142 迷い
「さっさと戻るか」
靄が晴れたような気分になった俺は、逸早くステラたちの所に戻る事にした。まぁ歩く気分じゃなくなったというのもあるが、先ほど見たサルタナの記憶の中にいくつか気になる事もあったし、早めに戻った方がよさそうだしな。俺はステラたちの魔力を感知し、居場所を特定する。そして、奴らの元へ瞬間移動した。
「……これは」
移動先には、焦げ臭い焼死体となったあの黒い怪物が転がっていた。俺が見たサルタナの記憶通り、ステラたちはちゃんとあの状態のサルタナに勝利したようだな。
「あっ! テッドさん!」
怪物の死体を無心で眺めていると、俺に気が付いたステラがやかましい声で呼びかけてきた。
「怪物を操っていた人を倒したんですね! おかげで助かりましたよぉ!」
ステラに続いて、他の連中もぞろぞろとやって来る。
「加勢しようかと思ったが、既に終わっていたようだな」
ナーガの支配が無かったとしても、怪物と化したサルタナは相当な強さだった。俺の予想では、コイツ等じゃ互角に戦うのが精一杯だと思っていたが、どうやら想像以上に強くなっていたようだな。
「モンスターの大量発生は阻止した。今回のクエストはこれで終了だな。残党は帰り道に狩れる範囲で狩れば──」
「待ってくれ」
俺が話していると、スカーレットが横から口を挟んできた。
「なんだ」
「確かにクエストはクリアした。……だが、まだサルタナが見つかっていない」
「……」
俺は思わず口を閉ざしてしまった。この場でサルタナの末路を知っているのは俺だけ。だが、それをスカーレットに伝えるべきなのか、俺には判断する事が出来なかった。
「サルタナは……」
考えがまとまっていないにも関わらず、つい見切り発車で口が動いてしまう。スカーレットだけでなく、その場の全員の視線が俺に集まる。どう話すべきか考えていた、その時だった。
「何を迷っているの?」
突如、横から覚えのない声が聞こえてきた。目を向けると、そこには歪で暗い雰囲気を纏った黒装束の女が立っていた。コイツ、どこかで見たような……。いやそれより、口を開くまでこの俺に一切気取られないとはな。
「ア、アンタ……何でこんな所にいんのよ……」
そう口にしたのはジャスパーだった。声と肩を震わせながら、青ざめた表情を浮かべていた。どうやら、この黒装束の女を知っているらしい。
「何者だ。お前」
そう口にすると同時に、俺は黒装束の女を威圧する。しかし、黒装束の女はまるで意に介しておらず、ゆっくりと黒装束のフードを取った。
「アスタロト。七幻魔の第一位です。よろしく」
黒装束の女は、感情の読み取れない口調でそう言った。
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名称:アスタロト
ランク:SSS
属性:闇
備考:七幻魔・序列第一位
魔王の血族
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