139 後悔
「やりましたね! 流石スカーレットさんです!」
スカーレットの元へステラたちが駆け寄る。スカーレットの「奥義・火ノ鳥」は怪物の体を跡形もなく焼き尽くした。しかし、当のスカーレットはどこか浮かない顔をしていた。
「どうしたのよ、スカーレット」
「いや……。何故か分からないが、妙な胸騒ぎが……」
「胸騒ぎ? 怪物は倒したし、周囲にモンスターの気配は無いし、気のせいじゃない? それより、テッドが来るまで少し休みましょ」
ジャスパーの一言で、スカーレット以外の全員がその場に座り込んだ。
「……サルタナ」
無意識にかつての仲間の名前を口にし、スカーレットは我に返る。何故、このタイミングでサルタナの名前を口にしてしまったのかは、彼女自身にも分かっていなかった。
◇◆◇
スカーレットたちから少し離れた、ダンジョン内の通路にて。
「ハァ……ハァ。クソが……」
サルタナは満身創痍の体で地面を這いつくばっていた。
「……危なかった。本体が焼かれる前に、一か八かで瞬間移動ってやつを使ってみたが……なんとかうまくいったな」
初めて使用する瞬間移動で九死に一生を得たサルタナは、灰で真っ黒になったボロボロの体を引きずりながら、とある場所を目指していた。
「たしか……このダンジョンには回復の泉……みたいなモンがあった筈。そこで体を治して、今度こそアイツらをぶちのめして……」
徐々に語気が強くなるサルタナだったが、不思議とその表情に怒りはなかった。
「……もう、どうでもいいか」
体を仰向けにし、サルタナはその場で大の字になって寝転がる。
「愛想尽かされて当然だよな……俺みてぇなクズ。むしろ、スカーレットはよくこんな奴を助けようとしてくれたもんだぜ……。はっ……あのお人好しがよ」
そう言って、サルタナは力のない笑みを浮かべ、その瞳に涙を浮かべた。
「ははっ……あぁ。何だかんだ……アイツらとパーティ組んでた時は……楽しかったなぁ……。マジでロクな事ねぇ人生だったけど……あんときだけは……幸せだった……かもな。でも、結局手放しちまった……。俺は……本当クソバカ野郎だぜ」
サルタナの表情が徐々に柔らかくなるにつれて、声がどんどん小さく、弱弱しくなっていく。
「……もうここで、モンスターたちのエサにでも──」
サルタナがそう言いかけた直後。
通路の向こう側から、誰かの足音が聞こえてきた。
「なに弱音吐いてんのよ。アンタらしくないわよリィーダァー」
聞き覚えのある声。しかし、その声は悪意に満ちており、サルタナが思い浮かべた人物の印象とはあまりにもかけ離れていた。足音が徐々に大きくなる。そして、その声の主が闇の奥から姿を現した。
「久しぶりだねぇ。サルタナ」
「……お前、ノアか?」
「アンタには……こんな所で死んでもらっちゃ困るんだよ」
ノアはかつての面影を感じさせぬほどに、残忍な笑みを浮かべた。
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