163 自由奔放
黒い穴の向こうから突如現れた金髪の男。どうやらシャドウはこの男について知っている様子。
「アイツを知ってるのか?」
「あぁ。彼は……」
そう言いかけて、シャドウは金髪の男へと視線を向けた。しかし……
「……」
シャドウの視線は金髪の男に釘付けになっており、一向に話を再開する気配がない。俺は気になってシャドウの視線を追ってみる。すると、いくつか奇妙な点に気が付いた。まず、金髪の男はこちらを向いておらず、何故か斜め下を見ていた事。もう一つ、先ほどまでは暗闇のせいで男の全身がはっきりとは確認できなかったが、よく見ると男は服を着ておらず、何故か全裸だった事。さらに、黒い穴から現れたのは男一人ではなく、男の視線の先で這いつくばるような姿勢になっている全裸の女がいた事。そして、男は小さく息を荒げながら、女の臀部に向けて一定のリズムで力強く腰を振っていた事。
まぁざっくり言うと、その男女はセ〇クスをしていた。
「──ふっ。──ふっ」
「hでうsthsッ!!」
男が腰を打ち付ける度に、声にならない悲鳴を上げる女。……というか、よくよくその女を見てみると、確かに女特有の体つきをしているが、肌の色や頭の形状など、所々人間とは違う特徴を持っている事が確認できた。まさかあの女は魔族、或いはもっと別の存在なのだろうか……。なんて事を考えていると、男はやっと俺たちの存在に気が付いたのか、腰の動きを止めてこちらへ視線を向けた。そして、少し驚いたような顔を浮かべると、男は初めて口を開いた。
「……あ? どういう状況?」
「こっちの台詞だ」
何がどうなったら、突如発生した黒い穴から行為中の男女が出現するのか、是非とも説明してもらいたいものだ。
「で、シャドウ。誰なんだアイツは」
「……彼はレオ。『ブラックファング』っていうパーティのリーダーで、以前ポカリ街に襲撃した際、エサとして捕獲したトリガーだよ」
レオ。その名前には聞き覚えがある。
確か魔王軍との戦いの時、一時的にステラが行動を共にしたと言っていた男の名だ。当時のステラは、レオは俺と同程度の実力を持っているかもしれない、なんて話していたが、まさかこの男もトリガーだったとはな。いや、今はそれよりも……
「エサとして捕獲したという事は、アイツをサイカに食わせたという事か」
「そう。だからあの時死んだ筈なんだけど……なんで生きてるんだろうね」
まるで幽霊でも見たかのような反応をするシャドウ。だが、当のレオは俺たちにまるで興味が無いのか、再び腰を動かし始めた。
「なるほど。できるね」
それを見たシャドウが、何故か感心したように頷き始めた。全然意味が分からない。
「ちょっと貴方……こんな所で何やってるんですか!」
すると、いつの間にか俺の前にいたエレナが、顔を真っ赤にさせながら至極真っ当な疑問を口にした。すると、エレナの声を聞いたレオが初めて笑顔を浮かべた。
「おーエレナじゃん。久しぶり何してんの?」
腰を振りながらエレナに手を振るレオ。どうやらこの2人は知り合いだったらしい。
「こ、こっちの台詞です! 久しぶりに会ったかと思えば、こんな所で……ごにょごにょ」
「何で顔赤くしてんの? あ。混ざる?」
「混ざりません! というか、羞恥心とか無いんですか貴方は!」
噴火しそうな勢いで顔を真っ赤にして叫ぶエレナ。よく見てみると、神楽やノア、アスタロトまでもが顔を真っ赤にしてレオの行為を直視しないようにしている。まぁ当然の反応だな。むしろ何故当の本人が平然としているのか理解に苦しむところだ。
「まーちょっと待てって。あと少しで終わるから」
そう言うと、レオは腰の動きをさらに早めた。そして……
「──ふっう!」
まるで一仕事終えた後のような、晴れ晴れとした表情を浮かべるレオ。満足したのか、レオは女の腕をぱっと離す。すると──
「hvぐdhvすヴr!!」
女は奇声を上げながら、素早い動きでレオに襲い掛かった。だが、レオは無駄のない動きでその攻撃を軽く躱すと、女の髪を掴み、思い切り地面に叩きつけた。地雷が爆発したかのような轟音と共に地面が大きく揺れ、女の頭部が粉々に砕け散った。
「つーかあれ? よく見たらステラちゃんじゃね? おーいステラちゃーん。久しぶりーレオだよー。覚えてっかー?」
その場の全員が唖然とする中、当のレオは明るい顔を浮かべながら、アスタロトの横にいるステラへと声を掛けた。だが、ステラは一切反応を示さなかった。
「無駄だ。今のステラは、その隣にいるアスタロトという女に操られている」
「あ? 誰お前」
先ほどまでの表情から一変、レオは魔獣のような獰猛な目つきで俺を睨みつけてきた。
「俺はテッド。あそこにいるバカ女の仲間だ」
「テッド? なんかどっかで聞いたような……まぁどうでもいいか。じゃあ、とりまあそこにいるピンクちゃんを倒せば、ステラちゃんを助けられるって事?」
「ピンク……アスタロトの事か。まぁそうだな」
「よしわーった。なら俺もステラちゃん助けるの手伝ってやるよ」
気だるそうに首をコキコキと鳴らすと、レオは楽しそうに笑った。
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