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137 強さの果て


「キシャシャシャアッ!!」


 悪魔と化したナーガが高笑いを上げると同時に、凄まじい量の魔力が溢れ出る。俺は毒で溶かされた腕を再生させ、再びナーガのステータスへと目を向ける。


「キシャシャッ! すげぇ再生力だなァ!」


「別に。それよりそのステータス……お前もトリガーだったのか」


「キシャシャッ! いいやァ? 俺はトリガーじゃねぇよ。たしかに、アクマを憑依させると何故かトリガーみてェなステータスになっちまうから、そう言いたくなる気持ちも分からなくはないがなァ」


 そう口にして、邪悪な笑みを浮かべるナーガ。その口ぶりから察するに、どうやらナーガもステータスの変化については何も分かっていない様子。


「ただまァ、アレだ。アクマと契約し、トリガーを仲間に持つ俺だから分かる事だがァ……」


 一区切り置いて、ナーガはさらに続ける。


「トリガーとアクマは似た者同士……どちらもこの世界の法則から外れた存在だって事だなァ」


 この世界の法則から外れた存在。その意味は分からないが、まさかトリガーの力というのは、アクマの……


「でもテッドくんよォ。テメェがそんな事気にしたって仕方ねェだろォ? だってテメェは──」


「ここで死ぬから……か?」


「キシャシャァッ!! 分かってんじゃアアン!!」


 悪魔のような高笑いを浮かべた後、ナーガは両手を思い切り広げた。


邪毒ヴェノム領域プール!!」


 ナーガがそう叫んだ直後、黒みがかった緑と紫が混じった毒々しい液体が、一瞬で地面一杯に広がった。俺は足が猛毒に触れる前に防御魔法の膜を展開させる。しかし、ナーガの放った猛毒は防御魔法をも無視して、俺の脚を蝕み始めた。


「俺の防御魔法と『毒耐性5』を無効化するほどの猛毒か。とてつもなく濃い魔力だな」


「キシャシャアッ! そォんな余裕ぶっこいてるフリかましちゃってェ! 虚勢を張るのは結構だがなァ、早くなんとかしねェと、お前の体がどんどん毒に侵されちまうぜェ!!?」


「一度褒めただけで随分とつけあがるんだな。生憎と何度毒で全身を侵されようが俺が死ぬことは無い」


「……キシャシャッ! なるほどなァ! スキル『不老不死イモータル』とやらのおかげで、光属性の攻撃以外でお前が死ぬことはないってワケかァ」


 俺のステータスを「鑑定」で確認し、「不老不死イモータル」について理解した様子のナーガ。しかしそれを知って尚、ナーガは邪悪な笑みを崩さなかった。


「面白れェ! 俺が毒で何度オマエを殺しても、オマエは無限に復活する。それってつまりィ、無限猛毒地獄って事じゃねェかァ! キシャシャシャッ! それって下手に死ぬよりもよっぽどキツイ事だぜェ!? テメェのそのスカしたツラが恐怖で塗りつぶされるのが楽しみで仕方が無いぜェ!! キシャシャシャッ!!」


 何が面白いのか下品な笑い声を上げ続けるナーガ。たしかにこの猛毒の威力は、今まで見てきたものとは桁違いに凄まじい。俺の「不老不死イモータル」の再生力を上回る速度で、俺の体を溶かし続けている。この毒のせいで身動きが取れなくなっているし、このままでは奴の言った通り、無限猛毒地獄とやらになりかねない。まぁ、このままだったらの話だがな。


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スキル≪毒耐性5≫が≪毒耐性6≫に進化しました。


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 突如、目前にスキル画面が表示される。狙い通りだな。後はこれを繰り返すだけだ。


「ン? はァ? ちょっとちょいちょいッ! テッドくん君さァ、この状況で何スキル画面なんて見てる訳? 現実逃避? 本当は言葉にならないくらい痛くて、苦しくて、ツライ筈だよねェ!? やせ我慢してないでもっとを自分をさらけ出せよォ!」


 何かごちゃごちゃと言い始めたナーガを無視して、俺はスキル画面を見続ける。


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スキル≪毒耐性6≫が≪毒耐性9≫に進化しました。


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「オイオイ無視してんじゃねェよテッドクン! 断末魔を上げないなら死ぬ間際に俺と会話してくれても……アレ、なんか毒が浸食するスピード遅くなってね?」


