161 人形
「アスタロト……お主、どうやってここに入ってきたんじゃ」
驚きの表情を浮かべる神楽。だがそれは、アスタロトが突如姿を現した事にではなく、この部屋に入れた事自体に驚いている様子だった。
「……やっぱり私だけハブられてたんだね。寂しいな、私も七幻魔なのに……」
「さっさと質問に答えぬか」
「……せっかちだな神楽ちゃん。あれだよ、そこにいる私のお人形さんたちのおかげだよ」
アスタロトが不気味なトーンでそう口にした直後。ステラ、ジャスパー、スカーレット、リンリン、ドンファンの目から光が消え、ゆらゆらとした動きで俺たちを囲い始めた。
「わーお。もしかして操り人形たちにマーキングして、この部屋まで瞬間移動してきたって事?」
「……そういう事だよ」
「おかしいなぁ。この部屋には特殊な結界が張ってあるから、鍵の役割を持つ僕と一緒じゃないと入れない筈なんだけどなぁ」
「……あぁそれね。今回は私の魔力を分け与えた人形が部屋の中にいたおかげで、外と中から結界を破れたんだぁ」
「へ、へぇ。よく分かんないけど、タロちゃんそんな事できたんだねぇ。感動しておしっこ漏れそうだよ」
「……そうなんだ、よかったね」
心底どうでもよさそうなアスタロト。実際、俺としてもどうでもいい。
「で、今度は何の用なんだ」
「……私の目的の為には、この部屋に入る事が必須だから。その為に君たちを泳がせてたの」
「目的の為に? ちょっと待ってタロちゃん。まさか、君がやろうとしている事って……」
アスタロトの目的について何か分かったのか、シャドウが珍しく(?)動揺している。
「これは、ますます放置しておく訳にはいかなくなったな。テッド、タロちゃんを『復讐の剣』で倒すんだ」
横から偉そうに口出ししてきたシャドウ。コイツ等の内輪揉めには欠片も興味が無いが、ステラたちの洗脳を解くためにはアスタロトを倒す必要がある。つまり、シャドウが何を言おうと俺のやる事は変わらない。
「元よりそのつもりだ。俺に命令するな」
「急に素っ気ないなぁ。まぁやる気があるなら別にいいや」
そう言って、シャドウは一歩下がった。俺は黒い大剣を召喚し、切っ先をアスタロトへと向ける。
「せいぜい楽しませろよ。人形女」
「……そんな死んだ目して、本当に楽しむ気あるの? ……というか、私が人形? ちょっと気に入らないなぁ。私は魔王の血を引いた選ばれし存在だからさ……その他大勢のモブ人形たちと一緒にされると凄く不愉快なんだけど……」
弱弱しく小さな声だが、その言葉からは強い選民意識が感じられた。人見知りで引っ込み思案、そんな消極的な側面に隠された、アスタロトの強い自我と支配欲が徐々に顔を出し始める。
「なら、お前もその他大勢の一人に過ぎないって事を教えてやる」
そう口にした直後だった。空を引き裂くような強烈な衝撃波が、アスタロトに勢いよく直撃した。しかし、アスタロトは膨大な魔力で作ったドーム状の結界でこれを難なく防いだ。
「……誰」
衝撃波が放たれた方向へと視線を向けるアスタロト。そこから姿を現したのは、真っ白な髪の少女だった。
「やっほぉー。元カレそっくりのお人形さん助けに来ちゃったぁー。ぴぃーすぅー」
猟奇的な笑みを浮かべ、独特なテンションでそう言ったのは、元「レッドホーク」のメンバーにして、オリジナルテッドの元彼女であるノアだった。
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