117 禍禍
それは、ポカリ草原付近のダンジョンでモンスターが大量発生する前。
サルタナは襲い掛かって来るモンスターたちを返り討ちにし、その血肉を食らいながら、ダンジョンの奥に身を隠していた。
「ぐちゃ、ぐちゃ……。なんだ、コレ。食っても食っても、食い足りねぇ……」
口周りを血でべっとりと汚し、呪詛を唱えるように独り言を口にし続けるサルタナ。
「味がしねぇ、美味くもなんともねぇ……。だが、ずっと腹が減りやがる……。クソが、マジでぶっ殺してやりてぇ……」
食べる肉がなくなったサルタナは、自分の人差し指を噛み始める。そんな狂気じみたサルタナの前に、いつの間にか黒装束を身に纏った人物が立っていた。
「あぁ。もう限界みたいだね、可哀想に」
透き通るような……それでいて、どこか深い闇を覗かせるような女性の声。黒装束の女は優しくサルタナに声を掛けた。
「……誰だテメェ。失せねぇと殺すぞ」
獣のような鋭い眼光で睨みつけるサルタナ。しかし、黒装束の女は一切動じることなく話しを続ける。
「辛いよね。私がその苦しみから解放してあげる」
「……偉そうにしやがって。マジで消えねぇとブチ犯した後で食い殺すぞ」
脅しではない。サルタナは本気で目の前の女を言葉通りにするつもりだった。だが、不思議と体が動かない。
「君がこうなったのは誰のせい?」
黒装束の女は問いかける。
「……俺を捨てた親父とおふくろ、俺より優秀に生まれてきたニナ、ドラム街で俺に地獄を見せた『ブラックファング』、俺にパーティを追放されたテッド、俺を見捨てた『レッドホーク』の奴ら……既に何人かは殺したが、まだまだ……殺したい奴は山のようにいやがる」
「そうだよね、悪いのは全部その人たちであって君じゃない」
「何分かった風な口利いてんだテメェ」
「君の願いは、君が嫌いな人を全員殺すこと?」
「あぁそうだよ。俺の邪魔をする奴、俺を舐めてる奴、俺より偉そうにしてる奴、気に入らねぇ奴……全員ぶっ殺すんだよ」
「じゃあ、その願望を叶える力をあげる」
すると、女の掌に小さな黒い光の球体が浮かび上がる。黒い光の球体は徐々に女の手から離れていき、サルタナの体の中へと入っていった。
「さあ。あとは引き金を引くだけだよ」
「お前、一体何して……がッ!?」
直後。黒い光の球体を取り込んだサルタナの肉体が、ぼこぼこと膨れ上がっていった。
「がッ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァッ!!!?」
「あーあ。お願い事、全然違かったね」
黒装束の女は退屈そうに呟くと、一瞬でその場から姿を消した。
「オグオオオオオオオオッ!! 殺す殺す殺すコロスコロォォォォォォッス!!!!」
信じがたい速度で肉体を膨張させていくサルタナ。その姿は完全に人間の原型を留めていない。禍々しい肉槐そのものであった。膨張を繰り返すサルタナの肉体から禍々しい黒い液体が大量に分泌されていき、地面を黒く染め上げていく。そして、広がっていく黒い液体の中から、大量のモンスターが出現し始めたのだった。
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