166 新結成?
アスタロトが起こした超爆破に巻き込まれる寸前、俺はアスタロト一派以外の全員をポカリ街へと瞬間移動させた。できればアスタロトと操られたステラたちも連れて来て、別の場所で試合続行といきたかったが、奴の魔力で干渉を阻害された為、それは叶わなかった。
「危なかった……。ありがとうございますテッドさん」
珍しく冷や汗を浮かべながら礼を言ってくるエレナ。他の者も間一髪命拾いした事で安堵する者がほとんどだったが、神楽だけは曇った表情を浮かべていた。
「じゃがマズい事になったのう。アスタロトにデスピア様の遺体が渡ってしまった」
「彼女は……アスタロトは魔王の遺体を使って何をするつもりなんですか?」
疑問を口にするエレナ。神楽は続ける。
「恐らく魔王デスピア様の強大な魔力を使い、己の『支配』の力を完成させるつもりなんじゃろうな」
「『支配』の完成……彼女の目的の為にはそれが必須だという事ですか」
「そうじゃな。魔族の為の新世界を作るなどと抜かしおったからのう、あの小娘」
そうアスタロトを揶揄する神楽。正直、この中で一番幼い容姿をしている神楽が言うとブーメランにしかならないが、面倒なので特に指摘はしない。
「おいテッド。今お主失礼な事考えてなかったか?」
「別に。チビが背伸びして小娘とか言ってて滑稽だな、とか思ってないぞ」
その言葉を聞いた直後、神楽は扇子を素早く取り出し、鋭利な風の刃をこちらに向けて放ってきた。大した速度の風魔法だが、別に避けられない事はない。だが、なんとなく当たるまで攻撃してきそうな気がしたので、ここは大人しく当たっておくことにした。
「テッドさんッ──!?」
風の刃によって綺麗に切断された俺の右腕が宙を舞い、青ざめた表情を浮かべるエレナ。そういえば、エレナは俺の「不老不死」についてほとんど知らないんだったか。
「大丈夫だエレナ。直に治る」
「何言ってるんですかテッドさん! 待ってて下さい、今接着剤を取ってきますから!」
「お前が何言ってんだ」
最初は冗談なのかと思ったが、エレナの慌てふためく様子を見るに、どうやら割と本気だったらしい。恐らく魔道戦士であるエレナなら、回復魔法も多少は扱える筈なのだが、まさか数ある有効な選択肢を捨てて接着剤に辿り着くとは……。クールに見えて意外と天然なのだろうか。まぁどうでもいいが。俺は地べたに転がっている右腕を拾い、肩口に無理矢理押し付ける。あれこれ言うより実際に治る所を見てもらった方が早い。論より証拠だ。
「な……傷口がどんどん塞がって、腕がくっついていく……?」
「大丈夫だと言ったろ」
「そ、そっか。テッドさんが不死身だと言われていたのは、こういう……。回復魔法を使っている訳でもないのに、凄い再生力……」
あまりに衝撃的な光景だったのか、開いた口が塞がらない様子のエレナ。すると、横にいたシャドウが突然手をぱんぱんと叩き始めた。
「はいはい。今割と緊急事態なんだから、じゃれ合うのはもう終わりだよ~」
「これが俺じゃなかったら、じゃれ合いで済んでないけどな」
「いいじゃん実際治ってるんだし。安いもんだ腕の一本くらい」
それは恐らく第三者が言う台詞ではないが、まぁ実際安いもんなので特に言及はしない。
「さて、話を戻すけど。タロちゃんは魔王様の遺体を使って力をブーストさせ、世界を支配しようとしている。それを阻止する為には、タロちゃんとその支配下にある新魔王軍を倒さないといけない。その為にこちらも頭数を揃えたいところなんだけど……」
「半端な戦力じゃとアスタロトに支配されるだけじゃからのう。じゃから、お主らのようなアスタロトに支配されぬ猛者の協力が必要不可欠になる訳じゃ」
「そう。そこで僕たちから提案……というかお願いなんだけど」
一呼吸置くシャドウ。まぁここまでくれば言いたい事は大体分かる。
「タロちゃん率いる新魔王軍を倒す為に、まずはここにいる皆でパーティを組まないかい?」
シャドウは一段とはっきりとした口調でそう言った。
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