140 因果応報
真っ白な髪に猟奇的な笑み。
サルタナの目の前に現れたノアは、以前とはまるで別人だった。
「死んでもらっちゃ困るって……どういう意味だよ」
「そのままの意味。アンタにちょっと協力してほしい事があるんだよねぇ」
「俺に? な、なんだよ」
久しぶりにかつての仲間から頼られた事で、少し浮足立った様子のサルタナ。
「今、絶対に殺したい奴がいてさぁ。ソイツは私の最愛の人を殺した奴で、憎くて、憎くて、堪らないんだよねぇ」
そう口にした直後。ノアは冷たい無表情を浮かべた。
「ねぇサルタナ。お前……よくも私のテッドを殺してくれたなぁ……」
「……は? ちょっと待て! 何の話だ! アイツはまだ生きて──」
直後、サルタナは再び思い出した。
魔王城で手にかけてしまった、もう一人のテッドの事を。
「……どうして、その事を」
「あの日、テッドの死体を見つけた後、私の元に魔王軍の幹部が現れた。ソイツ曰く、どうやら魔王城には特殊な魔法が施されていて、魔王城内の映像が全て記録されているみたいなの。で。私はソイツにテッドが殺されるまでの一部始終を見せてもらった。いやぁ本当に危ない所だったわ。私、てっきりテッドを殺したのはあのニセモノだとばかり思ってたからさぁ。危うく勘違いしてぶっ殺すところだったわ」
感情が読めない表情で淡々と話し続けるノア。
「だからね、サルタナ。アンタに協力してほしい事っていうのはね、そこから動かないで、じっとしててほしいって事なの。無駄な抵抗とかしないで、私のする事をただ受け止めて、何もしないで、ただ殺されてほしいの」
「……あぁ、そうか。そういう事か。まさかアイツが……俺が殺しちまった方のテッドが……お前の恋人だったとはなぁ……。は、ははは。なんだよそれ……。いつもこうだ……。俺の人生……どうしてこうなんだよ」
抜け殻のように生気のない表情を浮かべ、呆然と立ち尽くすサルタナ。なんとなく、ただ漠然と、自分の死が近い事を悟るサルタナ。そんなサルタナの脳裏に、これまでのサルタナの人生が走馬灯のように流れ──
「──ッ!? がぎぃああああっ!?」
──かけた直後。サルタナの右腕が、不可視の力によってぐちゃぐちゃに潰れ、そして千切れた。
「なぁーんかアンタ今すっごい呆けた顔してたけど。もしかして自分の人生とか振り返ったりとかしてた? 舐めてんのか被害者ヅラして走馬灯なんて見てんじゃねぇよ」
吐き捨てるようにそう口にしたノアは、指を力強く動かした。すると、サルタナの体がゆっくりと宙に浮かび始めた。
「な、なんだこr──」
サルタナが何かを言いかけた直後、サルタナの口がびりびりと引き裂かれ、歯が全部砕け散った。
「──ッ!!????」
「さぁーるたなぁーさぁー。私さっき何もするなって言ったよねぇ。何で私の言う事聞けないのかなぁ。走馬灯見るのも禁止、驚くのも禁止。何もするなってそういう事。ね。分かる? あ。でも呼吸だけは私が殺すまではオッケーだよ。先に死んじゃったら殺せなくなっちゃうからねぇ」
狂気を孕んだ声色に、人形のように冷たい無表情。サルタナの脳内は痛みと恐怖で埋め尽くされていた。そんなサルタナを見て、ノアは再び猟奇的な笑みを浮かべると、再び指を動かした。すると、眩い光と共に何故かサルタナの聖剣が勝手に召喚された。
「なぁーにが聖剣。なぁーにが勇者。反吐が出る。オマエにそんな小奇麗なモンは似合わねぇんだよボケ」
ノアがそう口にすると、聖剣は宙を浮いたまま、サルタナの方へと切先を向けた。
「大好きな聖剣に串刺しにされて死んじまえ」
そして、空中で静止していた聖剣がサルタナに向かって無慈悲に放たれた。
「(誰かッ!! 助けッ──)」
涙を浮かべながら、かつての仲間の顔を思い浮かべるサルタナ。
助けは当然来なかった。
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