133 信頼できる仲間
「(……アイツ、あんな顔だったか?)」
以前会ったときのテッドの顔を思い返し、違和感を覚えるサルタナ。当時のテッドは正体を隠すために「擬態」で顔と気配を変えていたのである。
「(いや、それ以前にあの顔……もっと前にどこかで……。そうだ。アイツの顔、テッドに似てやがるんだ。……いや、似てるなんてもんじゃねぇ。髪色や目の色、肌の色とか……少し違う部分はあるが、顔の造形は全く一緒だ。それにアイツの名前も確かテッド……。これが偶然で片付けられるはずがねぇ。だが、テッドは魔王城で俺が殺して……)」
そのとき。
サルタナの頭によぎったのは、魔王城で会ったオリジナルテッドの言葉だった。
「(あのとき、アイツは俺のことを知らない様子だった。あれがもし、演技ではなく本心から言っていた事だとすれば、本物のテッドは……)」
思考を重ねた末、サルタナは目の前の青年こそが、かつて自分が「レッドホーク」から追放したテッドであるという事に気が付く。
「テッドさん! あの女の人に勝ったんですか?」
「メルの事か。勝ったが逃げられた。それよりあの怪物はなんだ」
「知らないわよ。急に壁ぶち破って襲い掛かって来たの。しかもアンタと同じでステータスが文字化けしたモンスター。何か知ってるならむしろ私たちが教えてほしいんだけど、アレあんたの親戚か何か?」
「これが怪物化したトリガーか。という事は……だが、感知できる気配や魔力があまりにも別物過ぎる……」
「はーでたでた。テッドがいつものフルシカトモードに突入したわよ、ステラ」
「本当コミュ障ですよね、テッドさんって」
辛辣な言葉を口にしつつも、どこか安心したような2人の表情がサルタナの目に映った。
「(あの2人が今のテッドの仲間か……。じゃあスカーレットたちは俺を救う為にコイツ等に協力を申し出たって事か……。そうだよな。風の噂じゃノアは行方不明になっちまったみたいだし、流石に2人だけじゃ……)」
かつての仲間たちが自分をきっかけに集まっている事に、複雑な疎外感を抱くサルタナ。だが、このときサルタナは知らなかった。この感情が、サルタナの憎しみの炎を再び燃え上がらせる火種となってしまう事を。
「手を貸そうか?」
「え? テッド君がそんな事言うなんて珍しいね! 本当は驚いてないけどどうしたの?」
「(……? リンリンの奴、やけにテッドと親しげだな。俺たちと話すときは……というか、誰に対しても敬語使ってたのに)」
「あの怪物は相当強い。お前たちだけだと手に余る可能性がある。それに今は気分がいいからな、仕方なく手伝ってやる。感謝しろ」
「うわ! 相変わらずすっごい上から目線だね! 本当はムカついてないけどムカつく!」
「ははっ、まぁテッドらしいといえばらしいけどな。でも、心配しなくても大丈夫だぞ」
スカーレットは一呼吸置いて、その言葉を口にする。
サルタナを再び憎しみの怪物へと変えてしまう、その言葉を。
「私たちは同じパーティの仲間じゃないか。少しは信頼したらどうだ?」
その言葉を聞いた瞬間。
サルタナの思考は真っ白に塗りつぶされた。
「やれるのか? お前たちだけで」
「おいおい。確かにお前には遠く及ばないかもしれないが、共に戦っていく中で、私たちだって強くなっているんだ。少しは信じてくれ。それに……なんだか上手く言えないが、あの怪物は私たちが倒さなければならない気がするんだ」
「そうか。なら任せる。頑張れよ」
テッドが放ったその一言に、フリーズする「バイオレットリーパー」の面々。
「……え、えーー!? い、今の聞きましたか皆さん!」
「アンタが人を鼓舞させるような言葉を口にするなんて……。ひょっとして熱でもあるんじゃないの? うわクソ冷たっ」
「なんなんだよ」
額を触りテッドの体温を確認するも、死体のような体の冷たさにすぐに手を離すジャスパー。
「ぐすっ。テッド君がそんな事言えるようになるなんて……お姉さん嬉しいよ~。まぁ本当はそんな事思ってないけど。よしよ~し」
泣き真似をしながらテッドの頭を撫でるリンリン。それを鬱陶しそうに手で払うテッドを見て、「バイオレットリーパー」(+ドンファン)の表情が明るくなる。仲間ならではのそんなやり取りを見て、サルタナは怨嗟の念を膨れ上がらせていた。
「(仲間……だと。そうか……そうかそうかそうか。スカーレット、リンリン……アイツら『レッドホーク』の看板を捨てて、テッドの仲間になったのか……。そうかそうかそうかそうかそうか……は、ははははははははははははははははははは)」
サルタナの精神が再び崩壊していく。
そして、仲間の輪の中心にいるテッドの姿が再び目に入る。
「(アイツ……テッドの野郎、俺から全てを奪いやがって……。殺す……殺すころすコロスコろすゥッ!!!!!!!!!!!)」
黒い細胞が膨張していき、サルタナの体がさらに大きくなっていく。そして、今まで以上に強大な破壊光線をテッドに向けて放った。
「!! テッドさん危ないッ!!」
サルタナの破壊光線はテッドの背後を取る形で放たれた。あと1秒もしない内に、テッドどころか近くにいるステラたちも消し炭にされてしまうだろう。そんな桁違いの火力を誇る破壊光線を……
ぺしっ!
テッドは振り返ることなく、手を軽く払う動作だけで弾き飛ばした。
「「 え? 」」
テッドたちに直撃する筈だった破壊光線は真上へと突き進んでいき、ダンジョンの天井に綺麗な風穴を開けた。その光景に、ステラたちは唖然としていた。
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