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149 敵


「駄目ですテッドさん。魔王軍の言う事など信用してはいけません」


「酷い事言うなぁエレナちゃん。まだアストラの事を根に持っているのかい?」


 アストラ……という聞き覚えの無い名前を口にするシャドウ。俺が詳細を聞こうとすると、隣にいるエレナがご丁寧に説明を始めた。


「アストラは、かつて私が所属していたパーティのリーダーです。伝説の勇者と呼ばれるほどの冒険者で……ステラさんのお兄さんです」


 エレナと同じパーティだった……という点に関して然程驚きはないが、まさかここでステラの名前が出てくるとは。思わぬところでステラの血縁関係について知る事ができたな。ポカリ街のギルドにとって馴染みのある人物であり、伝説の勇者と呼ばれるほどの冒険者であるアストラ。しかし、そんなアストラの名前を口にしたエレナの表情は暗い。


「……ですが、アストラは約3年前の魔王軍との戦いで行方不明になってしまった。貴方たち魔王軍が王国に攻め込んできたせいでね」


 普段の様子からは想像がつかないほど、冷たく鋭い殺気をシャドウに向けるエレナ。しかし、当のシャドウはその鋭利な殺気を意に介していないのか、或いはあまりに鈍感で殺気を向けられている事に気が付いていないのか、まるで他人事のようにのらりくらりとしていた。


「3年前の王国襲撃……懐かしいな。まぁけどさエレナちゃん。憎しみ全開のところ悪いんだけど、アストラは別に行方不明になってないよ?」


「何を意味の分からない事を。貴方たちがアストラを殺したんでしょう」


「殺してもいないよ。だってそこにいるし」


 そう言って、シャドウは俺の右腕を指さした。正確には、俺の右腕を蝕んでいる黒い触手を。


「テッドの腕から飛び出してるその黒い触手が君の言っているアストラだよ」


「バカにするのもいい加減にしなさいッ!!」


 怒りのままに叫び、弾丸のような強烈な蹴りを繰り出すエレナ。ギルド嬢とは思えない程、洗練された無駄のない動きだったが、シャドウはこれをひらりと躱す。


「流石は元凄腕冒険者。鋭い蹴りだね~。まぁ僕には当たらないけど」


 宙を舞う蝶のようなひらひらとした軽快な動きで、エレナを挑発するシャドウ。今の攻防でシャドウの力量を理解したのか、エレナは手元に小さな魔法陣を発動させた。あれは確か、遠方の相手と直接話す際に使う「通話魔法」だったか。


「何やってるの?」


「貴方が相当な猛者であることは理解しました。ですので、ギルドマスターに連絡して増援を呼ばせていただきます」


「律儀に説明してくれるなんて優しいねーエレナちゃん」


 嘲笑うシャドウを無視して、ギルドマスターとやらに連絡を続けるエレナ。俺はギルドマスターについて何も知らないが、大方いくつかあるギルドのリーダー的な存在なのだろう。そんな事を思っていると、エレナの手元の魔法陣が点滅しているのが目に入った。しかし、同時にシャドウの手元に同様の魔法陣が浮かび上がり、エレナの魔法陣と同じように点滅し始めた。


「……どういう事ですか。ギルドマスターに繋いだ筈なのに、何故貴方の元に……」


「そりゃ僕がギルドマスターだからね」


 唐突なシャドウの発言に理解が追いつかない俺とエレナ。シャドウはそんなこちらの様子などお構いなしに続ける。


「おかしいと思わなかった? 魔族やモンスターを狩る為の冒険者パーティに魔族が入れるなんてさ」


 確かに以前から妙だとは思っていたが、まさかギルドを牛耳っているのが魔族であるシャドウだったと思わなかった。しかし、シャドウは何故ギルドマスターに成り済ますような真似をしたのだろうか。


「一体……何がどうなっているんですか……」


 シャドウによって淡々と明かされていく衝撃の真実に、かなり困惑した様子のエレナ。


「その辺も込みで全部話すよ。そうすれば、僕がタロちゃんを止めたがっている理由が分かると思うよ」


「……分かりました」


 発言までに多少の迷いが見られたが、しぶしぶといった様子で納得するエレナ。


「やっとその気になってくれたか。どうしていつの世も人間と魔族は争ってばかりなんだろうね。本当は内輪揉めなんてしてる場合じゃないのにさ」


「それは貴方たち魔族やモンスターが人間を襲うからでしょう!」


「それにも理由があるんだよ。一応ね。てかエレナちゃん随分怒りっぽいね。元々そういう性格? それとも生理?」


 シャドウがそう茶化したと同時に、エレナは素早く掌底を繰り出した。先ほど放った蹴り以上にシャドウの意表を突いた一撃だったが、シャドウはこれをいとも簡単に躱す。エレナはその後も何度か鋭い一撃を放ったが、シャドウには全く当たらず、暖簾に腕押しといった様子。これ以上は攻撃するだけ無駄と判断したのか、エレナはうんざりとした様子で口を開いた。


「……理由って何ですか」


 口ではそう言ったものの、エレナは魔族について理解する事を最初から放棄しているように見えた。エレナにとって魔族は、かつての仲間を奪った仇敵。そう思うのも無理はないが……。エレナの魔族への強い敵意を感じ取りながらも、シャドウは言葉を発した。しかし……


「僕たちの住んでいる世界を覆っている霧……その向こう側にはここよりも遥かに広い世界が広がっている」


 シャドウが最初に口にした言葉は、俺たちの想像の斜め上のものだった。


「その世界に、僕たちが倒すべき真の敵がいる。全てはその敵を倒す為に必要な事なのさ」


 先ほどとは違う異質で重みのある声で、シャドウはそう言ったのだった。


お読みいただきありがとうございました!

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