165 超爆破
アスタロトが召喚したオーガたちを瞬殺してみせたレオたち。その頼もしい後ろ姿を見たシャドウが突然前に出てアスタロトを指さした。
「どうやら……追い詰められてしまったのは君の方みたいだねタロちゃん」
「何を偉そうに。わらわたちは何もしとらんじゃろ」
ぴしゃりと言い放つ、和服少女の神楽。
「じゃが言ってる事は間違っておらぬ。トリガー、レベル250以上の通常職、レベル150以上の上級職、ランクSS以上の魔族、モンスター……ここにおるのはお主に操れぬ一握りの猛者ばかり。お主に操れる程度の戦士とじゃ、戦う前から戦力差は明らかじゃ」
「……生意気だねぇ神楽ちゃん。たかが第三位のクセに」
七幻魔第一位のアスタロトと七幻魔第三位の神楽が、バチバチと火花を散らせて睨み合う。浅からぬ因縁でもあるのだろうか。まぁどうでもいいが。
「……確かに私の操る人形たちのレベルは君たちより下だけど……戦いってそんな単純な力比べだけじゃないでしょ?」
不敵な笑みを浮かべるアスタロト。すると、その横にいたジャスパーがゆっくりと一歩前に出た。
「うお、なんだあのねーちゃん。バカエロイんだけど。アレもお前の仲間なの?」
「あぁ」
「へぇ超最高じゃん。今度紹介して──」
そう言いかけた直後。レオの体が小刻みに震え始め、その場にばたっと倒れてしまった。どうやらジャスパーが「魅了」を使ったらしい。いや、今は使わされたと言うべきか。
「……君にはジャスパーちゃんの『魅了』が効かないんだね。流石テッド君」
「コイツと違って煩悩が皆無なんでな」
「見てんじゃねーよ殺すぞ」
レオが鋭い目つきで睨んできたが、全裸で震えながらうつ伏せになっている男に凄まれても、迫力は皆無だった。
「ハ。さっきまでの威勢はどうしたんだよ役立たずぅ」
倒れているレオを嘲笑うノア。ここにいるメンツはほとんどが女。ジャスパーの「魅了」は通用しない。
「テッド。私があいつら抑えてるからぁ、その隙にあの根暗女倒しちゃってぇ」
ノアは好戦的な笑みを浮かべると、素早く手をかざした。するとそれと同時に、アスタロトたちの動きがピタリと止まった。
「……またこれ? 芸が無いね」
「はいはぁい。下らねー遺言と一緒に首チョンパされちまえビチクソが」
「……そうじゃねくて。来るの分かってたから対策済みだって言ってんの」
呆れた様子で溜息をつくアスタロト。
すると直後、アスタロトたちの体が虹色に輝き始めた。そして、虹色の光はどんどん輝きを増していき、アスタロトたちの体を抑えつけていた見えない力を吹き飛ばしてしまった。
「──オマエッ! 一体何を!!」
「……私じゃなくてこの子にやってもらったの」
アスタロトは隣にいるステラの頬にゆっくりと手を添える。
「……ステラバリヤー。聖人であるステラちゃんのユニークスキルだよ。まぁ、出力の方は私の魔力で大分ブーストさせて貰ったけどね」
「チッ! クソがぁ!!」
吐き捨てるように苛立ちを口にするノア。しかし十分だ。ノアの力で奴らの動きが止まった一瞬の隙に、俺はアスタロトの背後に瞬間移動した。気配と音を完全に殺し、黒い大剣をアスタロト目掛けて素早く振り下ろす。しかし──
ガギイィィンッ!!
……と、重厚感のある金属音が響き渡る。アスタロトを真っ二つにする筈だった俺の大剣は、スカーレットの炎剣によって止められていた。互いの剣が衝突し、バチバチバチィッ!! と、激しい火花を散らす。正直、やろうと思えば1秒で殺せるが、仲間であるスカーレットに手を出す事はできない。スカーレットの剣を弾き、俺は一度距離を取った。
「面倒だな」
「テッドさん……アレを見て下さい」
エレナの示す方へ目を向けると、そこには鼻血をぼたぼたと流すステラの姿があった。
「どうなっている」
「恐らくですが……先ほど強引に上げられた虹のバリアの出力に、ステラさんの体が追いついていないのではないでしょうか」
「……正解だよエレナちゃん。君たちの攻撃をこの虹のバリアで無効化する度に、ステラちゃんの体に大きな負荷がかかる。だから、むやみやたらに攻撃するのはあんまりオススメしないかな」
淡々とそう口にするアスタロト。俺の攻撃ならバリアを破れるが、先ほどのように仲間を盾にされたら打つ手がない。実質、こちらの攻撃はほぼ封じられたと言っていい。正直、かなり面倒な状況だ。
「……仲間思いだねテッド君。けど大丈夫。彼のチャージが完了したみたいだから、もう終わりにしてあげる」
アスタロトが手を広げると、後ろにいるドンファンの筋肉が膨張していき、凄まじいエネルギーが集約されていく。するとそれを見たレオが、倒れたまま大きな声で笑い出した。
「ぶっははっ! おい見ろよエレナ! アイツのカラダ、お前のタトゥーでびっしりだぜ!」
「貴方よくその姿で人の事笑えますね!? ……って今はそれどころじゃありません!!」
必死の形相で叫ぶエレナ。それを見て、アスタロトは不気味な笑みを浮かべた。
「……実はここに来る前、魔法で作った爆弾を城のあちこちに仕込んでおいたんだよね」
「えぇ~なんでそんなテロリストみたいな事するのタロちゃん。そういうのよくないよ」
「……私が欲しいのは、この魔王デスピアの遺体だけ。ガワの部分はいらないんだよ」
「だからって爆破することないじゃない。これ作るのにどんだけかかったと思ってんのさ」
「……それはごめん。でももういいでしょ。だって、次の魔王はこの私なんだから」
「テッド。ステラちゃんたちの事は諦めてタロちゃんを斬るんだ。今すぐに──」
「もう遅いよ」
直後。ゴゴッ……と、魔王城全体が揺れ動くような、巨大な振動が発生した。恐らくアスタロトが言っていた爆弾とやらが作動したのだろう。
「タロちゃん。今まで盗んだパンティ倍にして返すから、これ止めてくれない?」
「……いらない。ちなみにこの部屋の遺跡にも大量に爆弾を仕込んであるから。じゃあバイバイ」
アスタロトが手をひらひらさせると、ドンファンは全力で拳を繰り出した。その繰り出した拳から巨大なエネルギー砲が放たれ、それと連動するように周囲に仕込まれた爆弾が作動した。
その超爆破は、空を飛び続ける魔王城を跡形もなく消し飛ばした。
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