135 2つの伝説
黒い怪物をステラたちに任せて先に進んでいると、大きな空洞のような場所に辿り着く。すると、そこで寝転がってくつろいでいるナーガの姿が目に入った。
「お? テメェはたしか、テッドくゥんじゃねぇかァ。こんな所に何しにきたんだよォ」
「やはりお前だったか。あの黒い怪物を操っていたのは」
「おォよく分かったなァ。つーかなるほどォ。テッドくんはアレを止める為に俺を倒しに来たって訳ねェ。じゃあアレの相手は今、キミのお仲間がしてるってことかなァ?」
「あぁそうだ」
「クッ……。ククッ。キシャシャシャシャァッッ!!」
何が可笑しいのか、ナーガは狂ったように笑い出す。
「あァ。キシャシャっ……おもしれェ。随分と愉快な事になってんじゃねェか」
「何が面白いのか分からないが、今の内に笑っておくといい」
「ア? ってちょォちょい。マジで俺と戦うのかァ? つっても俺別にテッドくんと戦う理由がねェんだけどォ」
寝転がったまま気だるそうにそう答えるナーガ。黒い怪物への魔力供給を止めるだけなら、別にこのままコイツを倒してしまっても構わない。だが、メルの言葉が本当かどうか確かめるためにも、コイツには全力を出してもらわねば困る。
「そうでもないだろ。お前が飼っていたバカデカい蛇を殺したのは俺だぞ? 戦う理由は十分にあると思うが」
「あァバジリスクちゃんねー。……あァそうじゃん。そういや俺のバジリスクちゃん殺したのオマエじゃん。あ。なんか急にムカついてきたわマジ殺すわァ!!!」
情緒不安定な様子で突如立ち上がり、手を地面に叩きつけ2つの魔法陣を展開したナーガ。その魔法陣から、黄金の光に包まれた2体のモンスターが出現する。天使のような白い翼を生やした鷲の上半身、獣の下半身を持つモンスター。もう一体は3つの首を持つ巨大な黒い犬のモンスターだ。
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名称:グリフォン
ランク:S+
属性:光、風
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名称:ケルベロス
ランク:S+
属性:闇、炎
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ナーガが呼び出した2体のモンスターのランクはS+、スペックだけ見ればどちらも七幻魔クラスだ。ランクSのバジリスクといい、やはりどう考えてもナーガに使役できるレベルのモンスターではないが、奴は一体どうやって……。
「俺の真の切り札はこの2体。どちらも伝説とされているモンスターだァ! グリフォンの翼は嵐を巻き起こす矛となり、主人を守る絶対の盾となる! ケルベロスの炎は全てを焼き尽く──」
何やらペット自慢が始まってしまったので、ナーガの話を一度耳から遮断する。さて、不要な情報をごちゃごちゃと話している内に、さっさと済ませるとするか。
「──そう! これがグリフォンとケルベロスの力!! つまり、お前は今から2つの伝説を相手にするのようなものさァ!」
ナーガが悦に浸った笑みを浮かべた直後。
血肉が空間ごと切り刻まれたかのような鋭い轟音が響き渡り、大量の血の雨が降り注いだ。
「キシャ? なんぞやァ? この血生臭い雨はァ……」
不思議に思ったナーガが後ろに目を向ける。そこには、ナーガが意気揚々と語っていた2つの伝説とやらが、鮮血を撒き散らすただの血肉の塊となって転がっていた。
「キ……? キシェェェェェェェッ!!?」
切り札が秒殺された事への衝撃なのか、大事にしていたペットが見るも無残な姿になってしまった事への悲しみなのか分からないが、ナーガの奇声混じりの悲鳴は、俺の耳をつんざくほどに不快だった。
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