116 逸材
一方。ダンジョンの入り口付近でモンスター軍団と戦っていたジャスパーたちは、モンスターたちの死体の上で呑気に休憩を取っていた。
「思ったより早く片付いたわね」
「いやいや何を他人事みたいに。初っ端ジャスパーちゃんが『魅了』を使って、オスモンスターの動きを全部封じたおかげでしょ。本当はそんなこと思ってないけど」
リンリンはどこか呆れたようにそう口にした。
「相変わらずとんでもない能力だよな」
「アンタには『魅了』効かないでしょ、ドンファン」
「まぁそれはそうなんだがよ、前にギルドの奴らが『魅了』を前に何もできずに倒れていったのを思い出してな」
「あんな酒クズ共、誰でも倒せるでしょ」
「たしかに。アイツら、本当に弱いからな」
ダンジョンの入り口付近で酔い潰れている酒カス共に目を向け、呆れた表情を浮かべるドンファン。
「というか、お前も上級職に転職していたんだな。ドンファン」
モンスターからアイテムや素材を剥ぎ取りながら話しかけるスカーレット。
「おう! 俺は『筋力強化』の一点張りだからな! ここまで来るのに本当に苦労したぜ!」
「なんだその地獄みたいな難易度の縛りプレイは。というか……」
スカーレットはドンファンのステータスへと目を向ける。
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ドンファン
レベル:70
職業:筋肉仙人(上級職)
副職:格闘家(レベル100)
攻撃:770(11)
防御:630(9)
速度:490(7)
体力:630(9)
魔力:70(1)
【スキル】
≪筋力強化≫
筋力を一時的に強化する。
≪筋力蓄積≫
筋肉エネルギーを蓄積させる。
≪筋肉我慢≫
スキル発動中、身動きが取れなくなる代わりに防御力が格段に上昇する。また、スキル発動中に受けたダメージ量に比例して筋肉エネルギーが溜まっていく。
≪筋肉砲≫
蓄積された筋肉エネルギーを拳に乗せて放つ。
【魔法】
なし
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「『筋肉仙人』なんて上級職、聞いた事がないんだが……。というか、攻撃の平均パラメータが11って……。振り分けられるパラメータの最高値は10じゃなかったのか?」
色々とツッコミ所が多いドンファンのステータスに思わず苦笑いを浮かべるスカーレット。
「どっかで聞いた話だけど、上級職の中でも特定の条件を満たさないと転職できないものがあるみたい。ドンファンの『筋肉仙人』もその1つなんじゃない? もっとも、その特定の条件とやらを満たすのは鬼ムズイらしいけどね」
「そうなのか。というか、特定の条件って……」
「例えば『筋肉仙人』の場合、スキル『筋力強化』のみでレベル100まで到達する……とか?」
「そんなバカな話……」
「あり得なくはなくない? 現にコイツはそれ一本でここまで来たみたいだし」
唖然とするスカーレット。それを見たドンファンは満面の笑みで胸筋をビクンッ! ビクンッ! と動かした。しかし、2人はそれを無視して話を続ける。
「じゃあ、攻撃の平均パラメータが11というのは?」
「極稀にだけど、一つのパラメータに特化しすぎて限界を突破する奴がいるみたい。たしか『超越者』とか呼ばれてた気がする。ちょっと名前カッコ付けすぎよね。テッドとかが付けそう(笑)」
「いや別にそんな事は思わないが……。しかし、まさかドンファンがそんな逸材だったとはな。一途な愛情というものを履き違えて、歪みに歪みきってしまった大変態としか思っていなかったが」
「お前そんな失礼な事思ってたのか。しかし歪んだ大変態か……。エレナちゃんにそう呼ばれたらと思うと凄く興奮するな。死ぬ前にエレナちゃんに言われたい台詞集に加えておくとしよう」
謎に満足げな顔でそう口にするドンファン。愛する女性の刺青で全身埋め尽くされた男が、ほぼ全裸の状態で天を仰ぐその姿は、まさに歪んだ大変態に相応しいものだった。その様子を呆れながら見ていたリンリンだったが、直後、何かを感じ取ったようで、鼻をすんすんと鳴らし始めた。
「どうしたリンリン。何かあったのか?」
「いや……。奥からモンスターの匂いがするような……。それも凄い数……」
少し遅れて、大量のモンスターの気配を感じ取ったジャスパーたちは、ダンジョンの奥へと目を向ける。
「あ~あ。さっさと終わらせて飲みたかったのに。これは思ったより長引きそうね……」
「どういうことだ……。この数、ギルドから聞いていた数よりも遥かに多いぞ……!」
その場の全員がすかさず戦闘態勢に入る。
直後、凄まじい数のモンスターたちが闇の奥から押し寄せてきた。
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