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110 お遊び


「どうして……。どうして俺が偽物だと分かった」


 偽物の口調が変わる。外見、声はステラそのものだが、まるで別人のような印象を受けた。俺に成り済ましを見破られたのが余程ショックだったのか、動揺を隠せずに本性が出てしまったみたいだな。


「どうしても何も、お前がステラに化けるように誘導したのは俺だからな」


 俺は淡々と事実だけを告げる。


「なっ……は? 何を言ってやがる!」


「街に帰って来た時点で、お前が俺を狙っている事には既に気が付いていた。あのときのお前の視線から、ほんの僅かに俺への殺意を感じたからな。そこで俺は、僅かに感じ取れるお前の気配を辿って解析を始めることにした。気配をほぼ完全に消しきったお前の居場所までは分からなかったが、解析の結果、お前が『変身』というスキルを所持していることが分かった。能力は『対象の人物に5秒触れることで、その人物への変身が可能になる。また5秒の接触後、その人物の記憶を全て把握できる。さらに変身時、ステータスが変身した人物のものに変更される』……だったか」


「お前ッ……! なんでそこまで知って……!?」


 俺の感知、解析スキルが想定以上だったことに対し、動揺を隠せない様子の偽物。だが、俺は無視して続ける。


「狙いが俺であること、お前がずっと俺たちの動向を注視していたことから、お前が俺の仲間に変身して近づいてくるであろうことは予想がついた。そして、そこまで分かれば誘導も容易い。俺は街に入る際に抱きついてきたステラを敢えて放置した。ステラに化ければ俺に接触できる確率が上がると、お前に思わせる為にな」


「はッ。確かに俺はお前の思惑通り、ステラとかいう女に化けることを選んだ。だが、そんなモンは偶然だろ。もし俺がお前の思惑通りに動かず、他の仲間に化けていたらどうするつもりだったんだよ」


「問題ない。他の連中は普段、俺に過度に接触してくることはない。お前がいくら他の仲間に化けて、ソイツを完璧に演じようが、狙いが俺である以上は必ず不自然な接触が生まれる。だがステラの奴は普段から鬱陶しいコミュニケーションを取ってくるからな。偽物のステラに過度な接触をされたとしても違和感がない。だからこそ、敢えてお前にステラに化けさせることを選択させた。偽物だと分かっていれば、ステラだけを警戒しておけば済む話だからな」


 俺の思惑通りに動いてしまったのが癪で仕方が無いのか、徐々に偽物の表情に苛立ちが見え始める。


「……ならッ! そこまで分かっていて、なんでステラとかいう女を見捨てた? いくらでも助けるチャンスはあっただろ」


「見捨てた、というのは?」


「あの女は殺したぞ。本物にチョロつかれると面倒なんでな」


 何故か勝ち誇ったような顔を浮かべる偽物。最早俺を痛めつけられれば手段は問わないといった様子だな。しかし、この盲目的な感じ、どこか既視感を覚えるのだが……まぁ今はどうでもいいか。それよりも、壮大な勘違いをしている偽物にさっさと事実を教えてやるとしよう。


「お前が殺したステラは、ステラに擬態させた俺の分身だ」


「は……はぁ!?」


 声を荒げる偽物。中身が偽物だと、普段ステラがしないような表情が見れて中々面白いな。


「どういう事だ……。いや、それはあり得ない……! 俺は確かにステラの記憶を──」


「ステラの姿に『擬態』した俺の分身に、ステラの記憶とステータスをそのまま複写しておいた。つまり、お前が見たステラの記憶は俺が複写したものだ。複写自体、試すのは今回が初めてだったが、上手くいったようで何よりだ」


 ちなみに記憶の複写は、以前ノアが俺に対して使った精神魔法の応用で、ステータスの複写は「復讐の剣(エリーニュス)」の応用だ。ただし、この複写を行使できるのは分身に対してのみ。そして、記憶の複写に関してはその中身を見ることもできない。ステラの過去には少し興味があったんだが、まぁそれは機会があれば本人にでも聞いてみるとしよう。


「そんなことまで……。だとしても、いつの間に分身なんて……」


 すると、偽物が何かに気が付いたような表情を浮かべた。


「そうか……。宿でステラが眠っている隙に、ステラの記憶とステータスを複写した分身を作ったのか。ということは、お前が合言葉を伝えていたのは、ステラではなく分身の方だったという訳か」


「そうだ。さもステラを眠りから起こして、合言葉を伝えたかのように見せかけた。無論、そのとき本物のステラは『擬態』で透明化させて、分身の視界に映らぬようにしておいた」


 ちなみに本物のステラは今も尚、宿で惰眠を貪っていることだろう。


「……はっははは!」


 俺の言葉を聞いて、偽物は狂ったように笑い出した。


「……なぁ、1つ聞いていいか」


「あぁ」


「そこまで分かっていながら……いや、それほどの力を持っているなら、本気でやれば俺を探し出すことも容易だった筈だ。どうしてそうしなかった。なんでこんな回りくどいこと……」


 その疑問はもっともだな。正直言ってしまえば、街に帰って来た時点でもっと本気で感知、解析をしていればコイツの居場所を突き止めることも可能だった。だが、そうしなかったのは……


「暇潰しだな」


「……は?」


 俺の言葉の意味が理解できなかったのか、唖然とした表情を浮かべる偽物。


「街に帰って来てお前の解析をした時点で、お前が取るに足らない小物であることは分かったからな。瞬殺しては面白みがないし、折角だからお前の土俵で遊んでやろうと俺なりにあれこれ考えただけだ」


「お前にとっちゃ、全部お遊びだったって訳か……笑えねぇな。だが、それにしては随分と綱渡りだったな」


「というと?」


「さっきも言ったが。お前がいくらあれこれ策を巡らせようが、俺がお前の思惑を無視してステラ以外の仲間に化けていた可能性もあった。そしたら、分身を用意していない他の仲間は普通に殺されてたことになるんだぜ」


「あぁそうだな。で?」


「仲間の事なんかなんとも思っちゃいねぇって訳か……。自信過剰で自己中心的……オリジナルとは全く似ても似つかねぇと思っていたが、案外根っこは一緒なのかもな」


 偽物が何かぶつぶつと言っていたが、よく聞き取れなかった。興味が無いのでどうでもいいが。


「は……ははは! いいぜいいぜ! 想像以上にぶっ飛んでやがんな最高傑作! こうなりゃ小細工はナシだ! 力づくでテメェを叩き潰してやるよォ!」


 直後。

 ステラの姿から、見覚えの無い赤髪ツインテールの少女へと姿を変えた偽物が、猛スピードでこちらへ迫って来た。俺は迫って来た偽物の攻撃を素早く躱し、顔面を思い切り殴り飛ばした。


「!? ぐぼぉっ!!?」


 殴り飛ばされた偽物が、大砲のような勢いでダンジョンの壁に直撃する。正直、遠距離攻撃を使えば奴の『変身』への対策は簡単だが、それではつまらない。5秒触れられぬように、近接格闘術だけで奴を叩き潰す。そっちの方がいい遊びになりそうだ。


「来い。遊んでやる」


 わざとらしく手招きしながら、俺はそう口にした。


お読みいただきありがとうございました!

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