145 宣戦布告
宿に戻ってひと休みした俺たちは、ギルドでクエストの達成報告を行った。もっとも、クエストはクリアしたが目前の問題が全て解決したわけでは無い。サルタナの死、七幻魔第一位アスタロトの登場。むしろ、クエスト開始前よりも問題が山積していると言っていいだろう。そんな多くの問題を抱えた俺たちは今……
「「乾パァーイ!!」」
いつものようにギルドで飲み会をしていた。
「いやぁー皆さんクエストおつですおつです! ふぇい!」
既に酔っ払い気味のステラがチャラ男のようなテンションで全員に乾杯を求める。それに笑顔で応じる「バイオレットリーパー(+ドンファン)」の面々だったが、唯一スカーレットだけは浮かない顔をしていた。まぁ当然か。突然のアスタロトの登場により、サルタナについての話し合いが中断される形になってしまったからな。
「少し話がある。こっちに来い」
俺は小声でスカーレットに耳打ちし、一緒にギルドの端の方へと移動する。すると、スカーレットが先に口を開いた。
「何の話かは大凡察しが付く。……サルタナの事だろう?」
「よく分かったな。実はサルタナは……」
サルタナの死について話そうとするも、スカーレットは首を横に振った。
「それも言わなくていい。オマエの辛そうな表情を見れば、サルタナがどうなったのかは何となく分かるよ……」
俯きながら、瞳に涙を滲ませるスカーレット。少しの間、どう声をかけるか迷い、俺はゆっくりと口を開いた。
「サルタナは……不器用な奴だが、お前たちの事を本当の仲間だと思っていた。アイツのやり方は間違いだらけだったかもしれないが、そこだけは……信じてもいいと思う」
黒い怪物の正体がサルタナである事、それを戦闘不能まで追い込んだのがスカーレットたちである事、そして、止めを刺したのがあの女である事。サルタナを死に至らせた残酷な真実をスカーレットに伝える勇気がなく、継ぎ接ぎだらけの綺麗事を口にしてしまう俺。だが、スカーレットは涙を浮かべながらも、くすっと笑った。
「……ありがとうテッド。お前がそんな事を言ってくれるなんて、ちょっと意外だよ」
まさかあんな下手糞な言葉に対して礼を言われるとは。普段俺はどれだけ気の利かない奴だと思われているのだろうか。少し気になったが、傷つくだけな気がしたので聞くのはやめておいた。
「戻るか」
「うん。そうだな」
普段の凛々しい顔つきとは違った、少女のような笑顔を見せるスカーレット。
そのまま2人でテーブルへ戻ろうとした、その直後だった。
「いいなぁ。美男美女のいちゃいちゃ。私も混ぜてよ」
背筋が凍るような無機質な声が背後から聞こえてきた。振り返ると、そこにいたのは七幻魔の第一位アスタロトだった。
「貴方は──ッ!?」
すると、アスタロトの姿を見た受付嬢のエレナが青ざめた表情を浮かべながら、勢いよく立ち上がった。
「……あれ。久しぶりだねエレナちゃん。今は受付嬢やってるんだ。……制服可愛いね」
ゆったりとした空気感のままそう返すアスタロトに対し、鋭い殺気を向け続けるエレナ。どうやら2人の間には浅からぬ因縁があるらしい。
「げっ。何しに来たのアンタ」
「何しにって……酷いねジャスパーちゃん。ジャスパーちゃんがすぐに戻って来るって言うから信じて待ってたのに……もう6時間くらい待ったんだけど」
アスタロトと会ったのは早朝。今は丁度昼時。アスタロトの言う通り、本当に6時間ほど待たせている……というか、よく6時間も待てたな。俺なら数分で帰っているところだ。
「ごめん忘れてたわ。てか今飲み会の最中だから帰ってくれない?」
「……本当に自分勝手だよねジャスパーちゃんって。七幻魔も勝手に辞めるし。まぁ、おかげで私もこうして動き出すことができた訳だけどね」
「動くって何の話よ」
「……そうだね。エレナちゃんたち受付嬢の皆もいるし、ちょうどいいからここで話しておこうかな」
ギルド内が重い静寂によって包まれる。
そして……
「私アスタロトが率いる新魔王軍は、人類を滅ぼし、この世界を魔族の為の新世界へと変える事にしました。よろしく」
不気味な笑みを浮かべながら、アスタロトはそう口にしたのだった。
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