13 才能
ギルドでパーティ申請を終え、正式にパーティを組むことになった俺とステラは、ポカリ街をゆっくりと散歩していた。ちなみに、パーティ名は申請時にランダムに決まるらしく、自分で付けるものではないらしい。
そして、俺たちのパーティ名はと言うと──
「『バイオレットリーパー』……紫の死神か。中二感満載だな」
「いいじゃないですか。貴方にぴったりですよ」
「誰が紫だよ」
「え、怒る所そこですか? というか、髪の毛紫なんだから間違ってないじゃないですか」
どこか呆れた様子のステラ。
どうして呆れているかは永遠の謎だ。
「というかテッドさん、まだ聞いてない事があるんですけど」
「なんだ」
「さっき私を助けてくれた時、瞬間移動でこちらに来ましたよね? どうやって……というか、いつの間にコピーしたんですか?」
「あぁそれか。別にコピーした訳じゃないぞ」
「え、じゃあどうやって……」
「スキルと魔法の違いって何か分かるか?」
「何ですか突然。分かりませんよそんなの」
ストレートに白状するステラ。
俺は説明を続ける。
「スキルは自身のレベルアップによってのみ習得していくものだが、魔法はレベルアップだけでなく自己鍛錬で習得する事もできる。まぁスキルが才能だとしたら、魔法は学術みたいなものだな」
「えっと……つまり?」
「俺は以前、何百もの魔法を使う事ができた。この体になってからはリセットされてしまったが、才能であるスキルと違って、一度会得した魔法は記憶が無くても体がなんとなく覚えてるものなんだよ」
「という事は……」
「あぁ。以前使えた魔法なら、思い出せば感覚で使えるって事だな。全部元通り使えるようになるには、少し時間がかかりそうだがな」
さらっと言った俺に対して、ステラは唖然とする。
「なんていうか、それも十分に才能な気がしますが……。というか、テッドさんズル過ぎますよ」
「なにが」
「不死身の体にコピー能力だけでも反則すぎるのに、その上魔法の学習能力まで一級品だなんて……自分が惨めになります」
珍しく落ち込んでいるステラ。
俺はそんなステラの肩に手を置き、励ましの言葉を送る。
「ドンマイ」
「……人を励ます才能はなかったみたいですね、この冷血人間」
「何を言ってる。今の俺に血なんて流れていないぞ」
「そういう意味じゃなかったんですけどね。そういえば貴方、ダンジョンでカマキリの攻撃で真っ二つになってましたけど、全然出血してませんでしたね。どういう体してるんですか」
「それを知るためにパーティを組んでこれから冒険するんだろ? ワクワクするな」
「ワクワクするならもう少し笑ったらどうですか。表情筋が全然仕事してませんよ」
「今日は非番なんだよ」
「いつもじゃないですか」
くだらないやり取りをする俺とステラ。
まだ知り合って間もないが、コイツと話すといつもこんな感じになる気がする。
「まぁ冗談は置いておくとして。お前は俺の能力を反則だなんだと言っているが、実際は怪物に力を与えられただけに過ぎない。所詮は外付けの力、俺自身には何の才能もないだろ」
「瞬間移動みたいな高難易度の魔法を思い出しただけで使えるようになるなんて、天才以外の何者でもないですよ」
「確かに。天才でごめんな」
「はぁ~本当ウザいです……」
怒るかと思ったが、愚痴をこぼすだけでステラが言い返してくることは無かった。
そういえば……と、俺はふと気になった事があり、それを口に出す。
「ステラ。そういえばお前のステータスを確認してなかった。見せてくれ」
「今ですか……? 貴方は本当にタイミングが悪いですね」
「いいから」
「はぁ、分かりましたよ」
ステラはステータス画面を開き、俺に見せてきた。
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ステラ
レベル:16
職業:勇者
攻撃:64(4)※
防御:80(5)※
速度:96(6)※
体力:80(5)※
魔力:112(7)※
【スキル】
≪鑑定≫
【魔法】
≪回復≫
≪属性付与・炎≫
≪属性付与・水≫
≪属性付与・雷≫
≪属性付与・風≫
≪属性付与・土≫
≪強化・攻撃≫
≪強化・防御≫
≪強化・速度≫
≪弱体化・攻撃≫
≪弱体化・防御≫
≪弱体化・速度≫
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※()内はレベルアップ時に振り分けられるパラメータの平均値。
パラメータの最低値は1、最高値は10。
俺がしばらく黙って見ていると、沈黙に耐えかねたのか、ステラが口を開く。
「あはは……。弱いですよね。勇者なのに魔法はサポート系のものばかりだし、スキルは『鑑定』しか使えないし、パラメータも平均的。こんなんでよく見返したい人がいるとか言えましたよね。どうやって見返すのか私が聞きたいくらいですよ」
「いや、想像以上だ。レベル16でこれなら十分すぎるくらいだ」
「え……?」
俺の反応が意外だったのか、目を丸くするステラ。
「属性付与、強化、弱体化は一通り網羅しているし、総パラメータの平均値は5.4。サポートタイプにしては十分高い」
「で、でも……」
「でもじゃない。十分だ」
俺なりに褒めているつもりだが、ステラはまだ納得がいかない様子。
また言葉選びを間違えたか? と思ったが、どうやらそうではないらしい。
「私が見返したい人は、凄腕の勇者なんです。勇者は基本的には前衛・アタッカータイプじゃないですか。でも私は同じ勇者なのに、こんなサポート系ばかりで……」
「職業なんてのは所詮ただの肩書きだ、役に立てば形はなんでもいい。お前はその見返したい奴にできない事を極めていけばいい。そっちの方が、そいつもお前を認めてくれるんじゃないか?」
「テッドさん……」
「もしオマエが自分の才能を極めてもそいつが認めてくれなかったら、その時はお前が見切りを付けてやればいい。こんな奴見返す価値もなかったってな」
「くすっ。あはは」
「何が可笑しい」
「いえ、テッドさんがそんな事言うなんて珍しいなぁって思いまして……。そっかぁ、そんな風に考えた事、今までなかったです……。サポート魔法ばかりの勇者がいても、そんな例外があってもいいんですね」
「何を言っている、俺を見てみろ。レベルは0のまま、職業、ステータスは全部文字化け、不老不死のバケモノ……こんな例外の塊みたいな奴に比べたら、お前の例外なんて大した話じゃないだろ」
「くすっ、そうかもですね。テッドさん……ありがとうございます」
柔らかい笑顔でそう言ったステラ。
何だかんだコイツに礼を言われたのは初めてな気がするな……なんて思った。
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