113 泣きっ面に蜂
「ステラ! サンダーーーーッ!!」
七色の稲妻が迸り、辺り一帯を焼き焦がしていく。かろうじてステラサンダーを躱し続ける偽物だったが、惜しくも一発貰ってしまい、勢いよく地面に倒れてしまう。
「くそがぁ! なんなんだよ、この出鱈目なスキルのオンパレードはよぉ!」
「はーはっはっはぁ! これで終わりですよ偽物さん! 私に勝手に化けた事を後悔するんですねぇ!」
ステラの体が先ほどよりも神々しい七色の光に包まれていき、猛スピードで偽物へと突進していった。
「く、くそおおおおおおおおおおッ!! この俺が……こんなところでええええええええッ!!!」
7秒後。
「すいませんテッドひゃん。あのひとめっちゃ強いれすね……。ぐはっ」
「お前が負けんのかよ」
顔面を蜂の巣にでも突っ込んだのかというくらい、ステラの顔はボコボコに腫れ上がっていた。何が起こったのかを説明すると……。先ほど必殺技を放ったステラだったが、足が回復した偽物にかろうじて躱されてしまい、顔面にカウンターを貰ってしまった。そして、そこからはとにかく早かった。現在同じステータスを持つ偽物とステラだったが、戦闘技術の面で大きな差が出てしまい、シンプルに肉弾戦でフルボッコにされてしまったのだ。
「あの流れでよく負けられたな、お前」
「だ、だって! 私だって頑張りましたもん! マジですもん! う、うわあああん!」
泣きじゃくるステラ。まぁいくら強くなったとはいえ、あの偽物の相手はまだステラには早かったか。様々な人間に変身して戦ってきたからか、偽物の戦闘経験値は相当高い。最初はステラのユニークスキルに面食らってしまったようだが、冷静さを取り戻せばこうなるのは自然な流れと言えるだろう。
「ふ……はは! か、勝ったぞ! 約束通り……俺を逃がしてくれるんだよな!?」
みっともない言葉を口にする偽物。そういえばそんな約束してたかもな。
「その前に聞きたいことがある。お前は一度変身した人物になら、何度でも変身できるのか?」
「あぁ? 急に何の話だよ……。まぁいいか。変身した人物の情報をストックしておけば何度でも変身できるが、ストックしておける情報は3人分までだ。ストックが埋まってる状態で他の奴に変身すると、一番昔に変身した人物の情報が新しい人物の情報に上書きされる。まぁいらないストックがあったら先に消しておいて、余白を作っておくことも可能だがな」
予想以上にべらべらと喋り出す偽物。余程自分のスキルに自信でもあるのだろうか。だがまぁ、いざ聞いてみれば、実に取るに足らないスキルだったな。もしそのストックとやらに制限が無ければ、長い目で見れば「復讐の剣」を超えるスキルになるかもと思ったんだが。残念だ。
「……」
「な、なんだよその目。物凄い期待外れ感出しやがって……」
「ステラ。お前に花を持たせてやる。目を瞑れ」
「え、なんですか? まぁよく分かりませんが、分かりました!」
馬鹿正直に目をぎゅっと瞑るステラ。俺はすかさずステラの胸倉を掴み上げ、偽物目掛けて思い切りステラをぶん投げた。
「え?」
咄嗟のことで面食らってしまい、完全に出遅れた偽物。砲弾のような勢いで飛んできたステラの頭突きが、偽物の腹部に直撃する。
「ぽぎょっ──!?」
ステラキャノン(仮)の衝撃をモロに食らった偽物は、凄まじい勢いで吹き飛ばされてしまう。そして、何も知らずに大砲代わりにさせられたステラは、偽物と衝突した際のダメージに耐え切れず、そこらじゅうをのたうち回っていたが、しばらくすると気絶してしまった。
「一件落着。まぁ、ほどほどには楽しめたな」
口から泡を吹いて倒れているステラを見下ろしながら、俺は思ってもいないことを口にしていた。そういえば、ステラに化けていたあの偽物は結局何者だったのだろうか。うっかり聞きそびれてしまったが、まぁ興味も無いしどうでもいいか。
◇◆◇
「ぐ……ぶえっ! 仲間をぶん投げて攻撃とか……イカレてんのかあの野郎……」
ステラキャノン(仮)でダンジョンのどこかへ飛ばされてしまった偽物は、満身創痍の体で弱弱しくそう呟いた。
「けど……もう分かった。アイツは……俺が手を出していい存在じゃねぇ……。同じ遺伝子から作られたとは思えないほど別格だ……。もう俺は、アイツには関わら──」
「なーーんの話してんのォ? ア・イ・ナ・ちゃァん♡」
突如。偽物の背後から、怪物染みた男の声が聞こえてきた。
「『黄色の1』……。違う姿をしてるけど、この子がアイナを殺した犯人で間違いなさそうだね」
偽物が振り返ると、そこには「グリーンヴェノム」の3人が立っていた。
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