144 言葉
白に近い桃色の長髪、透き通るような白い肌、ぱっちりとした赤紫と青紫のオッドアイ。フードを取ったアスタロトの素顔が露わとなり、俺とドンファン以外の全員が思わず息を呑んだ。
「……はっあ~。なんていうか、目が覚めるような美人さんですねぇ。バチクソ可愛いです……」
アスタロトの容姿に見惚れて思わずそう口にしてしまうステラ。他の連中も口にはしないものの、似たような感想を抱いている様子。
「そんなに見ないでほしい。……照れる」
雪景色のように白い頬をほんのり赤く染めると、虫の羽音以下の小さな声で恥ずかしがるアスタロト。
「お前みたいな内気な奴が七幻魔の序列第一位だとはな」
少し意外に思った俺はそのまま感想を口にする。しかしそれが傷ついたのか、アスタロトは膝を抱えて蹲ってしまった。
「……そうだよね。私みたいな根暗が七幻魔の一位だなんて……器じゃないよね……。一位の『一』は孤独な数字……どうせ私はいつも一人ぼっち……」
「なんだコイツ。じめじめと気持ち悪い奴だな」
特に考えずにそう口にすると、アスタロトはさらに塞ぎ込んでしまい、俺たちに背を向けて地面に寝転がってしまった。俺は隣のジャスパーに目線を送り、説明を求める。
「アスタロトは一言で言うと超絶ネガティブ。アンタみたいな空気の読めないコミュ障とは違うタイプのコミュ障なの。ちょっとした言葉が彼女にとっては刃も同然だから、扱いには気を付けなさい」
「説明してくれたのは助かるんだが、途中俺のことディスる必要あったか? 言葉の刃云々言うなら俺の扱いにも気を付けろよ」
「アンタ刃物刺さっても死なないからいいじゃない」
「物理的にはな。精神はまた別の話だ」
「アンタ無神経だし大丈夫でしょ。あ、コレは感覚が鈍いっていうのと、人に配慮ができないっていう両方の意味でね」
息を吐くように俺の全てを否定するジャスパー。今のコイツこそ無神経以外の何物でもないと思うが、口にするのは面倒なので止めておいた。
「で、何でアンタがここにいる訳? 魔王の差し金?」
「……いや違うよ」
アスタロトはよろよろと立ち上がり、不気味な威圧感のある目でこちらを見つめてきた。
「ここに来たのは私の意志。皆に……主にテッド君にお話があって来たの。実は……」
「あーちょっと待って」
間髪入れずに話し始めようとするアスタロトを制止するジャスパー。
「私たちさぁ、今クエスト終わりで疲れてるのよね。だから、話を聞くのは一回ギルド戻ってからでもいい?」
「いいよ」
ジャスパーの気の抜けた提案をあっさりと承諾するアスタロト。あまりにも弛緩しきったやり取りに、コイツ等が七幻魔の元四位と現一位である事を忘れそうになった。
「じゃあ私も付いてく」
「あぁいいのいいの。クエスト達成報告と傷の手当てを済ませたら、すぐにテッドの瞬間移動で戻って来るから。ここで待ち合わせしましょ、約束ね」
「……うん分かった。待ってるね」
待ち合わせだの約束だの、友情に飢えた奴が喜びそうな言葉で、あっさりとアスタロトを懐柔するジャスパー。
「じゃあ戻りましょうか。テッド瞬間移動使って」
何故コイツが仕切っているのかはさっぱり分からないが、俺はジャスパーに言われた通り、アスタロト以外の全員をポカリ街に瞬間移動させた。随分と長い事ダンジョンに潜っていたからか、薄暗い空には朝日が昇っていた。
「アスタロトが何故俺たちの前に現れたのかは知らないが、取り敢えず宿に戻るか。奴の所に戻るのはその後だ」
「そうねー。宿で傷の手当して、お風呂入って寝て、それからギルドでクエスト報告したら飲んで……まぁ行けたら行きましょ」
欠伸しながらどうでもよさそうに答えるジャスパー。薄々……というか普通にそんな気はしていたが、やはりジャスパーはアスタロトとの約束を守る気など更々なかったようだ。
疲れが急に来たのか、全員が眠そうな顔で宿のある方向に歩いて行った。俺はふと、瞬間移動前に見えたアスタロトの寂しそうな表情を思い出し、彼女が少し可哀想に思えてしまったのだった。
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