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119 殺伐


「テッドさん、仮面の男って……」


 俺の方を見ながら、恐る恐るそう口にするステラ。


「だr──」


「やはり覚えてなかったか」


「ちょっと! いくらなんでも見切りを付けるのが早すぎません!? どこかで聞いたのは覚えてるんですよ! 本当ですよ!?」


 かつて俺とステラは、竜の巣の駆除クエストで仮面の男を名乗るオリジナルテッドに出会っている。だが、人の形をしているニワトリであるステラがその事を覚えている筈がなかったな。まぁそれは置いておくとして。


「アイツ以外にも仮面の男を名乗る奴がいたとは」


「え、何。私以外にもそんな人いるの? あぁそういえば、私が活動してる時に身に覚えのない噂を何個も聞いたけど、もしかしてその人がやった事だったのかな? ちょい納得かも」


 明るい口調だが、心底どうでもよさそうに話す黒マントの女。しかしこの女の声、どこかで聞いた事があると思ったら、仮面を付けたときのオリジナルテッドの声と全く同じだな。この声が仮面の効果によるものなら、コイツを女だと決めつけるのは早計かもしれない。まぁ別に知った事ではないが。


「で、その仮面の男が何の用だ」


「あぁそうそう。ちょっと依頼でね。後ろに邪魔者がいるから殺して来いってさ。つまり君たちのことね」


 なるほど。どうやら俺たち以外にもここに来ている連中がいるらしい。しかし、このクエストの事を知っているのは俺たちだけの筈だが、コイツとその仲間の目的は一体何なのだろうか。


「別にお前たちの邪魔をするつもりはないんだが」


「そうだよね~。でもごめんね。君たちの存在自体が邪魔みたいでさ──」


 直後。黒マントの姿が消えた。


「『瞬殺』」


 その言葉と同時に、黒マントが一瞬目前に姿を現す。そして、凄まじい速度で刃物を振るい、鋭い連撃を放ってきた。俺はその連撃を最小限の動きだけで躱し、同時にステラの周囲に結界を張った。


「ひ、ひいぃ!?」


 キキキイィィンッ! ……と、一瞬の間に金属が何度も弾かれたかのような鋭い高音が響き渡り、ステラは反射的に目を瞑ってしまう。


「へぇ、今のを見切るんだ。しかも同時に仲間も守ってるし……凄いねキミ」


「……」


 俺は黒マントではなく、ステラの周囲に張った結界へと目を向ける。破壊こそされていないものの、結界には無数の傷跡がついていた。


「俺の防御魔法に傷を付けたのはお前が初めてだ、褒めてやる」


「お褒めに預かり光栄……って、言いたいところだけど、私的には結界を破壊するつもりだったから、ちょっとショックだなー。相当な魔力が練り込まれてるね、その結界。しかも私の動きを完璧に見切ってるし。賢者級の魔力にバトルマスター級の戦闘力……マジで只者じゃないね、お兄さん」


「どうも。それよりせっかくの仮面が台無しだぞ。鏡でも見たらどうだ?」


「え?」


 直後。黒マントが付けている仮面の中心から、無数の亀裂が走った。形を維持できなくなった仮面が無数の破片へと変わり、地面にボロボロと落ちていく。


「本当に驚いた……。いつの間に私に攻撃を……」


「お前が俺を斬りつけようとする直前にな」


 そう言って、俺は「硬化」させた中指を黒マントに見せる。俺が奴の攻撃直前に放ったのは、「硬化」させた中指でのデコピン。わざと仮面だけが壊れる威力に調整しておいた。


「あははっ。まさか私が手加減される日が来るなんて思わなかったよ。本当に凄いねお兄さん」


 仮面が完全に崩壊したことで、黒マントの声色が別の女のものへと変わる。そして、仮面のせいで見えなかった黒マントの素顔とステータスが目に映った。



----------------------------------------


メル


レベル:2


職業:????

攻撃:???

防御:???

速度:???

体力:???

魔力:???


----------------------------------------


 目の前に現れたのは、焦げ茶色の髪の女。その姿は、つい先ほど戦ったアイナが変身していた回復術士の女のものだった。だが、そんな事はどうでもいい。問題はコイツのステータスだ。


「お前、トリガーだったのか」


「へぇー! トリガーのこと知ってるんだ。お兄さん、本当に何者……」


 そう言いかけて、黒マント……メルが口を閉じる。そして……


「あはは! なるほどねぇ! どうせ殺すと思ってステータスなんて確認してなかったけど、お兄さんもトリガーだったんだ! しかも同じ『共食い』経験者じゃん! あはは!」


 同類を見つけてテンションが上がったのか、心の底から楽しそうに笑うメル。しかし、その太陽のような笑顔からは、禍々しい狂気が滲み出ていた。


「いいねぇ。お兄さん……テッド君。私、テッド君のこと、すっごい好きになっちゃった♡」


「俺もお前に興味が湧いてきた。トリガーについて、色々聞かせてもらうぞ」


「あはは、いいよ! 私に勝てたらね!」


「なら簡単だな」


「簡単じゃないよ! だって私……今から本気出しちゃうからっ!!」


 俺とメル。互いの殺気がぶつかり合う。

 空間が軋むような、重厚感のあるプレッシャーが場を支配していく。このヒリつく感じ……以前、海でリヴァイアサンとかいう怪物と対峙したとき以来だ。コイツは……強い。


「お前はいいエサになりそうだ」


 俺が黒い大剣を構えると同時に、メルも刃物を構える。強者同士の殺し合いが始まろうとした、次の瞬間だった。


「何やってんの? メル」


 場の空気が、どろっ……とした黒い何かに塗りつぶされていくのを感じた。俺とメルは声のした方へと目を向ける。


「ニナ君……」


 そこには黒髪の少年と、緑色のタトゥーを全身に入れた男が立っていた。



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