157 災禍
「魔界はこの世界全体の9割以上を占めるほど大きな世界だった。でも数百年前、たった1人のトリガーの暴走によって滅ぼされた。そのトリガーの名は……サイカ」
ここにいる連中はトリガーという言葉に馴染みのない者がほとんどの為、皆が頭に疑問符を浮かべていたが、シャドウは構うことなく続けた。
「そして、そのサイカこそが僕たちが倒すべき真の敵なんだ」
敵は魔界に存在する魔族ではなく、それらを滅ぼした1人の人間だった。しかし……
「世界の9割以上を占める魔界の勢力をたった1人で滅ぼしたのというのか?」
「そうだよ。サイカはトリガーの力を暴走させると共に、魔界に存在するあらゆる生命体を食らい続け、その度に力を増大させていった。そして、ついにサイカはこの世界を覆い尽くすほど巨大な怪物へと変貌し、魔界を滅ぼしてしまった」
そのサイカとやらはトリガーの力を暴走させ、巨大な怪物になってしまった。という事は、きっとそいつもあの時のサルタナと同じように、自分の本当の願望を見失い、歪んだ願望に憑りつかれた末、引き金を見失ってしまったのだろう。
「その時、俺たちの世界が無事だったのは、膨大な霧とお前たちが張った結界とやらのおかげか?」
「いや、当時はまだ結界を張っていなかったんだけど、まぁどの道、異次元の怪物と化したサイカの前では、こんな小さな霧と結界……何の役にも立ちやしないよ」
どこか自嘲気味にそう口にし、シャドウはさらに続ける。
「魔界が破壊し尽くされた後、怪物サイカの矛先は当然、この霧の中の世界に向けられた。それを阻止しようと動いたのは、当時ご存命だった魔王デスピア様率いる魔王軍と、デスピア様に匹敵する力を持っていた伝説の勇者とその仲間たち。そして、大きな軍事力を持った巨大な王国の軍隊を合わせた連合軍だった」
「え。魔王デスピアってそんな何百年も前の魔王だったの?」
「そうだよ。それはそれは強い魔王様だったんだから」
ジャスパーの問いに、どこか誇らしげに答えるシャドウ。なんとなく脱線しそうな気がしたので、話を軌道修正する事に。
「人間と魔族が手を組んで戦ったのか。今じゃ考えられないな」
「当時でも異例な事だったよ。でも世界の危機だから一時休戦。って事で、余計な犠牲を出さない為にも、連合軍は極秘で動いて、霧の外にてサイカを迎え撃った。でも結果は惨敗だった」
「まぁ当然だな。相手は魔界を滅ぼした怪物。今更小さな世界の連合軍如きが相手になる存在じゃない」
「そ。君の言う通り、残念ながら最初から勝負にすらなっていなかったよ。サイカのあまりにも強大な力を前に連合軍はほぼ壊滅状態。残ったのは魔王デスピア様と伝説の勇者のみだった。もう勝ち目が無い事を悟った2人は、霧の中の小さな世界を守る為に、ある決断を下した」
まるで当事者であるかのように、シャドウは語り続ける。
「それは2人の命を犠牲にして、サイカを魔界に封印する事だった。伝説の勇者は自分の命を膨大な魔力へと変え、デスピア様に託した。そして、デスピア様は膨大な魔力による封印魔法を駆使し、サイカを魔界に封印する事に成功した。でも、その封印を維持する為に、デスピア様は深い眠りについてしまった」
「で、今に至るという訳か」
俺は赤黒い球体の中で眠り続けるデスピアへと目線を向け、そう口にした。
「だが、サイカを魔界に封印できたなら、今は何の問題も無いんじゃないのか?」
「それがそうもいかないんだよ。いくら伝説の勇者の力を合わせたデスピア様の魔力を以てしても、サイカを抑え続けることができるのはせいぜい3年が限界なんだよ。そのまま放置していたら、ね……」
「封印を維持する方法があるのか?」
「うんある。そうする事で僕たちは何百年も世界を守り続けてきたのさ」
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