない人間の事を、俺があれこれ考える理由はどこにもない。
そう結論付け、俺はテーブルの料理を手に取った。
「あぁ! わらわのローストチキン!」
何やら和服の小童がゴチャゴチャと抜かしていたが、特に気にする事なく、俺はローストチキンにかぶりついた。
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