 俺の体を見たナーガがようやく違和感を口にする。まぁもう手遅れだがな。


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スキル≪毒耐性9≫が≪毒耐性10≫に進化しました。

スキル名が≪毒耐性10≫から≪毒無効≫へと変化しました。


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「さて、こんなものか。思ったよりも早かったな」


「え、アレ? 俺の毒が全然効いてない? ちょっとオ!! どうなってんのよテッドくウん!」


 ついさっきまで、俺の体内では猛毒による細胞の破壊と「不老不死イモータル」による再生が急速で繰り返されていた。そのおかげで、俺の細胞は通常よりも遥かに早く猛毒への抗体……つまり、より強力な「毒耐性」スキルを作り上げる事に成功した。それに加え、体内の猛毒の成分を俺自身でも解析し「毒耐性」の進化をさらに促した。まさかここまで早く毒を無効化できるようになるとは思わなかったが。……というのを、ナーガにいちいち説明するのは面倒なので……


「色々頑張ったらこうなった」


 一言で済ませることにした。

 勿論、理解させる気は毛頭ない。


「──ッ!! ウッッッゼェェェ!!! なッんだァ今のツラ! マジうぜェッ!! 何が『いろいろがんばったらこおなったあ』だよアァ!? スカシてんじゃねェよ漫画とかに出てくるクソキモい無双系主人公にでもなったつもりかよキメェんだよ能面クソ根暗野郎がブチ殺すぞオッ!!」


 ……と、切り札の毒を無効化されたのが余程お気に召さなかったのか、怒涛の勢いで憤慨し、罵詈雑言を浴びせてくるナーガ。おまけに大分馬鹿にした物真似までされる始末で、正直今までの猛毒よりもよっぽど効く毒舌な気がした。だが生憎、俺をよく小馬鹿にしてくる愉快な仲間たちのおかげで、この手の毒舌に対する耐性はばっちり付いているので問題ない。……本当に問題ない。


「まぁ残念だったな。俺を強くしてくれた礼に、その怒りを鎮めてやる」


「誰のせいでキレてッと思ってんだよ殺すぞオッ!!」


 獣のように吠えると、ナーガは凄まじい速度で俺との距離を詰めてきた。だが、別に見えない動きではない。


「『魔伐まきり』」


 俺は向かってきたナーガを黒い大剣で素早く斬り伏せた。


「なガアッ……はやッすぎィ……つか、なんだア……アクマの魔力が消えていくッ!?」


 「魔伐まきり」は相手の魔力のみを斬るスキル。これでナーガの身に憑依したアクマの魔力とやらは無力化された。こんな奴でも生物学上は人間。殺してしまって賞金首の仲間入りなどゴメンだからな。そんな事を考えていた、直後だった。


「ガ、ガギ……ギハハハハハッ!」


 ナーガの笑い声が今までとは違うものに変わった。これはまさか……


「ナル……ほど。オレを……一撃デ倒スとハな。凄まじイ……強さ……だ」


 猛獣の低い唸り声にノイズが混じったかのような不気味な声で話し始めるナーガ。いや、今のコイツはナーガではなく、体に憑依していたアクマの方か。


「ギハ……ハ。そうカ、ヤケニ強いト思ッタガ……オマエがテッド……か」


「俺を知っているのか?」


「アァ……知ってイル。だが残念ダ。オマエとは……もう少しハヤク会えれば……よかっタのダガナ」


「……どういう意味だ」


 アクマの意味深な言葉に、俺はつい反応してしまう。


「ギハハッ……イズれ分かル。オマエは……オレと同じだテッド。このまま強クなり続けれバ……いずれ辿り着ク……。強さの果てに待ってイルのハ……無ダ」


 そう言い残し、アクマは完全に気配を消した。アクマが消え去った事で元の姿へと戻ったナーガは、意識を失ったまま、まるでアクマの抜け殻のようにその場に倒れ込んだ。


「強さの果ては……無か」


 この一言を聞いて、俺は心に重たい何かが伸し掛かったのを感じた。ナーガはたしかに強かった。メルが自分以上だと評価したのは、恐らくこのアクマの力の事を言っていたのだろう。だが、蓋を開けてみれば結局いつも通り。同じトリガーであるメルとの戦いで格段に強くなった俺の前では、結局アクマとやらも雑魚同然だった。やりようのない虚無感に襲われ、ただ一点を見つめていると、突如スキル画面が表示された。


「……そうか。アクマを『復讐の剣(エリーニュス)』で倒したから、スキルがコピーされたのか」


 表示されているスキルはどれもこれも強力なものばかり。だが不思議と、今となってはどうでもよかった。勢いよく表示されるスキルの羅列を、俺は他人事のように眺めていた。


「……アイツらの所へ向かうか」


 空虚な感情で心を埋め尽くされながらも、俺は仲間の元へ戻る事を決めた。


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