156 占いの真相(魔界サイド)
それは、サイカとヴィラに悲劇が訪れる数週間前。
サイカの好敵手について、ヴィラが占った時のことだった。
「結果が出たわ」
「おぉマジか。俺と対等に渡り合える相手……どんな野郎なんだ?」
「名前はテッド。どんな姿をしているかまでは分からないけど、どうやら貴方と同じ人間……ん? そういう訳でもないのかな。とにかく、この人と近い将来戦う事になりそうよ」
「ただの人間って訳じゃなさそうだな。面白れぇ」
サイカは、自分の好敵手であるテッドについて、いくつか質問する事にした。
「そのテッドってのはどこにいるんだ? 案外近くにいたら灯台下暗しだな」
「いえ、それが……」
愉快そうに笑うサイカに対し、ヴィラは苦笑いを浮かべる。
「どうやらこのテッドって人がいるのは、迷いの霧の中らしいわ」
「はぁ? 迷いの霧だぁ?」
サイカの表情が少し落胆したものへと変わる。
迷いの霧。それは魔界の中心にある、常に深い霧が立ち込めた謎の海域。この迷いの霧の中心には人間と魔族が争いを続けている島がある……なんて噂もあるが、信じている者はあまりおらず、サイカもその中の1人だった。
「……まぁ百歩譲って、迷いの霧の中にソイツがいたとして、戦えるのはいつの話になるんだ?」
「ん~数百年後とかになりそうね。多分300年後、400年後とかじゃないかしら。まぁそんなに先の話でもないでしょ」
何でもない事のようにそう口にするヴィラ。ヴィラは1000年を優に超えて生き続けるエルフの一族。そんなヴィラからしたら、300年、400年など大した時間ではないのだろう。だが、実は生涯のほとんどを森の中で過ごしたヴィラは、人間の寿命がエルフに比べて遥かに短いものである事を知らなかった。
「……聞いて損した」
先ほどまで期待に満ちていたサイカの表情は、どんどんと失望によって塗り潰されていった。
「え、ちょっと待ちなさいよ。私の占いは絶対当たる。だから、このテッドという男は必ず貴方の前に現れるわ。そして──」
「流石に非現実的すぎんだろ。迷いの霧の中。人間と魔族が争いを続けているとか言われてる場所。そんなあるんだかないんだか分からねぇおとぎ話みてぇな場所にいる奴とどうやって出会うんだよ。それに……」
そもそも数百年経つ頃には、俺はとっくにもう死んでいる。そんな事を言いかけたが、サイカはその言葉を飲み込んだ。そうした理由はサイカ自身にもよく分かっていなかった。
「いやなんでもねぇ。でもおかげでちょっと楽しかったぜ。いい暇潰しになった」
自分の中で黒い欲望が大きくなっている事を自覚しつつ、結局占いなんて当てにならないな……と失望し、その場を後にするサイカ。
だが、数百年後。
ヴィラの占いは、最悪の形で実現する事となる。
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